第二話 アニメ化。
「そういえば、桜子、昔カートゥーンアニメになってたけど、あれ、なんだったん?」
「ごふっ!」
あたしは思いっきり飲んでいた牛乳を吹き出した。
「きったねっ!」
雨梨に牛乳の白い飛沫が掛かり、髪から顔から汚す。あたしは「あーあーあーごめんごめんごめん。ごめんよー」などと言いながらハンカチを取り出し、雨梨の髪から顔から拭ってやって、落ち着いたところで改めて大きく息を吐く。
「あー、ね」
「もお~」
ツインテの毛先にくんくん鼻を近づけている雨梨に努力して顔を作りながら言った。
「いやあ……。あったね、そんなこと。ほら、今更むし返されるとも思わなくってさ」
ちくしょう。
お題の時点でちょっと面白いのやめて欲しいわ。
放課後である。
あたしが何故牛乳を飲んでいるかと言うと、芸人みたく口に含んどいて吹き出したら負けよゲームをしているわけじゃなくって、単純に牛乳が好きだからである。ワンパック七十ミリリットル九十円という微妙にお値段がする牛乳は、高校校舎と中学校舎の間にある自販機に売っていて、一組から五組の向こう側クラスならともかく、六組以降クラス――つまりあたしら七組からはそこそこ近い距離にある。
ホームルームを終えた雨梨がそのまま一組から五組方向――つまりは下駄箱に向かうでもなく、自販機方向に進んで行ったために、最初からこうなる予感はあった。この前のイエティから一週間は経過している。そろそろ来る頃だろうという予感はあった。
しかし……。
イエティと来て、次はカートゥーンアニメか……。
んだよ、あたしがカートゥーンアニメになってたことあるって。
闘っていた、
という、前提条件がないためにこの前よりは自由度が高そうだが。カートゥーンというところが肝だろうか? ……今になって気付いたが、吉川さんとあたしとで前提条件違ってたな。今更どうでもいいけど。
その吉川さんはと言えば、今日も今日とて前の席でお勉強――していたんだけど、ぐっと伸びをし、教科書ノート等を片付け始めたかと思うと、振り返り、後ろ手に両腕を組みながら、にこにこと近付いてきた。
「なんの話してるんですか~」
と。
こやつ……やる気だな?
正味、あたしらがやってるこの無茶振りトーク(?)。あたしは好き好んで振られたら返しているけれど、他の子だとけっこう嫌がるのだ。一度やったらもうやりたくないと云わんばかりに次からは絶妙に避けてくる。「わたしやだー」「えーむりだよー」「そんな桜子さんみたいに面白いこと言えないよー」とかなんとか。可愛いこと言ってんじゃないよ。女子中学生が。そんなんで世の中渡っていけるかってんだ。やるよ? あたしはやるよ? 吉川さんがそう来るってんなら今日こそ白黒パンダ付けちゃうよ?
あたしの不敵な笑みを感じ取ったのだろう。吉川さんがニヤリと返してきた。
「いやあ、正直さあ。触れたくなかったから今まで敢えて語ってこなかったんだけど。こうして触れられた以上、いや、年月を経た以上、改めて振り返ってみるのもいいかもね」
説明しようと口を開きかけた雨梨に被せてあたしは言う。
勝負は、もう始まっているのだよ。
「カートゥーンアニメねえ。あったねえ」
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