商業ギルドの試験
トーマス達の試験を合格し、これで商業ギルドに工房営業許可証を出すことができるようになった。
と言ってもまだクレイ達は12~13歳。さすがに若すぎるせいでまともに取り合ってくれるかわからないので代表してトーマスが共に来てくれることになった。
「さて…とりあえず支部でやるとするか。あそこの支部長頭硬いんだがな…」
「そうなんですか?」
「ああ。有能ではあるんだがなぁ…。正直王都のほうで許可を取りたいところなんだが…」
「でも、それやると毎回更新の時に王都に行かないといけないから結構大変ですよね」
「まあな」
「それにたぶんいろいろと厄介なことも起きますよね?親方は良くても俺達では太刀打ちできないので…」
「確かにな。不要なトラブルまで背負い込む必要はないよな」
そんな話をしながらしているのは商業ギルドへと持っていく品の選定だ。数が多いと時間がかかるので、それぞれの代表作のようなものを数本持っていくことになった。
そんなわけでそれぞれが選び、それを今クレイとトーマスは待っている状態だ。
ちなみに選ぶのは売却予定の品質の物であり、下手に良い物を持っていくと後々面倒になるので、同じような品質の物を一定数持っていくこととなっている。
「そういえば親方、僕たちの工房っていろんなものを扱えますがどういう工房で申請すればいいんです?」
工房の営業を求める際、商業ギルドには扱う商品の申請が必要となる。
鍛冶がメインであれば鍛冶場として、食料品や料理であれば食堂になる。
「そうだな…武器防具屋…いや、それ以外も取り扱ってるか。それなら…雑貨屋が一番近いんじゃねぇかな」
「雑貨屋かー。でも、工房の代表ってクレイだよね?それでいいの?」
「いいも何も僕は付与がメインだし…。商品に関しては皆が作るのが主だからねー」
「確かにそうかもしれないが、お前だってこれくらいの物なら作れるだろ?」
「んー…どうだろうね…少し届かないかもなぁ」
商品となる製品は大体はレン達の全力の7~8割程度の品質だ。確かにクラフターならばそれくらいの品質の物なら届くかもしれないが、それは全力で作った際に届くかどうかというレベルだ。さすがにそれを量産するのは現実的ではない。
「付与をメインにするのはどうですか?師匠の付与すごいですよね」
トリスがそう言ってくるが…。
「まあ、そうなんだけどそれだとレン達の商品がおまけになっちゃうからねー。さすがに作品作る作成者としてはそれは嫌なんだよね」
「ああー…確かにそうですね」
トリスも同じクラフターであるが、それでも物作りが好きだからその職業に選ばれた。だからクレイの言葉にも納得してしまう。
「まあ、とりあえずできることを申請して雑貨屋として登録するとして…。レン達選定終わった?」
「おう、終わったぞ」
そう言っていくつかの作品が机の上に広げられる。剣や槍、革の防具やバッグ、服や帽子、様々な物が机の上に並べられる。
「よし、じゃあこれら全部預かるね」
「うん。お願い」
空間収納へとそれぞれの作品をしまっていく。
「よし、じゃあ準備できたから行くか」
「トリスはどうする?」
「私はお留守番しています」
「そか。じゃあお願いね。行ってきます」
「はい、いってらっしゃいませ」
笑顔のトリスに見送られ、クレイ達はいざ工房営業許可を取るために商業ギルドへと向かった。
商業ギルドは商人の管理を主にしており、大きな取引や新しい商会、工房などを管理する立場となっている。取引に関しては原則公平であり、商会や工房に関しても開くには厳格な審査が必要となる。
法律や規約のテストに工房であれば販売する製品の品質チェック。それだけでなくある一定の地位を持った人物の紹介状などが必要になる。
今回紹介状に関してはトーマスとシェフィ、ペターの三人からの紹介状があるから大丈夫だと入っていた。仮にダメだった場合の秘密兵器ももってきているとトーマスが笑っていた。
商業ギルドの門をくぐり、受付のほうへと行く。
「いらっしゃいませ、商業ギルドへようこそ。本日はいかがなさいましたか?」
「すいません、工房の営業許可を取りたいのですが」
代表してクレイが受付に要件を伝える。
「かしこまりました。では代表の方はどなたですか?」
「自分です」
そう答えたクレイに対し、受付嬢はわずかに表情が険しくなった。
「…紹介状はございますか?」
「はい」
空間収納から紹介状を取り出し、受付嬢へと渡す。受付嬢は封筒を開け、中にある紹介状を広げ、目を通す。
「………はい、確認いたしました。それではこちらへどうぞ。いろいろと手続きや試験が必要なのでそれらを行う場所へとご案内いたします」
「わかりました」
「うし、じゃあ頑張ってこい。俺はちょっと先にここのギルド長へ話してくる」
「はい」
トーマスに見送られ、クレイ達はギルドの奥へと入っていく。
通路を歩いていく中、クレイ達の表情は緊張で少し険しくなっていた。
「こちらへどうぞ」
そう言って案内された一室へと四人は入る。
「さて、ではテストの前に必要事項を書類に書いていただきます。その間に製品のほうをこちらで査定いたしますので出していただいてよろしいでしょうか」
「わかりました」
空間収納から複数の製品を机の上へと置いていく。
「あなたはクラフター…ですか?」
「はいそうです。主に付与を担当しています」
「付与を…ですか。それはこちらの品にも?」
「かけてあります」
「わかりました。それらの確認もさせていただきます。ではこちらの書類に必要事項を書いてください。その間こちらはお預かりいたします」
そう言って受付嬢が製品を一通り台車へと乗せて一度部屋を後にした。
「ふぅ…クレイ、それ何かいてある?」
「ん?工房の種類とか扱う品とか代表者とかそういう感じのものだね。場所とか連絡先とかも書く場所がある」
そう答えつつ必要事項を書いていく。
「それにしてもあの製品大丈夫かな…」
「大丈夫だろ。親方達のお墨付きなんだし」
「付与がかかっているのをどう見るかってのもあると思うけどねー」
カリカリとかいていく中レン達が雑談している。
そして少ししてから部屋を出ていった受付嬢が4枚の紙を持って戻ってきた。
「お待たせしました。書類はかけましたか?」
「はい。これでいいですか?」
クレイから受け取り一通り目を通していく。
「…雑貨屋ですか?」
「ええ、こちらの面々はいろいろと扱えるものが違うので、様々な物が取り扱えるんです。付与もありますし、いろいろと考慮した結果雑貨屋が一番近いかなと」
「なるほど、確かに出された製品に関しても様々な物がありましたからね。かしこまりました」
書類をファイルへと納めて改めて試験用紙を手に取る。
「ではこれより書類試験を始めます。制限時間は一時間。合格ラインは正答率8割です」
そう説明しながら裏返した状態でクレイ達の前へと紙を差し出していく。
「では…はじめ!」
その言葉と共に紙をめくり、それぞれが問題を解くことに集中しだした。
クレイ達が試験を受けている間。一人別れたトーマスはギルマスの部屋を訪れていた。
「珍しいな、お前がアポイントなしに来るなんて」
「まあな。ちょっとお前に言っておかないといけないことがあってな」
「なんだ?」
「今、俺の弟子とその友人たちが工房営業許可を取るための試験を受けている」
「ほう。…ん?弟子とその友人?」
「ああ。代表はその友人のほう。名前はクレイ。職業はクラフターだ」
「クラフターだと?」
トーマスの言葉にギルマスが驚いていた。
「ああ。あいつはかなりすげぇぞ。今まで役立たずと思われていた付与を有用な物にしたからな」
「そうなのか…ずいぶん長い時間研鑽していたんだろうな」
「と思うだろ?あいつはまだ12歳かそこらだ」
「はぁ!?そんな若さで付与をまともにできるようにしたというのか?」
「ああ、すげぇだろ?」
クククとおかしそうにトーマスが笑うが、それに対してギルマスはため息を吐いてしまう。
しかし、ふと先ほど聞いた言葉を思い出す。
「まて、お前確かさっきそいつが工房営業許可を取るために試験に来ていると言っていたな?」
「ああ」
「12歳かそこらで工房営業をするというのか?あまりにも無謀だろ」
「かもな。だがあいつはしっかりと知識は覚えているし、能力としても申し分ない」
「だが、営業するには経験があまりにも足りないだろう。もともと工房営業試験をする前に師匠と一緒に工房の営業を学んでからするものだろう」
「まあな。だがクレイはクラフターだ。あいつに教えられる師匠なんていないだろう」
「それは確かにそうだが…」
「それにあいつにはそれなりの後ろ盾がある。だから何とかなるだろう」
「後ろ盾?」
「ああ。俺とシェフィ、ペターの三人だ」
「なるほど。確かにその三人は生産職からすると後ろ盾としては十分だが…それだけだと弱いだろ」
「確かにな。だがもう一人いる」
「もったいぶるな。さっさと教えろ」
焦らすような物言いにギルマスが苛立たし気に声を荒げる。
「ケルビ・ウォン・スタービル辺境伯」
「っ」
「以前火竜の鱗の依頼を受けてな。それをあいつらに任せたんだが…それが予想以上のいいものを作り上げてな。すっかり気に入ったようだ」
「あの実力主義の辺境伯が…」
「この上ない強力な後ろ盾だろ?」
そう笑うトーマスに対してギルマスはため息を吐いてしまう。
「…まあ、いいだろうそれで俺に何をしろと?」
「なに、他の工房と同じように変な輩に目を付けられないように気を配ってほしいだけだ。若く有望な奴らだ。変なやっかみを受けることもあり得るからな」
「………まあいいだろう。こちらも辺境伯を敵に回したくはないからな。だが、試験は試験だ。一切忖度はしないからそれだけは譲れんからな」
「ああわかっている」
そう答え不敵に笑う。
「あいつらにそんなものは必要ないからな」
自信満々にそう言うトーマスにギルマスはため息で答えてしまったのであった。
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