新たな依頼


「今日の分持ってきたぞー」

「はーい、そこに作ったやつあるからそれ持ってってね」

「あいよー」


鍛冶屋にてトーマスから依頼を受けて数日。レンがいつものように材料となる鉄鉱石を持ってきたので代わりに付与済みのインゴットを持って行ってもらう。

インゴットは全部で10本。切れ味上昇と耐久値上昇がそれぞれ5本ずつ、それを毎日作っている。

他の作業などもあるので今はこれくらいが限界なのだが、まあ、ここら辺は繰り返しやっていけばそのうち慣れるだろう。

今のところ新しい付与はできないが、それでも何度も付与や魔力加工をしているおかげか、魔力もだいぶ増えていろいろとできるようになってきた。

同時に複数の素材加工もできるようになったし、魔力加工に関してもだいぶ細かいところまできっちりできるようになった。

付与に関しては集中力とそれなりの魔力が必要なので一つずつしかできないが、これに関しては今後の課題といったところか。

とりあえず鉄鉱石が来たのでそれらを素材加工でインゴットへと変えていく。

さすがにすべてまとめてはできないのである程度の数でこなしていく。まあ、それでも2回か3回ほどやらないといけないが。

鉄鉱石の中に含まれている鉄を集めて固めてインゴットへと変えていく。本来これは溶鉱炉とかでやるのだが、魔力でそれができるから楽でいい。

鉄鉱石に含まれている鉄にもばらつきがあるので、たまに足りなくなったりもするが、大半は余ったりしている。


「今回は二つ余分にできたね」


合計12個で来たインゴットを並べる。質としてはすべて同じ。こういうところで品質の差が出ないのも魔力加工でのいい所でもある。

素材加工によって余ったものはそのまま空間収納に入れておき、追加で鉄のインゴットも二つ入れておく。現在の在庫としては20個ほどできたので、そろそろ何か練習がてら作るのもいいかもしれない。まあ、今は付与の仕事をするが。

付与の効果に関しては魔力量によって差ができてしまうので、そこだけ注意しながら作業していく。

そんな作業の中扉がノックする音が聞こえてくる。


「ん?誰だろ。開いてるのでどうぞー」

「お邪魔するよー。って作業中だった?」


快活な声が聞こえてくるが付与作業の途中なので振り返ることができない。


「うん、ちょっと待ってね、区切りつけちゃうから」


会話程度ならできるが、来た人物からして何か用事があったんだろう。とりあえず今は付与のほうを優先させてもらう。まあ、さすがに一気にやっているわけではないので、今付与しているインゴットが終わったら一区切りとしておく。


「……よし、お待たせ。それでどうしたの?アルマ」


付与を終え、振り返るとそこには赤茶色の髪をサイドテールにしている少女、アルマが興味深そうにこちらを見ていた。


「アルマ?」

「え?あ、ごめんね。クラフターが作業してるところって初めて見たから…」

「まあ、この村にはいないもんねー」


クラフターが不遇だといわれている理由の一つがその数の少なさもある。

選定の儀式によって生産職に選ばれるのは事前にその職業に関して教わっていたりする。

そうすると素質はともかく、経験という判断基準でそれぞれ教わっていた生産職に選ばれる。だからクラフターになるにはクレイのように様々なところで教わっているか、それだけの素質があるかの二択になる。

それゆえになかなかクラフターに選ばれることはない。だからこそ数が少なく、あまりクラフターの能力について研究がされていないのだ。


「それで何か用事があったんじゃないの?」

「あ、うん。レンに聞いたんだけど、付与魔法かけたインゴットを鍛冶屋に卸しているんだよね?」

「うん、さっきまでそれやってたからね」

「それを私たちのほうにもお願いできないかって、シェフィさんが」

「あー…どうだろ」


シェフィさんはお世話になった裁縫士だ。

この村の服や寝具など布系の商品を主に扱っている。それと同じように魔物の素材でも革細工師と協力して防具などにもしていたりする。

本来ならその依頼を受けたいのだが…一つ問題があった。


「付与魔法ってその素材にその特性を付与するんだよね」

「うん」

「まだ僕はできないけど、もし斬撃耐性とか付与した場合、糸とか布が切れないかもしれないんだ…」

「あー…そうなんだ」


そう、鉄インゴットとかなど鍛冶のほうではインゴットを叩いて形を変えていく。耐久値などで多少のやりにくさは出てくるが、それでも形を変えるだけなのでそこまで大きな影響はない。

だが、布や革、糸などは裁断が入る。もし斬撃耐性などを付与した場合、それの影響で裁断や針を通すことができない可能性が出てくるのだ。


「んー…そうだね。せっかくだからちょっとやってみようか」


そういって空間収納から糸や布、皮を取り出す。


「皮もやるの?」

「一応ね。もし裁縫のほうでも付与魔法の素材が使えそうだったらこっちも頼まれそうだし」


服だけであれば布と糸で作れるが、防具などもある。それゆえに裁縫師と革細工師はそれぞれ協力関係となっている。だから片方だけに渡すということはない。

皮を素材加工でなめして革にして、その間に今付与できる物を頭に浮かべる。

できるのは耐久値上昇と水耐性、火耐性。鉄に関してはその付与がなかったので、もしかしたら今はそれぞれで付与できるものが違うのかもしれない。ここらへんもそのうち調べておかないといけないかもしれない。

素材加工が終わった革を取り出し、とりあえずそれぞれに耐久値上昇を付けていく。

先ほど言ったように斬撃耐性などが付与できればいいのだが、今できないので仕方ない。これも裁断などに影響を与えるだろうからとりあえずこれで試しだ。


「よし、完成っと。さて、どうしよっか」


本当はすぐに持っていきたいところだが…。


「鍛冶屋のほうに卸す奴がまだ途中なんでしょ?なら待ってるからそっち先にやっていいよ」

「いいの?」

「うん、あくまで私のほうは話を持って行ってだから」

「ありがとう、じゃあこっちを先にやらせてもらうね。その間ある程度なら好きにしていいから」

「はーい」


戦闘職の人だとたまに作っている途中の物だったり、器具をいじって壊したりするからなかなか油断ができない。

ま、アルマならそういうこともわかっているから気にする必要はないが。

アルマが待っているからと言って手を抜くわけにはいかないし、付与の品質が違うものができても困る。だからしっかりと付与をしていき、同じ品質の物を作っていく。

それからおよそ1時間ほどで付与をかけ終えたので一息。


「終わった?」

「うん、お待たせ」


同じ姿勢で付与をしていたので少し体が強張ってしまった。体を伸ばしてほぐしてからインゴットを納品テーブルの上へと置いておく。


「鍛冶屋にもっていかなくていいの?」

「鉄鉱石の納品やインゴットの回収はレン達見習いがやるって話だからこれでいいんだ」


空間収納があるからこちらでやろうかという話をしていたが、この付与魔法の仕事ができるのがクレイ一人であること、ほかにも頼まれる可能性があること、そして見習いとして鍛冶師が何人かいることからこういったことに関しては向こうでやってもらうこととなった。

まあ、空間収納のおかげで重さがないとはいえ、移動に関して時間がとられてその分できることが減ってしまうから助かるが。


「さて、じゃあ行こうか」

「うん」


しっかりとクラフト小屋に鍵をかけ、作業場へと向かった。


「戻ったよー」

「おかえりアルマ。それとクレイ、よく来たね」

「どうも、お邪魔します」


ここしばらく付与魔法の練習をしていたのでここに来るのに少し間が開いた。

そんな中出迎えてくれたシェフィさんは恰幅のいいおばさんで、その顔には気さくな笑みが浮かんでいる。


「わざわざ来てもらって悪いね。こっちも見習いの修行に魔物の素材は使いにくくてね」

「いえいえ、ただ役に立てるかはまだわかりませんが。とりあえずこちらをどうぞ」


そういって耐久値上昇を付与した糸と布を差し出す。


「これが付与魔法がされている素材かい?」

「ええ。可能だった付与魔法が耐久値上昇と水耐性、火耐性の3つだったので、とりあえず加工に影響をあたえそうな耐久値上昇の付与をあたえた物を用意しました」

「裁断とかするから、斬撃耐性とかついたら加工にも影響与えるかもしれないんだってー」

「なるほど、確かにそうなるかもしれないわね」


アルマの言葉に頷きつつ、出された布と糸を手に取る。


「ふむ…確かに不思議な感じがするね。そうだね…ちょっとした小物入れでも作ってみようか」


裁断バサミと針を取り出し、加工を始める。

ハサミである程度大雑把なサイズに切り分けようとするが…。


「やっぱり切りにくいね…」

「普段はどうやって加工しているんです?」

「基本的に能力があるのは糸だけだからねぇ。それをそのサイズの布にしてって感じだね」

「あー、そっか糸を合わせて布にしてるんだ」


となると大量の糸に付与してそこから布を作ったほうがいいのかもしれないけど…。でも、それだとどこまで付与できるかわからないのが正直なところだ。

インゴットのように一塊になっているのならまだしも、糸や布は一本一本に魔力をしみこませる感じだ。だからまとめた塊などだとどこまでできているか微妙にわかりにくい。

感覚的に言うと色染めに近いかもしれない。


「とりあえずできそうな方法を探ってみようかね。依頼としてはそれからでいいかい?」

「構いませんよ。場合によっては糸だけ付与するというのもありですし」

「そう?じゃあまた必要な時にお願いしようかな」


そんな話していると扉が開いて一人青年が入ってきた。


「ん?久々に見かける奴がいるな」

「あ、ペターさん」


ペターと呼ばれた青年は薄い色の金髪をした青年であり、この隣にある革細工の作業場でまとめ役をやっている人だ。


「元気そうだねクレイ。最近手伝いに来てくれないけどどうしたんだい?」

「ちょっと付与魔法の研究をしてまして。今回もそれ関連ですよ」

「あー、そういえば鍛冶屋のほうに卸しているんだっけ。いいなぁ、こっちにも卸してよ」

「きちんと契約してくれるならいいですよ。ハイ見本です」


空間収納から付与魔法付きの革を取り出してペターに渡す。


「ふむ…」


革を受け取り肌触りや硬さなどを触りながら確認していく。


「これ、何の付与されてる?」

「耐久値上昇だね」

「ああ、それでか。何となく硬さが違う。ふむ、使い勝手を調べてみてだな」

「私もそうね。ちょっと加工の仕方を考えないといけないわね」

「了解。まあ、また付与魔法が上達すればできる付与も増えるだろうし、その時にまた相談かな」

「そうだな。ちなみに今できるの耐久値上昇だけか?」

「火耐性と水耐性もできるよ」

「あー、そっちの方が有用かもしれないな。ちょっとそっちの奴も今度用意してもらえるか?」

「わかった。明日あたりに用意して持っていくね」

「任せた」


そんな相談を終えたのでとりあえずクレイは一度作業場へと戻ることにした。


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