クラフターとの出会い
クレイ達4人の住居兼工房が完成してから一週間。
各々引っ越しも終えて落ち着いたのでそれぞれの作業を作業場でやり始めた。
ちなみに、裁縫師であるアルマとクラフターのクレイは自室と作業場が一体となって居るが、鍛冶師であるレンと革細工師であるシェリーは作業場と自室は別になっている。
鍛冶は炉や火などを使うのでそれ用の部屋を作り、革細工のほうも水を使うので、水回りが使いやすいような部屋を作業部屋にしてある。
各々が作品を作り、クレイへと見せて魔力の壁の状態を確認したりしている。さすがにさすがにすべての製作品を見たりはできないので、たまに確認する程度なので、技術に関しては週1でそれぞれの師匠に、作品を作る際の魔力に関してはクレイに時々確認するという感じになった。
さてそんなこんなで各々思い思いの物を作っていく。
様々な物に付与魔法をかけられるようになったクレイもレン達が作った物へと時々やっている。
一応自分の加工でも付与を邪魔する魔力の壁が発生するのでそれらをどうにかできないか試行錯誤しつつ作成している。
そんな作業をしているとコンコンと扉をノックされる。
「どうぞー」
声をかけると扉が開きレンが顔を出した。
「魔力の確認?」
「いや、親方が明日ここに来るってさ」
「トーマス親方が?なんでまた」
「さあ?なんか面白いものが手に入ったって言ってたぞ」
「…またなんか魔物の素材でももらったのかな…」
以前やったミスリルゴーレムの素材。あれによって付与魔法のやり方などがかなり成長した。しかし、やはり一つの素材でだけでやると応用が利かせにくい。いろんな魔物の素材を扱いたいというのが本音だが、そう簡単に手に入る物でもないし、手に入れる伝手もない。だから今はレン達が作った作品での練習が主になっている。
「さてな。まあ、明日またわかるんじゃね?」
「だな」
要件は伝言だけだったようでレンはすぐに部屋を出ていった。
「面白い物…なんだろうなぁ…」
普通の魔物の素材となるとわざわざ面白い物、なんて勿体つけるような言い方はしないだろう。つまりこの間のミスリルゴーレムのようなレベルの素材がまた見れるかもしれない。もしかしたらあれ以上の素材かも。そんなことを考えているとおのずとクレイの表情に笑みが浮かんでいたのであった。
翌日。朝朝食を食べ終え、各々が準備を進めていると呼び鈴がなった。
「来たかな?」
他の面々にはトーマスが何か持ってくるという話はしてある。だからかそれぞれもどこかワクワクしたような表情をしている。
玄関を開けて迎えようとしたら、そこにいたのはトーマス以外にもいた。
「おう、来たぞ」
「おはよう、クレイ君」
そこにいたのは前にミスリルゴーレムの素材で盾を依頼してきたシレンとその使い手であるギルだった。しかし、その3人以外にももう一人、見たことがない少女がいた。
「おはようございます。どうしたんですか?そろって」
「俺は昨日話した通り素材を持ってきたんだよ。で、こいつらはお前への客だ」
「僕への?」
「うん。まあ、俺達…というより、この子が君に用事があってね」
「ふむ。とりあえずお話を伺いますので中へどうぞ」
四人を連れ室内へと入る。もともとはクレイの作業部屋だった場所は少し広げてリビングへとなって居る。そこにレン達3人も座っていたが、トーマス以外の客の姿を見て即座に追加の椅子を持ってきてくれた。
長机の片方をクレイ達弟子組が、もう片方をトーマス達客人が座る。
「さて…誰から話しましょうか」
そうクレイが問いかける。
もともとの予定としてはトーマスが素材を持ってきたという話ではあるが、少女がクレイに用事があったとなるとそっちの話も聞かないといけない。
「俺は後でいいからそっちの方から話しな」
そうトーマスが言ってくれたのでシレン達からまず話始める。
「まず私の自己紹介から。私は『トリス』と申します。クレイさんのお話はシレンさん達から伺っています」
「僕の話を?」
「ああ。ギルが使っている盾の付与をしたって話をな」
「うむ。あれからだいぶ使っているが、付与に関しては弱体化するということもなく、問題なく使わせてもらっている」
「それは良かったです」
あの盾の付与はほぼぶっつけ本番でやったものだ。効果がどれくらい保てるか、そこまで調べることはできなかった。
一月経過しても問題なく付与がかかっているのならば、そう簡単には付与の効果は消えなさそうだ。
「その付与についてどうやってつけたのか、トリスが気にしててな」
「トリスさんが?」
「はい」
「私はクレイさんと同じクラフターなんです。生産職として働きたかったのですが、クラフターだとどこも弟子に取ってくれなくて…」
「そうなの?」
「ああ。クラフターってのは確かにいろんなものが作れはするが、それでも本職には劣る。弟子に関しては基礎くらいしかできないからな。それに様々な物が作れるクラフターを鍛冶や裁縫のように一つの種類の物だけに縛るのも職人としていいとは思えない物だ」
「へぇ~」
トーマスの言葉にアルマとシェリーが少し意外そうな表情をしていた。
おそらく一番身近であるクラフターのクレイが現時点では三人の師匠のような立ち位置だから少し意外なのだろう。
「それでも私はクラフターとして身を立てたい考えていました。ですが、やはりどこも弟子にしてくれない状態では生活すらままならず…とりあえず生活費を稼ぐためにサポーターとして冒険者さんの手伝いをしていたんです。そこで…」
「俺達が彼女を雇うことになってな。で、ギルが持っている盾に気が付いてな。付与魔法ができるクラフターであるクレイの話になったんだ」
「なるほど…」
クレイもクラフターになってから試行錯誤し続けた。その中で何度同業者に話を聞いて、相談できればいいかと思ったかわからない。
一応鍛冶の師であるトーマスがいろいろと話を聞いてくれてはいたが、それでもクラフターではないがゆえに、同じ生産職という大くくりの枠組みとしての助言しかできなかった。
だから多少ではあっても自分より高みにいるであろう同業者に会いたいという気持ちは分かった。だからトリスの目的もそれだと思っていたのだが…。
「お願いがあります。私を弟子にしてください」
そう言って頭を下げてきた。
「…はい?」
あまりの唐突な申し出にポカンとしつつ間抜けな声が出てしまう。
その様子にトーマスはクククと面白そうな笑みを浮かべていた。
「えっと…弟子って…僕の?」
「はい。ギルさんの盾の付与を見せていただきました。あの付与もすごく強力でした。独学であそこまで行ったあなたのその技術を教えていただきたいのです」
「ええ~…」
あまりの勢いにクレイは戸惑ってしまう。さすがにいきなり会った同業者に弟子にしてくれと言われ、困惑しないというのも無理な話だろう。
「でも、僕もまだまだ未熟者です。弟子を取れるほどの実力なんて…」
「いえ、クレイさんは付与魔法をかなりの実力で扱うことができます。それだけでもクラフターとしてかなり高い実力を持っているとわかります。なのでどうかお願いします!!」
「いや…ええ~…」
トリスの勢いにわずかに押されてしまう。
「いいんじゃねぇか?クレイ。弟子にしてやりな」
「親方、いやでも…」
「まあ、お前の気持ちもわからんでもない。お前としてはまだまだクラフターとしては未熟だと考えているだろうからな」
トリスの言葉の通り、確かに付与に関しては十分な能力を有しているだろう。しかし、それは付与に関してのみで、他の魔力加工に関してはまだまだ未熟だ。実際なところその加工の実力に関してはレン達他の弟子組よりも実力としては劣っている。
まあ、それもクラフターとしての特性であると言われればその通りなのだが。
「だがな、未熟だからこそ弟子を取るべきでもあるんだ」
「どういうことです?」
「生産職に限らず、すべての事柄に関して完全な状態というのはない。寿命がある以上成長できる期間が限られているのは確かだが、それでも技術というのは果てなく上を目指すことができる。その中で必ず頭打ちになる時があるんだ。それを皆『限界』と呼ぶが、その限界を突破する方法が弟子を取ることだ。人に教えるというのはかなり難易度が高い。自分が見ていた視点とは別の視点を持つ人物に教えるんだ。自分が思わなかった疑問ややり方、そういったものが見えてくる。それらを聞いて新たな技術を見つけ出す。それが弟子を取る利点の一つなんだ」
まあ、技術を広げるというのもあるがな。と最後に補足する。
トーマスの言葉を受け、クレイも考えだす。確かに付与に関してはそれなりの成果を得ることができた。しかし、それはあくまで付与に関してだけ。他の技術に関してはまだまだ発展途上だ。もしそれをトリスを弟子にすることで打開策が見つけることができれば、それはクレイにとっても有用なことだ。しかし、おそらくトリスは自分より年上だ。そんな人を弟子にするというのは気が引ける。それならば…。
「はぁ…わかりました」
その言葉を聞いてトリスが嬉しそうな表情をした。
「弟子にはできませんが一緒に作業する同業者ということならばいいです。さすがにまだ弟子を取るなんてできませんので」
「うっ…わかりました。あまり我儘言うわけにもいきませんから、それで今は納得します…」
トリスは少し残念そうにしているがそれでも納得してくれたようだ。
「よし、とりあえず話はまとまったな。んじゃ次は俺の話だ」
そう言ってトーマスは床に置いておいた麻袋を机の上へと置いた。
「昨日レンを通して話しただろ?面白いものが手に入ったって」
「ええ、また何かの素材ですか?」
「あたりだ」
その言葉と共に麻袋の封を解き、ひっくり返すと麻袋から赤黒い鱗のようなものが数枚出てきた。
「これは…」
その赤黒い鱗は見たことはない。だが聞いたことはある。まるでマグマがそのまま固まったかのような色をしたその鱗は火山に住まうといわれているあの魔物の鱗。
「火竜の鱗だ。こいつで装備を作ってみないか?」
そう言うトーマスの表情には挑戦的な笑みが浮かんでいた。
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