第4話 リクの家

リクは、散らかっている部屋のものを無理矢理寄せて座るスペースを作った。

ケイの受験話から、自分たちの塾の思い出話になった。



「あん時、お前告白されて付き合ってたけど、今も付き合ってるの?」


小6の春に、塾で同じクラスの女の子に告白されて付き合ったことがある。

でもたかが小学生のお付き合いだ。

登下校を一緒にするとか、ごはんを一緒に食べるとか、そんな感じだ。



「まさか、今は付き合ってないよ。中1の春くらいで自然消滅した」


「今は彼女いないの?」


「いないよ。弟の面倒見てると、そんな時間ない」


中学でも何回か告白はされたが、遊ぶ時間がとれなさそうで断っていた。



「弟に構いすぎだよ。スグルは勉強ができるから簡単にやるけどさ、本来、プロである塾の先生がやっても受かるかどうかのことなんだぜ。俺だったら絶対無理。自分のことやってたら、一日も一年もあっという間だよ」


たしかに、今の自分の世界は勉強と弟だけだ。

根を詰めてしまったかもしれない。



「彼女くらい作れよ。お前なら、簡単だろ?」


そう言って、リクは俺のスマホをいじってアプリを入れた。



「俺の選りすぐりのエロい漫画を入れておいたから。今どきパンダだって、その気にさせるために他のパンダの生殖行為を動画で見せるらしいぞ。人類が遅れをとってどうする」


リクはニヤニヤと笑って言った。



初めて弟のことを他人に話したが、話して良かったと思った。

リクが心配して元気づけてくれようとしたのが嬉しかった。



「わかったよ、ありがとう」


「ちなみに弟にはその漫画はまだ早いからな! くれぐれも見られないように!」


リクから厳重に注意を受けた。



♢♢♢



家に帰ると、ミサコさんが帰っていた。

父はまだだ。

今日も仕事なのか、付き合いなのか。

深夜帰りだろう。



「おかえりなさい」


ミサコさんはリビングから出てきて、わざわざ玄関に出迎えにきた。



「すみません、急に出かけちゃって」


「それはいいのよ。私もすぐ来れたから。でも、ケイの様子がおかしくて。何かあったの?」


ミサコさんは心配そうな顔をしている。

とりあえずリビングに移動した。



「俺が悪いんです。ケイの勉強がなかなか進まなくて、怒ってしまったから」


「そうだったの……。ごめんなさいね、全部スグルくんに任せてしまって……」


「さっき、偶然塾の友達にも会って、ケイのこと、相談してみたんです。やっぱり、塾に行かないで中学受験は無理なんじゃないか、って言われました。俺もそう思います」


「そうなのね……」


ミサコさんは神妙な面持ちで言った。



「だから今度、父とも話してみます。あの人も、そんなに受験にこだわってるように見えないんで。案外あっさりと受験の話は無くなるかもしれません。俺は、それでいいと思います」


「わかったわ……。スグルくんがそう言うなら、それがいいと思う」



ミサコさんはいい人だ。

俺はまだ中3なのに、俺をこんなにも信頼して、自分の子どもの進路を託すんだから。



「ケイの様子を見つつ、もう俺も休みますね」


俺はそう言って、子ども部屋に向かった。



♢♢♢



部屋に入ると電気はついておらず、ケイは布団にくるまっていた。

時々、ぐすっ、と鼻をすする音がするので、起きてるのだろう。



俺は何も言わず、寝支度に入った。

今、込み入った話をしてもケイは混乱するだけだ。

何より、リクと話して楽しかったこの感覚を失いたくなかった。



ベッドに入って何気なくリクが入れてくれたアプリの漫画を開く。

普通の恋愛もの、性描写が強いもの、BLもある。

今までケイと部屋が一緒だったし、自分の興味が薄いこともあって、アダルトなものは全然なかった。


ざっと目を通していると、急に露骨な描写になり驚いた。

これくらいやらないと見てもらえないのだろう。



突然、背中をもそもそと触られてびっくりした。

ケイがベッドに入ってきたのだ。

まさか、こんな漫画を見てたのを、見られてしまっただろうか。



ケイは背中から抱きついてきた。


「お兄ちゃん……ごめんなさい……」


まだ鼻をぐすぐすさせている。



何に対して謝っているのだろう。

俺は黙って、寝たふりをした。

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