一色




 仕事で成果を出せればいい。

 それだけが生きる意味だと言っても過言ではない。

 仕事を全力で行い、家事は必要最低限こなせばいい。

 いや、本音を言えば必要最低限こなす家事は、放置して仕事だけに専念できればいい。


 時折、鼻唄を奏でながら家事をするクロウを見て思うことがあった。

 あいつが人間だったら、さぞかし彩り豊かな生活を送ることができたのだろう。

 私がAIロボットだったら、さぞかし一色に染まった生活をおくることができただろう。

 ただ、与えられた命令を果たす日々を送ることができたのだろう。

 そこに感情が挟む余地はない。

 不要だった。


 器を間違えたのか。

 命を落とす器を、間違えてしまったのだ。


「交換、できたら。だが、仕事ではロボットは」


 力仕事や運送運搬などの分野ではAIは肉体を与えられたが、情報処理などの分野ではAIは肉体を与えられていなかった。

 既存の電子機器の中で十分その命令を果たせるからだ。


「そうか。私は、既存の電子機器に命を落としてもらえばよかったのか」


 いや。

 命を落とせばいいのだ。




 人間が新たな命をこの世に落とすためには、他者と交わらなければならないとされているが、今の時代では、その必要はない。

 今の自分の命とは違う、新たな自分の命を、自分だけで、違う器に落とすことができるのだ。











(2023.12.21)



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