伍之幕間「霧山モーニングルーティン」

 通算何度目か分からない目覚ましの音を叩きつける様に止めて瞼を開く。

全く持ってムカつく音だ。

しかし昔あまりに寝坊する為に英雄が買ってきた目覚まし時計。


「ムカつく音なら目覚めるだろ」


 と中々の名采配。

お陰で寝坊は無くなったが毎朝最悪の目覚めだ。

壊れてしまえば言い訳も立つだろうと叩きつける様に音を止めているがこれが中々どうして頑丈だ。

全然壊れない。

 大きく息を吐いて麗蘭は掛け布団を蹴り上げる。

いちいち手でどかすよりは頭を冴えさせる為にも足でどかす方が良いと思うのだ。

 ドタドタと乱雑に散らかった物の上を歩いていく。

麗蘭は底抜けにズボラだがこう見えて結構な読書家で映画愛好家だ。

お気に入りの本は“寂花の雫”。

英雄には


「もっと普通の恋愛小説を読め」


と言われているが性愛小説だって立派な恋愛小説だ。

純愛の酸いも甘いも知らない若造にあれこれと言われる筋合いはないというものだ。

因みにお気に入りの小説や映画は大体英雄の部屋に置いてある。

興味無いのに物置きにされたらまぁ文句も出るかとは思う。

その為“ロッキー”や“クリード”は英雄の部屋にある。

英雄は随分と部屋を綺麗にしているので久々に読んだり観たりしたくなれば部屋に押し入ればいいのだ。

 ふと麗蘭は思い出した様に部屋の隅の物を漁り始める。

麗蘭はこの部屋を寝に帰る物置きくらいにしか考えていないので整頓など欠片もする気はない。

漁る中で更に散乱する部屋の事も何のそのなのだ。


「お、あったぜ」


麗蘭が物の山からその手に掴んだのは小さな小袋。

パッケージには“コロンビアブレンド”と英語で書かれている。

これは確か昨日一人で呑んだ帰りに適当に買ったヤツだ。

値段は覚えていない。

一人で呑み歩くのが好きな麗蘭は酔っ払ってはこうしてどこで買ったか分からない珈琲豆買ってくる。

そして英雄の部屋に乗り込んで珈琲を淹れさせるのだ。

朝から暴虐武人な自由人だが英雄としてはもう慣れた。

というより諦めた。

 麗蘭はドタドタと鍵を締めて無理矢理近くの部屋にしてもらった英雄の部屋に向かう。


「ヒデちゃーーん! コーヒー淹れてーー!」


 麗蘭は勝手気儘に英雄の部屋へと向かった。

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