付与魔法の使い方を探ろう


鍛冶屋で剣をもらい、付与魔法の練習をし始めてから一週間。

一向に通常通りの付与が剣にはかかることはなく、練習してはいても進展がない。

外部から張り付けるように付与したものも、何もしない状態で3日ほどではがれてしまう。

おそらく冒険者などで使っていれば1日、下手したら半日ほどではがれてしまうかもしれない。農具のように普段使いする分にはいいかもしれないが、冒険者のように遠征しかねない人が使う分には途中ではがれてしまい、思うような成果につながらないかもしれない。


「どうしたものかなぁ…」


付与魔法以外に関しては順調に成長している。

通常の加工も特に制限がされるわけでも無く技術はあがっているし、クラフターができる魔力加工に関しても今では通常の加工と遜色ないレベルにまで上がってきている。これらも繰り返し練習していけばいいだろう。

しかし、付与魔法に関してはそうもいかなかった。

他の生産職が作った物には変わらず付与できず、自分で作った物に関しても付与できる魔法の種類は増えても上昇率に関しては変化はない。

このままでは付与魔法に価値を持たせるなんてことはできないだろう。何か変化をもたらさないといけないだろうが、それがなかなか思い浮かばない。

そんなことを考えているとコンコンと扉がノックされた。


「おーい、クレイいるかー?」

「この声は…レンか。開いてるからどうぞー」

「おう、邪魔するぞー」


扉を開けてクレイと同い年の少年が入ってくる。

茶髪のその少年はレンといい、クレイの一つ上の少年だ。

快活そうな笑みを浮かべた顔にはところどころ煤汚れがついている。彼は選定の儀式で鍛冶師に選ばれ、トーマスに弟子入りし、その技術を学んでいる。

クレイと共に学んでおり、兄弟弟子のような関係だが、歳が一つしか違いがないゆえにかなり気安い関係となっている。


「散らかってんなぁ、何してたんだ?」

「付与魔法の練習―」

「ああ、クラフターだもんなお前。鍛冶師になれれば一緒に学べたのになー」

「それ皆に言われてる」

「クレイはいろんなところに行ってたからな…」


儀式の前からクレイはいろんなところで制作を学んでいた。それゆえにいろんなところにレンと同じような兄弟弟子のような関係の人がいる。

クラフターになってからも手伝いなどで行くと毎回先ほどのようなことを言われていたりもする。


「あれ?これどうしたんだ?」


そういって手に取ったのは経過観察してる剣だった。


「ああ、それちょっと試しの奴。付与魔法内部に入らないから外から貼ったらどうかなって思ってね」

「ほ~…で、どうだったんだ?」


その問いかけにクレイは首を横に振る。


「付与の能力としては問題ないんだけど、耐久値がね…何もしない状態で3日ではがれるから正直使い物にならないよ」

「まじか」

「たぶん普通に使っていると1日か半日くらいではがれちゃうんじゃないかなぁ」

「なるほどな。さすがにそれじゃあ使い物にはならないな」

「うん。だからどうにかしたいんだけど…いかんせん手詰まり気味でねぇ」

「そうだな…付与魔法に関しては俺はやっぱり専門外だからわからねぇが…」


そう言いながら一つの木材を手に取る。


「こういうのに付与魔法って使えないのか?」

「え?」

「ほら、剣とか素材になるインゴットとかから作るだろ?その付与魔法が解除されなきゃ、材料に先に付与しておけば同じようなのが作れるんじゃないか?」

「………」


レンの言葉にクレイがポカンとした表情をしている。


「…あれ?俺なんか変なこと言ったか?」

「ううん…そうか、そうだよね!完成品に付与できないならまず素材から!なんでこんなことに気が付かなかったんだろう…」

「お前案外考え込むと視野狭くなるよな。まあ集中力が高いって親方も言っていたが」

「よし、そうと決まればさっそく…」


前にもらった鉄鉱石をいくつか取り出す。


「鉄のインゴット作るのか?」

「せっかくレンがいるからね」


鉄鉱石を魔力で包み込むとぐにゃりと柔らかくなっていくので不純物と鉄とで分けていく。


「んー…インゴットにするにはちょっと足りないかな…」

「なんかすげぇ光景だな」


魔力加工の様子を初めて見るレンは興味深そうに眺めている。

最初は結構集中して作業していたが、原料を素材にする工程はだいぶ慣れて雑談しながらもできる。


「せっかくだからいろいろと強さとか分けて付与したいから複数作ろっかな」


そういって片手間に追加の鉄鉱石を空間収納から取り出して魔力の中へと放り込んでいく。

次々とはがれていく不純物はまた空間収納へと納めて鉄だけ魔力の中に残しておく。


「そういえばここまで来たの何か用事があったんじゃないの?」

「ん?ああ、別に用事があるってわけじゃないんだ。ただこの間親方がクレイが来たって言ってたからな。ちょっと顔見に来ただけだよ」

「そうなんだ」


魔力の中に浮かんでいる鉄が柔らかくなっていき、すべてがひとまとめになっていく。

後はこれをインゴットの形に成形して完成。それを三つほど作成しておく。


「これで後は付与魔法をしてっと…とりあえず強弱分けたのを一つずつと別の付与魔法のを一つ作ろ」

「作はいいけど加工はどうするんだ?お前がやるのか?」

「んー…レンはできる?」

「まだ無理だな。まだ普通のインゴットで作る練習だけで魔物の素材とかは扱わせてもらえてないからな」

「ああ、そっか。魔物の素材には特殊な能力が宿っている者もあるからね」


この村の周囲にも魔物が出没しており、それらを討伐している冒険者から時々素材が渡される。

その素材にも魔物特有の能力が付与されていることもあり、そういった物は加工難易度が高い。そして安定して手に入れるにはコストがそこそこかかるのであまり練習用として使うことができない。


「それじゃあちょっと申し訳ないけど親方に頼もうかな」

「付与魔法がかかってるインゴットとか普通じゃ手に入らないし、面白そうだよな。また余裕ができたら俺にもやらせてくれよ」

「いいよ。じゃあちゃちゃっと付与魔法かけちゃうね」


付与魔法の上達はなかなか感じられないが、それでも何度も付与している以上、付与自体は慣れてきている。まあ、それが熟練度に影響を与えているのかがわからないのが問題なのだが。

とりあえず切れ味上昇を二つに付与する。素材の時点だから問題なく付与できる。魔力の量を調整すれば付与の能力に差をつけることができるので、片方の付与を魔力を少なくして切れ味上昇(弱)に、もう片方を多めに魔力を入れて切れ味上昇(強)にしておく。

そして最後の一つに耐久値上昇を付けておく。


「これでよしっと。それじゃあ鍛冶屋いこっか」

「だな」


インゴットを空間圧縮に入れて鍛冶屋へと向かった。



「こんちはー、親方いますかー?」

「ん?おう、クレイにレンか。どうしたんだ?レンは今日休みだろ?」

「うん、ちょっと親方に頼みがあってね」

「俺は付き添い。ちょっと顔見に行ったらちょうどここに用事ができたからついてきたんだよ」

「なるほどな。んで、頼みってなんだ?また何か欲しいものでもあるのか?」

「欲しいものというか、これを使って簡単な剣を作ってほしいんだ」


そういって付与されたインゴットを三つ取り出す。


「ん?鉄インゴットだな。なんでこれで…って、おいこれ…」

「うん、付与魔法をかけたインゴットだよ。これで剣を作って付与魔法が付いたままだったらとりあえず付与魔法の利用価値は出るかなと思って」

「なるほど…。面白そうだな。すぐにやるからちょっと待ってろ」

「いいのか?親方だって仕事あるだろ?」

「なぁに、今急ぎで入ってる仕事もないし、これくらいなら問題ない。それよりせっかくだからお前も見てみるか?」

「まじで!?みるみる!」


端から見てると鍛冶師の作業は鉄を打っているだけだが、それでも鍛冶師の職業を持つ者が見るとそれだけでも技術の勉強になる。あとはそれを覚えて反復練習して体に覚えさせるのが一般的な練習だ。

楽しそうに作業場へと入っていくレンとそれを苦笑交じりに見つつトーマスがインゴットを3つ持って作業場へと行く。

クレイも一応その後をついていき、鍛冶作業を見せてもらう。

親方は自分の作業場へと行き、その後ろからレンと共に作業の様子を眺めている。

本当は左右や正面のほうが見やすいのだが、火花が飛んだり邪魔になったりするので、見学は基本後方からだ。

インゴットをしっかりと熱し、親方が金づちを振り上げて一気に振り下ろす。

キィン!と金属同士がぶつかり合う音が部屋の中に響いた。その瞬間。


(これは…)


その一瞬でそのインゴットの特異性をトーマスは見抜いた。

付与魔法が付与されている以外は何の変哲もない鉄のインゴット。しかし、その加工はどこか魔物の素材のように特殊な感覚に似ている。

しかしそこは熟練の鍛冶師でもあるトーマス。さしてこれくらいの癖のある素材ならばさして問題はない。いつも通り素材の良さを残しつつ鎚を振り下ろしていく。

問題なく切れ味上昇の二つのインゴットを剣へと加工することができた。

そして最後の耐久値上昇の付与がされているインゴットを加工するために鎚を振り下ろした瞬間、先ほどとは少し違う音が部屋に響いた。

一般の人が聞いたとしても違いは判らない。だが、見習いとはいえ鍛冶師であるレンとクラフターであるクレイにはわかった。おそらく耐久値上昇の付与が鉄インゴットを特殊な状態へと変えていたんだろう。

耐久値上昇のせいか、少し加工に時間はかかったが、それでも問題なく剣にできた。


「ほらできたぞ。なかなか面白い素材だな」


そういって完成した剣を3つ並べる。

それぞれ鑑定してみると品質としての差はない。そして付与魔法も変わらず付与された状態のまま残っていた。


「付与が残ってる…。これなら付与魔法はしばらくは素材に付与しているほうがよさそうだな…」

「でも、完成品に付与するの諦めないんだろ?」

「当然。あきらめなければそのうち魔物素材に付与できるかもしれないし」

「ふむ。それならクレイに俺から一つ依頼しよう」

「親方が?」

「ああ。付与の能力はお前に任せるから、あの付与されているインゴットを用意してほしいんだ」

「あのインゴットを?いいけど…なんで?」

「魔物素材に近しい部分があってな、安定して用意できるのならレン達のように見習いの練習用に欲しいんだ。当然鉄鉱石はこっちから卸すし報酬も渡すから」

「うん、それなら大丈夫。でも報酬ももらっていいの?」

「これはクラフターに対しての依頼だからな。どんな関係であろうと依頼にはそれ相応の報酬を。それが生産職として必須なことだ。相手が誰であろうと無償でやっちゃいけないんだ」

「なるほど」

「クレイ、それにレンもこれから生産職として働くのなら、きっちりそこらへんはわきまえておけよ。じゃないと食いつぶされるぞ」

「わかりました」


クレイもレンもまじめな表情のトーマスに対して真剣な表情でうなずく。


「よし、じゃあ依頼を受けてくれるってわけで契約のほうを定めておくか。そこらへん面倒ではあるがしっかりやらないといけないからな」

「わかりました」


とりあえず付与魔法の使い方が見つかったのでよしと考え、トーマスと依頼について話し合った。

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