まずはできることを知ろう
選定の儀式によってえらばれる職業は大きく分けて二種類に分けられる。
一つは戦闘職。
これは剣士や魔法使いなど戦闘に特化した職業が選ばれる。
そしてもう一つが生産職。
こちらは鍛冶師や裁縫師など物を作る職業が選ばれる。
ちなみに農家や畜産関係もこちらに分類される。
そしてそれぞれには共通スキルというものがあり、その職業に選定されると与えられるスキルがあるのだ。
戦闘職は気配感知。
人間に限らず、魔物などの気配を察知することができるスキルだ。何度も使って鍛えることでより鮮明にその気配を察知することができる。
そして生産職には鑑定が与えられる。
それは様々な素材の名称やどのような性質を持っているかを知ることができ、それによってさまざまな物を作り上げることができる。
鑑定も何度も使って鍛えることで細かな情報まで知ることができ、飲み物に溶け込んだ毒まで判別できたりすることもできる。
そしてそれは不遇職と言われているクラフターにも与えられており、クラフターになったクレイは意気揚々と村の外へと出て素材集めをしていた。
「ふんふふ~ん♪あ、癒し草だ」
目に付いた薬草をどんどん回収していく。
それだけでなく倒木など木材もどんどん集めていく。
クラフターは魔力で様々な物を作る職業だからか、それ関連のスキルが多い。
そしてそのうちの一つが空間収納。
魔法によって作られている亜空間へと荷物を入れて保管することができるスキルで容量はまだそこまで多くはないが、それでも使っていけば容量も増えていく。
そしてスキルのレベルが上がれば亜空間内部の時間停止などで鮮度を保つこともできる。
まあ、それゆえに荷物持ちとして求められている部分があったりもするのだが。
「んー…とりあえずこんなものかな」
それなりの量の素材を空間収納へと入れており、そろそろ容量がいっぱいになりそうだ。
拾ったのは倒木を主に木材や枝、いくつかの石と薬草、蔓など簡素な物を作れる材料を集めていた。
まずやるべきことはクラフターとしてできることを確認することだ。
あまり時間をかけて村から離れると魔物に襲われるので、採取を終えたらそそくさと帰宅する。
「ただいまー」
「おかえり。いいもの手に入った?」
「うん、必要な物は手に入ったから作業してくるねー」
出迎えてくれた母親にそう答えて自分用のクラフト小屋へと行く。
手伝いがてらに行っていた大工の人たちが若手の人たちの練習がてら作ってくれたものだ。
まあ、クレイも手伝ったというか、主に内装はクレイがやっていたのだが。
扉を開けて中へと入る。
クラフト小屋の中は様々な道具がそれぞれの区画分けされるように置かれており、扉から見て正面には様々な素材を加工するための作業台が。
そして左側には錬金用の釜や器具が綺麗に並んでおり、逆側には大きめの素材を加工するための固定台が置かれている。
「さぁてやっていこうかな!」
まずは木工をやるために作業台の上にいくつかの素材を置いていく。
クラフターが行う作成は大きく分けて二つ。『手動加工』と『魔力加工』だ。
手動加工は他の生産職も行うもので、自らの手で素材を加工し、制作していく物だ。
そして魔力加工。それはクラフターだけが行えるものであり、魔力によって素材の形を変化させて加工していく。
ちなみにこの方法では一気に素材を削る感じなので、大きな端材は出てもよくある木材の削り屑などが出ないので、片付けは楽なのだが、その分加工が少し雑であり繊細な加工は製作者の高い技術が必要となる。
とりあえずクラフターになったことにより違いを知るために、まず簡単な物を作る。
倒木を切り出して立方体の木材を一つ作り出す。そして削る用の彫刻刀を手に取る。そしてちょっとずつ削っていきウサギの人形を作っていく。
まずは今までに何度もやってきたので手動加工を。慣れた手つきで彫刻刀を扱っていき、ささっと木材を削っていく。
薄い木屑が作業台の上に積もっていく。そしてどんどん削られている木材はその姿を変えていき、あっという間にウサギの人形ができた。
「よし、出来は悪くない。ここら辺は特に何か変わったってわけでも無いかな」
特に作業しているときに違和感を感じるということもなく、今まで通り作業できた。
生産職では例えば鍛冶師に選定されたのちに、木工をやってみたりすると今までできていたことができなくなっていた。といった話も聞いていた。
だからクラフターではどうなるかわからなかったが、クラフターは全部の制作ができるがゆえにそういった弊害はなさそうだ。
まあ、その分成長速度が遅いのかもしれないが。
とりあえず手動加工での変化はないので、今度はクラフターだけが使える魔力加工をやってみる。
作るものは同じウサギの人形。
同じように倒木からまずは木材へと加工する。両手に魔力を込め、そして倒木へと手をかざす。
魔力が倒木へと流れていき、包み込んでいく。まずはその先ほどの木材と同じサイズをイメージするとまるでスパッとナイフで切ったかのように輪切りされる。とりあえず大きいほうは再度空間収納へと納め、小さいほうを再度魔力で包んで立方体をイメージする。
そうするとその部分だけ綺麗に繰りぬかれ、木材と中心に四角い穴が開いた端材の二つに分かれた。
「へぇ…こうなるんだ」
輪っかになっている端材を面白そうに眺め、何かに仕えるかもしれないので空間収納へと納めておく。
そして今度は先ほどのウサギと同じものをイメージし、木材を魔力で包みこむ。
完成品をイメージしていたからか、いきなり木材が切断され、いくつもの端材が生み出される。
「わわっ!?」
予想はしていたとはいえ、いきなりすぎて戸惑ってしまう。
そしてそれがイメージを崩してしまったのか、ウサギになりかけていた木材の胴体部分が両断され、真っ二つになってしまった。
「あっちゃぁ…やっちゃった…」
二つに分かれたウサギの人形もどきを手に取る。
失敗したのは確かだが、それでも完成まであと少しだった。
見てみるとところどころ角張っており、手でやった奴よりもバランスが悪かったりと、不格好なところが多々ある。
「とりあえず完成させないとね」
再度流木から木材を切り出し、ささっと加工していく。
この素材加工に関してはさして先ほど手でやるのと遜色はない。
こっちのほうが早くて楽なので、素材加工に関しては魔法加工のほうがよさそうだ。
そして再度木材をウサギの人形へと加工していく。今度は失敗しないようにしっかりイメージしておく。今度は大きな端材ができたとしても気にはせず、そのまま進めていくと包み込まれている魔力が霧散した。
「これで完成かな?」
加工が終わったと思い、完成品を手に取って先ほど手動加工で作ったものと見比べてみる。
「ん~…やっぱところどころ荒いなぁ…。これは自分の技術の差かなぁ…」
手動加工のほうでは顔の輪郭や胴体、しっぽなどきちんと丸くなっているが、魔力加工のほうでは角張っている部分が多い。
素材加工のように大雑把な部分は問題ないが繊細なところまでは手が回らない状態というのが今の現状のようだ。
「ま、こういうのは何度も作って練習あるのみだよね!とはいえ今日は別の事も試しておきたいから…次は武器を作ってみよ」
石材と木材を組み合わせて石のナイフを作ってみる。
大きい素材を加工する場所に岩を出し細長い板に加工する。そしてそれに合わせられるように倒木のほうから木材を加工する。
石材から専用のノミを使って割るように削っていき、ナイフの形へとしていく。
さすがに割るだけでナイフにはできないので、削りようの石にこすらせて研いでいく。
そしてナイフの刃の部分が完成したので、それの持ち手を木材から作り出す。ナイフからサイズを見繕い、縦に割ってその片側を彫刻刀で削っていく。時々石の刃の持ち手の部分を当て、それがきっちりはまる様にサイズ調整をしながら削っていく。
それを両断した木材の両方でやり、きっちり貝合わせになる様に削っていく。そのうえで合わせると『エ』の形になる様に横から穴をあけ、そこに刺さる様にパーツを手動加工で削りだしていく。
「これで良しっと」
完成したパーツをそれぞれ組み合わせてナイフを作り出す。
「これくらいは魔力加工で作れるようにしたいなぁ」
さすがに細かな作業もあるので素材加工は魔力加工で、それ以外は手動加工していたがやはりクラフターになれたので全部魔力加工でやってみたい。
とりあえず切れ味の確認がてら蔓を一本取り出して刃に当ててみる。
少しギコギコと動かすことで蔓が切れたので切れ味の確認は完了。
「さて、じゃあ次は付与だね」
クラフターのもう一つの特性である付与。それがどんな感じになるかを試してみたかったからこの石のナイフを作ったのだ。
付与の方法はすでにわかっている。クラフターになってからそういった方法はやろうとしたときに頭に浮かぶようになっている。
完成品である石のナイフを魔力で包み込む。すると脳内で付与できる魔法が浮かび上がる。
「付与できるのは…耐久性上昇に切れ味上昇だけかぁ…これも慣れてないから少ないのかなぁ…」
とりあえず切れ味上昇の付与をかけることにして石のナイフを作業台の上に置き、両手で魔力を包み込ませる。
頭の中で付与魔法を選ぶことによって手から放たれている魔力が少し変質し、徐々にナイフに吸い込まれていく。
そしてこれ以上入り込まなくなったところで魔力の放出をやめ、先ほどと同じ蔓を取り出す。
同じように石のナイフを当て、わずかに動かしたらスパッと今度は綺麗に切れた。
「おー、良い感じ。これ加工用の道具に付与するのもありかもなぁ」
先ほどなかなか切れなかった蔓があっさりと切れたことにより、十分に切れ味が上がっていることが分かった。どれくらい上昇するかまではさすがにまだわからないが、それでも手動加工が楽になるのならそれはありがたい。
「さて、これでできることはやったけど次は…」
次の作業に入ろうとするとドンドンと少し荒い感じで扉がたたかれた。
「お兄ちゃんご飯だってー」
扉の外から妹の声が聞こえてくる。
「あ、もうそんな時間か」
とりあえず手に持っているナイフを作業台の上に置き、扉を開ける。
そこには今年で6歳になる妹の『ケティ』がいた。
「呼びに来てくれたのか、ありがとうケティ」
「うん!お兄ちゃん一緒にいこー!」
満面の笑みを浮かべている妹につい釣られて笑顔になってしまう。
「ちょっと待っててね、後片付けしちゃうから」
「私も手伝うー!」
「危ないからダメだよ、ちょっと待っててね」
ささっと刃物系だけきちんとした場所に片付け、それ以外の素材に関してはそのままにしておく。
そして簡単に後片付けを終えたので小屋の外へと出てケティと共に自宅へと向かう。
(とりあえずしばらくは何度も練習して技術を磨かないとかなぁ~)
そう考えて明日からの予定が決まったのであった。
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