第2話 模試の結果
ケイが小4のときは、騙し騙し勉強させれた。
シール、花マル、100点のようなごほうびがあればケイはやった。
ところが、小5にあがり内容が難しくなると、徐々に勉強を嫌がるようになった。
俺にとってはゲームのように覚えるだけだが、ケイは興味がないと全く頭に入らない。
だから、丸暗記ではなく一緒に調べたり、動画を見て深掘りをしてみた。
その時は面白がる。
が、結局残ってない。
そもそも一つ一つの知識にそれだけ時間をかけていたら終わらない。
逆に、考える問題は面白がってやった。
こういう論理やひらめきが必要な問題は対策が難しい。
その力が最初からあるのは助かった。
一緒に書店に行って、テキストを選んだ。
ケイは頭は悪くない。
教えればわかるし、話も文章も上手だ。
「勉強にのめり込んで数字にこだわるタイプ」じゃないだけで。
膨大な知識を、繰り返して頭にいれる”作業”が嫌なんだ。
テストや偏差値はなんだかんだ言っても、知識量が物を言う。
だから、今のケイだと能力があってもテストでは低く評価されてしまう。
♢♢♢
夏の模試の成績が出た。
E判定で、合格可能性はほぼゼロだ。
この時期の判定はあまり意味がないのだが、塾の進路面談でミサコさんとケイは無駄に落ち込んで帰ってきた。
塾に通う予定はないが、模試を受けた人へのサービスの面談があり、そこで話を聞いてきたのだ。
あちらは塾に通わせたいのだから、「今のままじゃ受からない」と当然脅してくる。
合否がどうでもいいなら堂々としていればいいのに、ミサコさんは雰囲気にのまれてどうしたらいいかと俺に相談してくる。
だから面談内容がどうだったかと聞くのだが、偏差値の世界を知らないミサコさんは、塾の先生が言っていることが理解できず、話が曖昧だ。
いっそ俺が面談に行けば良かった。
ミサコさんはあてにならないので、俺が考えてやるしかない。
自分の受験から5年も経っているから、傾向や対策は変わっているだろう。
塾からきた資料を読み込む。
今まで俺がケイに出してきた小テストの結果と模試の結果を比べて、成果が出ているか確認する。
苦手なところを細かく割り出して計画を立て、プリントを用意する。
そんな準備をしていると、ケイは何をするわけでなく黙ってそれを見ていた。
「お兄ちゃん……。成績悪くてごめんね……」
ケイはモジモジしながら謝ってきた。
「いいんだよ。まだ、一年半あるし」
ケイはずっとうつむいている。
「良い成績、とりたい?」
「うん」
しおらしく言う。
本当は遊びたいくせに。
嘘をついているとは思わない。
他の子と比べたら、ちゃんと「受験生」をやれてる。
でも、自分の小5のときとは違う。
俺はもっと、自分から勉強した。
勉強が好きだった。
知っていくこと、問題が解けること自体が面白かった。
ケイにとっては、勉強はルーチンの一つなだけで、テキストが解ければそれで終わりだ。
その先に行くために、自分で工夫することはしない。
だから何でもこちらが準備してあげなきゃいけない。
いっそ、中学受験をしたくないと言ってくれればいいのに。
父もミサコさんも、「本人がやりたいならやらせる。何事も経験だ」と言って口を出さない。
そのくせ、ケイが遊びたい気持ちを押し殺してがんばっているところを見ていない。
模試の結果を見て、通り一辺倒な励ましをする。
ミサコさんに至っては、ケイのことを何も知らない塾の先生の言葉に洗脳されて慌てている。
そんなんじゃ受験生はうかばれない。
結果なんて、すぐには出ない。
結果が出ないまま長い道のりを歩かなきゃいけないのに、努力を見てもらえないなんて辛すぎる。
本当にこんな経験に、あんたたちが言う「意味」があるんだろうか。
ケイは、まだ自分のやっていることが何なのかわかっていない。
何を聞いても、周りに合わせた返事しかしない。
分別がない。
そんなケイに、「本人がやりたいならやらせる」なのだ。
それは尊重じゃなくて、放任だ。
つい、模試の結果をにらんだまま考え事をしてしまった。
ケイはうつむいて、黙って座っている。
ケイは、そうやっていつまでも待てる子だった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます