ギルドへの呼び出し


「そこまで!用紙を回収しますのでペンを置いてください」


商業ギルドにて工房営業許可を得るための試験を受け、それが今終わった。

一通り問題は解けたはずなので、大丈夫だとは思っているが、それでも結果が出るまでがわからないのがこの試験だ。

最悪責任者であるクレイだけでも合格できれば工房の営業許可は得られるだろうが、いろいろとその後の手続きとかで面倒になりかねないので、望むべくは全員合格だ。


「さて、それではこれよりこちらのテストを採点します。提出された製品の鑑定結果と共に工房営業許可を与えるかどうか判断させてもらいます」

「その判断はいつおりますか?」

「問題がなければ明日。何かしら追加で確認する要項があればそれによって数日程後になります。こちらから連絡事項があった際は朝に郵便を届けることになりますが、お届け先は先ほどの申請書類の住所でよろしいでしょうか」

「はい」

「わかりました。では本日行うことは以上となります。何かありましたらまた後程ギルドから書面が届きますので」

「わかりました」


その後軽い挨拶を済ませてから部屋を出る。


「くぁ~…疲れた」


部屋を出たとたんにレンが体を伸ばす。


「で、どうだったよ」

「たぶん大丈夫だとはおもうけど…どうかしらね」

「自信はそれなりにあるけど、それでも結果が出てくるまではわからないよねー」

「ま、やるべきことはやったんだしあとは結果を待つだけだよ。とりあえず親方と合流して今日は帰ろっか」

「だな」


四人はその後他愛もない会話をしながらギルドの廊下を歩いていく。

そして一階へと降りると、すでに一夜がおり椅子に座って待っていた。


「おう、戻ってきたか」

「親方、お待たせしました」

「全部終わったか?」

「はい、結果は何事もなければ明日わかるそうです」

「そうか。とりあえずはまた明日だな。まあ、明日の朝にたぶんギルドから何らかの書面が来るだろう、それに従え。さすがに明日からは俺はついていく気はないがな」

「ええ、さすがにそこまで世話にはなれませんって」


ついてきてくれるのはありがたいが、いつまでもおんぶにだっこというわけにはいかない。

自分たちで工房を営業するのなら、ある程度の事は自力でどうにかできるようにならないといけない。


「まあ、お前らはこれから新しいことも始めることになるだろう。特に付与付きの装備を売るとなると値段を決めるのだって大変だろう。いろいろと悩むことも有るだろうが、ある程度の助言くらいはしてやるからいくらでも相談しろよな」

「ありがとうございます」


その後テストの事を話しながら今日は一旦工房へと帰宅した。


そして翌日の朝。工房を建てる際に設置したポストの中にギルドからの書簡が届いていた。

全員がソワソワしている中クレイが代表して書簡を開けて中の手紙へと目を通していくが、クレイの表情が訝し気な物に変わった。


「どうしたんですか?師匠」

「んー…呼び出しだね、これ」


そう言って全員に見えるように手紙を広げる。そこに書かれていたのは…。


『付与魔法の有用性確認のため、クラフターのクレイへの出頭要請と付与魔法の実演要請』


と書かれていた。

その下にはいろいろと回りくどい文面が書かれていたが、要約すると今までの付与とは全く違うものが提出され、ギルドとしても判断しづらい。それゆえ、この付与がどれほどのもので、どれだけ持つのか、価値はどれほどか、それらを調べるために一度ギルドへと来るようにということだった。


「そういやクレイが普通に扱えるようになったから忘れてたけど、もともとクラフターが行える付与って結構早い段階で剝がれたり剥がれなくても魔力の充填とか手間が必要だったな」

「そういえばそうね。クレイのはそう言った話聞かないわよね」

「師匠の付与はそう言うのなくても大丈夫なようになっていますからね」

「そう言うトリスだって僕と同じ付与できるじゃん」

「師匠に教わったからですよ。それ以前の付与は世間一般で言われている付与と同じでしたからね」

「まあ、僕も最初はそうだったけどさ」


どことなく懐かしい記憶となって居る付与の悪戦苦闘の日々。最初は素材に付与し、その後トーマスに譲ってもらった魔物素材の付与に挑戦。そこでやり方を見つけて今に至っている。いろいろと苦労もしたが、今ではそれも楽しい思い出の一つだった。


「とりあえず朝食食べたらギルドに行ってみるよ。みんなはどうする?」

「あー、どうするか。付与関連なら俺達行っても意味ないよな?」

「そうね。ほかに何かあるのなら一緒に要件として書いてあるでしょうし」

「うん、私たちは邪魔になってもいけないし、今日は工房で作業してるよ」

「私は師匠についていきます。私がいれば付与に関しては師匠だけじゃなく他の人にもできるということの証明にもなりますし」

「いいのか?それするとクレイが行う付与の希少性とか落ちるんじゃね?」


トリスの言葉にレンが問いかけてくる。


「んー、商売としては確かにそのほうがいいかもしれないけど…僕としてはクラフターの不遇職って汚名を消したいからね…それならやっておいた方がいい気がする」

「あー、そういやそうだったな。だったら行ったほうがいいか」

「うん。じゃあ僕とトリスで行ってくるね」

「はい」


そこで一旦会話を終えて朝食の用意をし始めた。



朝食を食べた後、トリスと共に商業ギルドへと赴く。


「すいません、ギルドからくるように言われたんですけど」


受付にてそう言いながら朝来た書簡を差し出す。


「確認いたしますね」


書簡を受け取り、受付の人が奥へと下がっていく。そして少ししてから戻ってきた。


「確認いたしました。直接お話をお伺いしたいようですのでこちらへとどうぞ」


そう言って受付の人の案内で昨日と同じようにギルドの階段を上る。しかし今回は2階ではなく、その上の3階まで上った。

そして一つの大きな扉の前へと行くと扉をノックした。


「ギルド長、お連れしました」

「入れ」


ギルド長と言われ、クレイとトリスは驚きの表情を浮かべる。まさかいきなりギルド長が出てくるとは思っていなかったからだ。


「失礼します」


そんな二人の驚きに気づかないのか、気にしていないのか、扉を開け受付の人は先に中に入る。クレイとトリスもおずおずと中に入ると正面にいかつい顔をした男性が座っている。おそらくその人がここの商業ギルドの長だろう。

それとは別に四人ほど年配の男性がいるのだが、その誰もが訝し気な表情でクレイ達を見ていた。

案内してくれた受付の人はその後礼をしてから部屋を出る。残されたクレイとトリスは味方がいない部屋に取り残されてしまった。


(…親方に相談したほうがよかったかな…)


まさかこんな状態になるとは思っておらず、クレイはトーマスに何も言わずに来たことを後悔していた。


「さて、君がクラフターのクレイかね?」

「はいそうです」

「もう一人の子は…」

「弟子のトリスです。同じクラフターです」

「そうか。私はこの商業ギルドで長をしているレスターだ。まあ大概の奴はギルマスと呼ぶがな」


確認の後に軽い自己紹介をしたギルマス。その言葉が途切れたとたんに左右にいる男性の一人が口を開いた。


「おいおい、本当にこのガキ共があの付与をしたっていうのか?」

「ガル、それを確かめるためにも呼んだんだ。余計なちゃちゃを入れるな」


ギルマスににらまれてガルと呼ばれた男性は肩をすくめた。


「さて、前置きはいいだろう。あの付与に関していろいろと確認したい。だが、まずは君が本当にあの付与をできるのかを確認させてもらう」


そう言ってギルマスは一本のロングソードを机の上に置いた。


「これはギルドのほうでも卸している一般的なロングソードだ。これに付与をかけてほしい」

「いいですけど…。付与の内容は切れ味上昇でいいんですか?」

「構わない」

「わかりました」


頷いてロングソードを手に取る。クレイの一挙手一投足に注目を集めているが、当人は作業に入るとそれらはすべて一切気にならない。

いつも通り集中し、ソードの魔力の壁を押して場所を作り、切れ味上昇の付与をする。


「…終わりました」


クレイの言葉に全員が驚きの表情と共に差し出されたロングソードを手に取る。おそらくここにいるのだからそれなりに鑑定の能力を持っているか見抜く目を持っているということだ。それならばいちいち説明する必要もないだろう。


「確かに付与されている…」

「信じられない。こんな子供が…」

「だから言っただろう。あのトーマスの差し金だ。疑うだけ無駄だ」


ざわざわと騒いでいる大人達にギルマスが告げる。

クレイ達がテストを受けている間にトーマスはひっそりとギルマスに話を通しておいたのだが、それでもやはり付与に対する疑念をぬぐえなかったようだ。


「ちなみにこれはどれだけ保つんだ?」

「それが…いまいちわからなくて」

「わからない?」

「はい。以前は一日か数時間で剥がれてしまいました。しかし、いろいろと悪戦苦闘しつつ、何とか今の手法を確立したのがおよそ1年ほど前なので…そのころに作った物がまだ剥がれていないのでしばらくは大丈夫だとは思いますが、あくまで保管していればという状態です。経年劣化や使うことでどうなるか、といった情報が足りないんですよ」

「なるほど。つまり突然剥がれることも有れば、武器が残っている限りは解除されない可能性もあるということか」


ギルマスの言葉にクレイは頷く。


「武器の使用に関しては自分ではどうにもできなかったので調査不足は否めません。そして時間経過による経年劣化に関しては一年では確認できませんでした。とはいえ時間的にはまだ短い方ですので、一概に剥がれないとは言えません」

「そうか。店でこの付与に関しての依頼の受付は行うのか?」

「はい。それに関しては金額のほうはまだ決めておりませんが、素材などは特に必要ないことと自分の魔力を使うので数が限られていること。そして素材によって難易度などが変わることからおよそその商品の金額の0.3~0.7倍ほどの金額で決めようかと思っております。付与などがはがれた場合のアフターサポートとしては、修理などと同等の金額にしようと話し合っております」

「金額のほうに幅があるようだがそれはなぜだ?」

「そちらのロングソードには切れ味上昇のみを付けましたが、自分は複数の付与をかけることができます。そして付与によって難易度も変わりますし、数が増えれば当然能力の強さも変動します。そう言った部分のバランスによるものです。数が増えれば金額が増えると簡単に考えていただければいいです」


クレイの言葉にギルマス以外も驚きの表情を浮かべていた。


「………それは君だけができることか?」

「いえ、クラフターならばやり方さえ分ければおそらくできることだと。現に弟子であるトリスも可能ですし」


クレイの言葉にトリスが頷く。


「二人が特別だという可能性は?」

「わかりません。これに関してはクラフターの数が少ないのもあって試行回数が少ないですから」

「そうか」


クレイとトリスは普通に付与ができるようになったが、それが特別な事かどうかは二人にはわからない。やり方がわかり、その通りに何度も試行錯誤してできるようになったのだから他の人もできるとは思うが、誰でもできるかと聞かれて頷けるほどではない。


「わかった。こちらで確認したいことは以上だ。他の者で聞きたいことはあるか?」


ギルマスが問いかけ周囲の人物を見回すが、全員が押し黙っていた。


「ないようだな。ではクレイにトリスよ。わざわざ出向いてもらってすまなかったな。おそらくこれで君たちの工房に関して乃問題点は解決した。手続きの影響で明日になるだろうが、君たちに工房許可を出すようにしよう」

「ありがとうございます」

「工房を営業できるようになったとはいえ君たちはまだ若い。これから勉強することも多々あるだろう。これからも精進を続けるように」

「はい」


その後これからまだ話し合いが必要だからとクレイとトリスだけ部屋を後にし、二人は工房へと戻っていった。


そして翌日。ギルマスの言う通り、工房営業許可の試験の合格を告げる書簡がクレイ達の元へと届くのであった。



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