上達するには反復練習が一番


クラフターとしてできることと今の実力はわかった。

後はこれをどれだけ上達できるかだけど、それは何度も繰り返し練習するしか道はない。

ただ同じことだけを続けても意味ないだろうから、できる限り工夫をしていく。

まあ、そこらへんはどの生産職でもやることだが。

できることが分かった翌日から練習のためにいろいろとやっていく。

まず午前中は村の周囲で様々な素材を鑑定しながら採取していき、自宅に戻ってから昼食を食べ、その後畜産業や狩りをしている人たちの手伝いが必要な時に行い、羊毛や皮などの端材を報酬としてもらい、夕飯を食べた後に素材加工や様々な制作をし、それに付与魔法をかける。といったなかなかに忙しい毎日を過ごしている。

そんな日をしばらく続けていき、それなりに手に入れたスキルや技術も成長しているが、それでも何となくこのままではダメな気がしている。


「どうしたものかな…」


採取によって鑑定が上がり、手に入れた素材や端材を素材加工できちんとした材料にし、その材料によってさまざまな物を作っていく。そしてその作ったものに付与魔法を施す。それによって鑑定も素材加工もクラフトも付与も順調に技術が成長している。

しかし、これらは他のクラフターもやっているであろうことだ。

そしてよく言われているようにすべての生産職ができることをそれなりにできている状態だ。つまりどこ行ってもそれなりに役に立てるはず。

それなのに不遇職だといわれているということは、やはり伸びしろがあまりよくなく、器用貧乏だからだろう。つまりこのまま他のクラフターと同じことを続けていても結局のところ同じように埋もれてしまうだろう。

つまり、何か別の事を見つけ、それをやって周囲に認めさせないと不遇職という汚名を消すことはできない。


「やっぱり付与魔法をどうにかしないとかなぁ…」


クラフター以外の生産職が作ったものに付与魔法をかけようとしてもうまくいかない。それはわかっていたのである程度練習してからそれを試してみようと思っていたが、やはりやってみないことには問題点もわからないだろう。


「よし!思い立ったら即行動!!」


とりあえず鍛冶屋のところに行っていくつか作品を譲ってもらおう。

そう考えて扉を開けて外に出た瞬間。


「いつまでやってるの!」


そこにいた怒り心頭の様子の母親に捕まり、強制的にその日の作業を辞めさせられてしまったのであった。


翌日、朝早くから鍛冶屋へと行く。村では畑を耕すための鍬や狩りに使う武器などが必要になるので、そういった物の手入れや作成を担っているのがこの鍛冶屋だ。


「おはようございまーす」


挨拶と共に中に入る。


「らっしゃい。ん?クレイじゃねぇか、今日は早いな」


鍛冶屋の主であるトーマスが笑いながらこちらに話しかけてきた。

トーマスはもともと王都で店を持っていたのだが、それなりの年齢になったということでその店を弟子に任せ、隠居がてらこの村にやってきた腕利きの鍛冶師だ。

快活な笑みを浮かべ、髪のない頭をペシリと叩いている彼は引退したといっても筋骨隆々のその体からは活気がみなぎっている。


「トーマスさんおはようございます。今日はいつもの手伝いに来たんじゃないんですよ」


たまに鉄鉱石や石材が欲しくなる時にここを手伝っている。今回はそれじゃないので先に断っておく。


「んじゃどうしたんだ?レンならまだ来てねぇぞ」

「今回はいくつか武器が欲しくて来たんですよ」

「武器?お前が使うのか?」

「いえ、付与魔法の練習に」

「ああ、そういやクラフターになったんだもんな」


ため息をつきつつどこか残念そうにつぶやいていた。

トーマスも先ほど名前が挙がっていたレンと共にいろいろと教えてくれた人で、クレイが鍛冶師になる事をひそかに願っていた人物でもある。


「でも、いいのか?俺たちが作ったものだと付与魔法って言ってもほとんどかけれんだろ」

「うん、わかってる。でもとりあえずどれくらいできるか知りたいんだ」

「そういやクラフターの不遇職って評判を覆すらしいな。なかなかに難しいぞ?」

「知ってるよ。だからこそ楽しいんじゃん」


にっこにこと笑みを浮かべているクレイにトーマスはため息をつく。

昔から難易度の高い作業でも楽しそうにやっているクレイだ。『難しい』はあきらめさせるための言葉にならず、むしろやる気を燃え上がらせてしまう言葉だ。


「まあいいがな。弟子に作らせた商品にならん奴でよければそこにあるから好きに持っていけ」


そういって示したのは箱の中に乱雑に突っ込まれている大量の剣だった。

試しに一つ手に取って少し鑑定で見てみると、鍛冶師が作ったものであるのは確かだった。ところどころ打ち込みが甘かったり、ムラがある。それでも剣としては十分な品質だ。

しかしこの店では親方であるトーマスに認められないと販売できない。この箱に入っている剣はまだまだ未熟な物ということだ。


「それならお前が望むものだろう?」


クレイが求めていたのは鍛冶師によって作られた武器。

ここにはまだ選定の儀式を受ける前の子もいる。その子達が作ったものと鍛冶師が作ったものでは明確に品質に差が出る。その差は武器に込められている魔力によるものだ。

鍛冶師以外や選定の儀式前の人物が作るものは純然たる技術のみで作られる。

しかし、鍛冶師が作った物は鍛冶師特有の魔力が籠められる。それが品質を上昇させるのだ。

そしてそれは別の職業でも同じことが言える。その魔力があるがゆえにクラフターの付与魔法をかけるのが上手くいかないのだが。


「じゃあいくつかもらっていきますね」


とりあえず何回か練習や付与の種類によって違いがあるのか、それらを知りたいので10本ほど剣をもらって空間収納へとしまう。


「便利だな、それ。ある意味それがあれば不遇職なんて不名誉挽回できそうだがな」

「でもそれってサポーターとしてじゃん。生産職として名誉挽回したいの!」


魔物がいるこの世界、冒険者のように魔物を退治する生業をしている者もいる。そして遠征しないといけない時もあり、そういった際に荷物持ちをする役割の人がパーティーの中にいたりする。

まあ、その人は荷物持ちだけでなく、食事や寝床の用意など様々なサポートをしているのだが。クラフターの中にはそっちをやっている人もちらほらといる。

器用貧乏ではあるが遠征中ではそこまでの品質を求められてはいない。食事も寝床もそれなりに作れ、空間収納で荷物持ちにもなるクラフターはサポーターとしては優秀だったりする。

とはいえクレイの目的である生産職としてのクラフターが不遇なのは間違ってはいないのだが。


「じゃあありがとうねー」

「おう。また材料欲しかったら手伝いにこいよな」

「はーい」


手を上げて挨拶を済ませ、クレイは自分のクラフト部屋へと戻った。


「さぁて、やるぞー!」


空間収納からもらった剣を一本取り出す。付与のための魔力を手から剣へと流し包み込む。

すると頭の中で付与できるものがいくつか出てきた。


切れ味上昇。

耐久値上昇。

重量軽減。

重量増加。


現時点で浮かんでいるのはこの4つ。これも練習で少しずつ増えてきている。

とりあえず切れ味上昇から付与しようとしているが、いつもの練習とは違ってうまくいかない。付与できない…というよりかは、自分の魔力が剣に入っていかない。

もともと付与する際はその付与を頭に浮かべながら自分の魔力を浸透させていく。中に入り、それが全体に浸透しきれば付与が上手くいくのだが、なかなか入っていかない。


「んー…これが付与ができないってことか…これ他のではどうなんだろ」


とりあえずまだ付与はできていないので、次は耐久値上昇を付与しようとしてみる。

しかし、その付与も魔力が上手く浸透せずにうまくいかない。それは他2つの付与でも変わらなかった。

とりあえず試しに別の剣でやってみたが、それでも結果は同じだった。


「魔力が上手く浸透しないのが付与できない原因ってところかな…これを何とかするのは…まだ無理かな…」


クラフターは魔力の扱いに秀でているが、自分以外の魔力をどうにかすることはまだできない。もしかしたら今後はできるのかもしれないが、そのやり方はまだわからない。

とりあえず今できることをやっておきたいが…どうしたものか…。

今までと同じ付与の方法ではできない。浸透させる魔力の量や質を変えればできるかもしれないが、それだと効果も減少し、ほとんど意味をなさないかもしれない。

とりあえず別の方法で同じレベルの付与ができるかどうかを調べよう。


「中に入れることができないなら…外から纏わせてみよっか」


同じように魔力で剣を包み込む。内側からだと浸透するようにイメージさせるが、外側からだとそうもいかない。纏うだけだとすぐに消えそうなので、貼り付けるようにイメージしていく。

剣に固着するように、魔力が張り付くように、イメージしていくと少しずつだが魔力が剣に定着していく。

剣の外側にぴったりと張り付き、隙間がないことを確認したので包み込んだ魔力を消す。

本来の付与ならばこれで完了だが、今回は初めて外側に張り付ける形の付与だ。とりあえず少しの間観察してみる。外側に張り付けたので外気に触れているから自然に魔力が消えていくかもしれない。

とりあえず定着はできたので、一本は経過観察用として置いておいてもう一本同じ付与を試す。こっちは試運転用だ。

同じ手順で付与していき、しっかりと張り付いたのを確認したのでその件を手に一度外に出る。

とりあえず最近付与の試し切りが増えてきたのでクラフト小屋の隣に設置されている巻き藁に向けて剣を振り上げ、踏み込みと同時に一気に振り下ろす。スパッとわらが綺麗に切れる。ここまでは想定内。あとは付与魔法の状態を確認してみるが、特にどこかはがれたとかそういった感じはない。


「んー…これで問題ないならいいけど…外側だしな…付与の耐久値が低そうだ」


付与魔法は一度掛けたら永続する…なんてこともなく、効果が無くなってしまうことも有る。まあ、基本はそれより先に壊れてしまったりもするので、武器の手入れを鍛冶屋に依頼した時に同じように付与魔法の手入れもクラフターにお願いするものだ。

まあ、あくまで付与魔法であれば、だが。

物によっては魔法効果を持つ装備があり、それらに関して効果は永続だ。一説によると持ち主の魔力によって効果が続いているとからしいが、そこらへんはまだ未解明だ。

そんなわけで付与の耐久値が低いとその分手入れの手間が多くなり、これもあまり実用的ではなくなってしまう。


「とりあえずしっかりと付与はついているし、一度使ったからと言ってすぐに消えるってことはなさそうだし…。あとはどれだけ実用性があるかだなー」


この付与が問題なく実用できるというのなら、これがクラフターとしての評価につながる一歩になる。あとは経過観察のほうがどうなるかだな…。

そういえば外側に付与したのならはがすことも可能になるのではないだろうか?

付与の耐久次第なところもあるが、自由にはがしてかけなおしてが可能であれば相手によって付与を変えるということもできるかもしれない。ここら辺はまだ未知数だ。

とりあえずしばらくはこの付与に関してどこまでできるか。それを調べていかないとだな…。



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