ミスリルシールドの完成


ミスリルゴーレムの素材への付与を終え、トーマスへと渡してから数日後。

依頼されていた盾が完成したということで、一度引き渡す前に確認に来いと呼びつけられた。


「こんにちわー」

「おう、来たか。こっちだ」


クレイの姿を見てトーマスが即座に奥へと連れていく。

そしていつも通り応接室へと入ると、机の上に一つの盾が置かれていた。


「これができたやつだ。しっかり、お前が付与した衝撃吸収もしっかり備わっているぞ」


大盾と言うほど大きいわけではないが、それでもしっかりタンク役が持つには十分な大きさの盾を手に取る。生産職であるクレイからしたら少し重いが、それでも一般的な同サイズの盾に比べればかなり軽い。


「本当はもう少し重量欲しかったんだがな、さすがにこれ以上増やすには別の素材を付け足しすぎて元の素材の良さが損なわれかねないからな」

「ふぅん…少し魔力のほうかけてみていい?」

「ん?まあ、ダメにしなきゃいいが…」

「じゃあちょっとだけ…」


盾を包み込むように魔力を広げていく。

ミスリルゴーレムの素材を渡した後、いろいろと確認したいことも有ったので他の素材でもいろいろと付与や魔力加工に関して確認してみた。その結果わかったことは付与前にやっている魔力加工による調整、あれによる性能の変化はないというものだった。

魔力加工による付与のための空間を開ける行為。それによって耐久力のブレなどが発生するかと思ったがそういうわけでも無かった。どうもあの魔力加工によって感じる壁と言うのは、もともとあるものではなく、魔力などが流れた際に発生する塊のようだ。

魔力を持っている魔物はもとより、もともと魔力を保有していない物であっても加工をする際に流れ込む魔力によってその壁が生じてしまう。

選定の儀式によって選ばれた生産職はどれも固有の魔力を持っており、それを流し込むことでスムーズに加工ができるようになっている。その魔力が内部で壁となり、付与の邪魔をしてしまっていたようだ。

だから今回も可能ならば追加で付与できるように調整をしていく。均等に並んでいる魔力の壁を一つ一つ押して一か所に集めていく。

その様子をトーマスはじっと見ているが、彼自身にはクレイがなにをやっているかはわからなかった。魔力で盾を包み込み、何かしらの作業をしているというのはわかるのだが、それがどういった効果を及ぼしているのか。そこまでは見ただけではわからないのだ。


「…これくらいかな?」


とりあえず可能な限り魔力の壁を移動させ、付与するのに十分な余剰を作り出した。


「何をしていたんだ?」

「付与できる余裕を持たせたんです。すでに付与自体はされているのでそこまで高い能力の付与を付けることはできないけど、重量増加くらいならつけれますよ」


クレイの言葉にトーマスは驚きの表情を浮かべる。


「…今まで加工済みの物に付与ができたなんて話は聞いていなかったが…どうやらコツをつかんだようだな」

「ええ、なぜ付与できなかったのか。親方のおかげでわかりましたので」


親方に言われ、まずは素材を知ることから始めた。それによって魔力によって作られた壁があることに気が付けた。そしてそれを動かせることがわかり、それが付与に影響を与えると気付くことができた。それが無かったらミスリルゴーレムの素材に付与をかけることも、鍛冶師等の生産職によって作られた物に付与できることに気づけなかっただろう。


「それでどうします?重量増加の付与かけます?」

「………これは今すぐかけなくても大丈夫なのか?」

「ええ、加工さえしなければ壁ができることはないので」


魔力を流すだけだと壁はできない。加工など変質させることによって素材に影響を与えた魔力が残滓として残り壁になるようだ。


「わかった。それならばこれを渡すときに調整のためにしてもらおう。もし、このままでよければ別の付与にしたほうがいいだろうしな」

「わかりました」

「明日の昼に来るように話してある。その時にお前も立ち会ってくれ」

「はい」


トーマスの言葉に頷き、一度クレイは自宅へと戻った。


翌日、約束通り昼前に鍛冶屋へと行き、トーマスと共にシレンを待っていた。


「親方来たぞー」


そういって知らない男性と共にシレンは鍛冶屋に来た。


「おう、よく来たな。頼まれたものはできたぞ。こっちに来てくれ」


そういっていつも通り応接室へと向かう。


「これが依頼の品だ」


そういって作成したミスリルシールドを差し出す。


「ほら、ギル」

「ああ」


ギルと呼ばれたシレンの連れがミスリルシールドを手に取る。持ち手を掴み、使い心地を確かめるが…。


「むぅ…」


その表情はいささか不満げだ。


「どうしたんだ?何か不満なのか?」

「ああ、俺が扱うにはいささか軽すぎる。頑丈ではあるし、かなりいい盾なのはわかるが、攻撃を受け止める俺にはもう少し重さが欲しいところだ」

「やっぱりそうか…。クレイ、できるか?」

「ええ、ギルさん…でしたか?その盾を少し貸してもらえますか?」

「む?いいのか?」


ギルはシレンとトーマスを見るが…。


「問題ない、その盾には付与魔法がされていてな。それをやったのがクレイなんだ」

「付与魔法を?」


ギルは信じられないような表情をしていた。


「それと、ミスリルゴーレムという魔物の素材の付与をさせてもらったおかげで作成された装備にも追加で付与できるようになりました。なので重量増加で少し重さを調整しますよ」

「そんなことまで可能なのか?」

「ええ。まあ見てもらった方が早いでしょう」


そういってミスリルシールドを机の上に置き、魔力で包み込む。

そして新たな付与として重量増加をかけ始める。


「もし可能なら下部のほうに重さが集中できるように調整できないだろうか?」

「盾の下のほうにですね、やってみます」


前日に広げておいた隙間へと魔力を流し込み、重量増加の付与をする。そして普段はそれを自然と全体的にいきわたるように魔力を定着させるが、あえて盾の下のほうへと重点的にかかるように魔力を変化させる。


「…よし、とりあえず付与をかけました。持ってみてもらっていいですか?」

「ああ」


ギルは改めて盾を手にし…


「む」


驚いた表情と共に盾を持ち上げた。


「いかがですか?重すぎるとかもないですかね?」

「大丈夫だ。いや、むしろちょうどいいくらいになった。それに要望通りに盾の下のほうに重さが偏っている、これならば同じミスリルゴーレムの一撃であっても受け止めきれそうだ」

「まじかよ。そこまでの物なのか?」

「ああ。安定感が半端じゃない。持ってみろ」


そういってギルはシレンへと盾を渡す。


「おお…すげぇ。確かに下に重さが寄っているからか、踏ん張りやすいな」

「ああ、思ってた以上に良いものを作ってもらえた。礼を言う」

「気に入ったようで何よりだ」

「君もありがとう。付与魔法ということはクラフターなのか?」

「ええ、クラフターのクレイと言います」

「そうか、クラフターと言うのはあまり生産職には向いていないと聞いていたが、君のように素晴らしい者もいるんだな。勉強になったよ」

「いえ、まだまだ未熟者です」

「なるほど、向上心もしっかりあるようだ。もしまた何か付与をお願いするときに君に頼むことにするよ」

「ありがとうございます」

「よし。ギルも満足できたようだし、そろそろ代金の話と行こうか。付与もかなりいいものを付けてくれたらしいし、そこらへんも上乗せして話をしようか」


そういって改めて椅子に座り、代金交渉へと入った。



同じころ、王都では…。


「すまんね、クラフターは家では雇えないんだ。雇ってもできるのは見習いの仕事ばかりだし、それだったら先の事も考えて見習いを雇いたいからね」

「そうですか…わかりました。ありがとうございます」


無情にも閉じられた扉を見て、少女はため息を吐く。


「はぁ…やっぱりクラフターが生産職なんて無謀なのかな…」


力なく歩き出すが、少女は首を左右に振って気持ちを切り替える。


「そんな弱気なこと言っちゃだめだよね!とりあえずどこでもいいから雇ってくれる場所を探そう!クラフターでも見習いくらいの仕事はできるんだから!それにいざとなったらお金稼ぐためにサポーターとして冒険者ギルドに登録すれば日銭くらいは稼げるからね!」


落ち込む気持ちに活を入れ、何とか少女は前を向こうと歩き出した。




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