新しくできることをみつけたい
様々なところから付与素材を依頼されてからしばらく。付与魔法もそれなりに成長しており、他の魔力加工に関しても順調に成長している。
空間収納もだいぶ広くなり今では小さな小屋くらいなら中身事収納できるレベルにまでなっている。これもある程度余裕ができれば生活するための家ごと入れて旅をするというのもできるかもしれない。
とはいえ、最近いささか同じことばかりしているからか、少し変化が欲しくなっている。
「どうしたものかなぁ…」
依頼が増えて一日に付与をする時間は増えたのだが、さすがに毎日やっていると自分の時間が無くなりそうになっていた。なのでとりあえず一日に一つの依頼を一週間分として受け付けることにした。それに伴い運搬もクレイの仕事となったが、まあ空間収納があるからそこまで苦ではない。
まあ、それのおかげで数日程休みになる日ができたが、それでもやっていることに大した違いはない。そろそろ新しく何かできることを増やしたいが…今のところどうにもそういったことに関しては思い浮かばない。
まあ、基本的にできることというのは決まっているので、それを応用することはできても、新しいスキルを身に着けるなんてことはそうそうできることではないだろうが。
そんなことを考えていると小屋の扉がノックされる。
「クレイーいるー?」
「この声は…シェリー?どうしたの?」
「あ、いた。とりあえず入るねー」
「どぞー」
その答えと共に扉が開き、中に入ってきたのは薄めの灰色の髪をした少女だった。
「どうしたの?革の依頼は明後日だったと思ったけど」
革細工師であるペターさんのもとで修業しているシェリーはクレイと同い年で選定の儀式によって革細工師に選ばれた子だ。
「違う違う、今日は普通に遊びに来ただけだよ」
「あ、そうなんだ」
一応すでに依頼に関しては終わっているので、あとはそれを納品日に納品するだけであり、それを先に納品しようかとも相談はしたが、そこまで急ぎの案件というわけでも無いので、納品日に持っていくことになった。
「それで何してたの?」
「ん?今は特に何も。やろうとしているんだけどそろそろ同じことの繰り返しだから変化が欲しいなぁって思ってたんだよ」
「あー、確かに生産職ってそういうものだもんね」
戦闘職に関しては冒険者などになったらランクがあり、それを上げることが目標となる。
そしてそれを上げるにつれて強敵と戦っていくのだが、その相手が多種多様になればなるほど、取るべき手段やできることが増えていく。
しかし、生産職は特にそういった変化はない。
確かに様々な特性を持つ素材を加工するはあるが、それでもやること自体に大きな違いは生まれない。
鍛冶であれば叩く力加減や温度、裁縫であれば布や糸の耐久、革細工であれば革のしなりや柔らかさ。そういった部分によって力加減などが様々変わっていくが、それでもやっている手順などに大きな違いはない。
熟練の腕に達するために様々な素材を使うことは必要であるが、やってることに違いがないのでどうしても変化が欲しくなってしまうのだ。
「それでも変化なんてそうそう作れる物じゃなくない?」
「そうなんだよなぁ」
まあ、こればっかりは時間をかけてゆっくり考えていくしかないだろう。とはいえそろそろ何か新しいことに挑戦したいという気持ちも強くはあるのだが。
「そういえばクレイが持ってきた革見せてもらったけどさ」
「ああ、あの水耐性付与した奴か」
「そうそう。あれって一つしか付与できないの?」
「…というと?」
「ほら、複数属性耐性的なのってできないのかなって。ペター先生から聞いたけど火耐性もつけれるんでしょ?」
「火耐性と水耐性がついている革ってこと?」
「そそ。それってできないの?」
「…そういや複数の付与ってやったことなかったな…」
言われて気が付いたが、そういえば付与は常に一つしかやっていない。複数付与とかに関しては一度も試したことがない気がする。
「試しにやってみたら?」
「そうだな…できるのかな」
とりあえず余りでもらっていた革を一つ手に取る。
そしていつも通りの手順で水耐性を付与し、続けて火耐性を付与しようとしてみた。
「ん~…んぅ?」
「どうしたの?」
「いや、なんか魔力が上手く入り込まないんだ」
付与しようとしてみるが、なかなかうまく魔力が入らない。付与するにはそれ用に変異した魔力が中に入ることでできるのだが、それが上手くいかない。
「付与にも相性とかあるのかな?」
「どうなんだろ…それならちょっと耐久値のほうを…」
火耐性の付与を諦めて耐久値上昇の付与をしようとする。
「ん…こっちも入りにくいが…それでもさっきよりかはましだな」
「どう?付与できそう?」
「できなくはないってところかな…とりあえずやってみる」
付与を続け、これ以上魔力が入らない状態まで続けていく。
「…こんなもんかな?」
「見せて見せて!」
とりあえず付与をやめて二人で見るために別の机の上に乗せる。鑑定をしてみると水耐性に加えて耐久値上昇の付与がされている。しかし、そこには極微の文字が書かれていた。
「耐久値上昇極微…すごく微量に増えたってことかな?」
「そうっぽいね…。ふむ、これは俺の実力か…それともやり方か…」
少なくとも二つの付与ができないというわけではないのがわかっただけでも良かったが、それでもこのままだと一つの付与と大して差がない。とりあえずまともにできるようにいろいろと工夫しないといけなくなるが…。
そこまで考えてシェリーの事を思い出す。
「あ、ごめんシェリー。つい考えごとにはまっちゃって」
「ううん、大丈夫。じゃあ私は帰るね」
「え?遊びに来たんじゃないの?」
「そのつもりだったけど…クレイ、このまま付与の研究したいでしょ?」
「それは…まあ…」
言い当てられて気まずくなってしまう。
「大丈夫だよ。昔から気になったらやりたくなり性分なの知ってるからね」
「うぐぅ…」
「その代わり、うまく行ったらまた見せてよね?」
「ああ、約束する」
「それじゃあまたね」
「ああ」
笑顔で手を振ってシェリーはクラフト小屋を出ていく。
「……よし、やるか」
それを見送ってからクレイはいくつかの材料を空間圧縮から取り出して並べた。
外へと出たシェリーは少し離れたところで足を止め、振り返って先ほど出てきたクラフト小屋を見つめる。
「…本当、好きなことに対してすぐ熱中しちゃうんだから」
呆れたような笑みを浮かべつつそう呟いた。
「あれ。シェリーじゃん、どうしたんだこんなところで」
「レンじゃない」
唐突に声を掛けられ、振り返るとそこにはレンが立っていた。鍛冶屋の服を着たままなので休憩中に来たのかもしれない。
「私は今日休みだから久々にクレイと遊ぼうと思ってきたのよ。レンは休憩中?」
「ああ、散歩がてらに近くに来たから顔見せにな」
「だったら今はやめといたほうがいいよ。クレイ新しいことに挑戦中だから」
「新しいことって…何やっているんだ?」
「複数付与できるか試しているんだよ。たぶん今日一日中やっているんじゃない?」
「ああー…そうか。んじゃあ今日は適当にふらついて戻るか…」
「暇なら私に付き合ってよ。クレイと遊ぶ予定だったけどなしになっちゃったから暇なのよね」
「休憩中だぞ俺」
「その間でいいから。ね?」
「仕方ねぇな」
「じゃ、行こう!」
駆け出すシェリーの後ろをレンをついていった。
「さて…まずはどうやるか…」
一人残ったクレイは複数付与について考える。
先ほどの試しで水耐性の後に火耐性が付与できず、微量であれど耐久値上昇が付与で来たということはそれなりの相性があるということだ。
まずはその相性を見繕うべきなのだろうが…。
「さすがに一つ一つやっていくっていうのもな…いっその事同時に付与できるか試してみるか」
革に対しての付与をとりあえず同時に二種類の付与ができるか試してみる。一応先ほど付与で来た水耐性と耐久値上昇を試してみる。
問題はその付与をどうやるかだが…
「付与は魔力を流し込むことでできる。なら…右手からは耐久値上昇を、左手からは水耐性上昇をやるように意識してみるか」
それぞれの手から別の付与を流すというのはやったことないが、それができれば同時付与がやりやすくなりそうだ。だが…
「…これ何度やっても片方消えるんだが…」
何度かやってみたが、必ずどちらかに意識が向いてしまい、その瞬間にもう片方の付与が消えてしまう。
「…どうしたものか…」
二つの手にそれぞれ別の魔力を付けて付与する。言うのは簡単だがそれはかなり困難なやり方だった。
今クレイがやろうとしているのは右左それぞれで同時に別の文字を書こうとしていることとほぼ同じだ。そして付与にはそれなりに集中力が必要となる。一つの文字に対して集中しないといけないのに、それが別の文字を左右同時ではそうやすやすとできるわけがなかった。
「…はぁ…さすがにいきなりは無理か…まあ、これも練習が必要だな…」
とりあえず最終段階として両手でそれぞれ別の付与ができるようになるの目標とすることにして、今は順番にやることにした。
「となるとやっぱり相性を調べるところからか…でも、あまりそれやっていると材料がなぁ…」
書けた付与を解除することができれば繰り返しできるのだが…。
「…いっその事付与解除もできるか考えてみるか…?」
今までは付与ができないということもなく、普通に必要な物に付与していた。それゆえに材料が足りないということはなかったが、今回のように複数付与の場合、うまくいかないことも多々あるだろう。だから付与が解除でき、また同じように付与できればその分練習の材料が使いまわしできる。
「まあ、同時付与のやり方を考えつつ、そっちもできるか試してみるかぁ…」
解除するにはどうすればいいかいまいちわからないが、それを考えつつ、とりあえず今は相性がいい付与の組み合わせを模索することにしたのであった。
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