第6話 超簡単death! ソフィアの魔物クッキング


「酷い……これ程とは……」

「私達の島が……」

「しかし不思議なものです。周辺は酷いのに、神社には殆ど被害が及んでいませんね」

「ん、ここは神聖な結界を感じる」

「という事はやはり猫神様が!?」

「だと思う」

「ああ、畏こくも麗しき我らの猫神様。再びこの地に帰れました事、深く感謝致します」


 ダンジョンから出たソフィア達は、猫神神社に来ていた。魔物一掃の為に、できれば島の中央に行きたいとソフィアが言った事で、中央に鎮座する猫神神社に転移してきたのだ。

 不思議な事に周辺の惨状と比べると、境内は何かに守られていたと言われても納得がいく程に2年前とさほど変わらない風景を保っていたのだった。

 

 ちなみにドローンも一緒に転移させているのだが、カメラの向こう側の動揺が透けてみえる程に激しく揺れている。


「まあ、ここまで追ってきたのです。ドローンも今さら逃げはしないでしょう。それでソフィア様、これからどうされるのですか?」

「ん、こうする――指定浮遊ニミス・ケルバ『上空800m地点』」


 ソフィアが呪文を口にするとすると、三人の足元に魔方陣が現れる。

 すると不思議な事に、魔方陣がまるでエレベーターのように三人を乗せたまま上空に迫り上がっていく。例のドローンも律儀に追ってきている。


「く、空中に浮いてますよ、神楽様!」

「燕、落ち着きなさい……お、落ちませんよね、ソフィア様?」

「大丈夫、魔方陣の中は透明な結界で保護してる」

「フゥッ、安心安全という事ですね」


 猫島で一番標高が高いのは香箱山である。標高628mの活火山ではあるが、猫島へ入島以来、幸いな事に噴火はした事がない。ちなみに旧来では死火山や休火山などと呼ばれていたが、この言葉は廃用となって今は使用されていない。


 そんな山ではあるが、60m近くあったあのコカトリスの巨体を隠せる位の標高があるのだ。ソフィアが指定した、つまりは香箱山よりさらに高い800mの上空に三人は今いるのだった。


「た、高い。香箱山があんなに下ですよ、神楽様!」

「たしか標高100m上がる毎に0.6℃下がるから、今は5℃位気温が下がってるのかしら?」

「温度調節もしてある」

「さすがです、ソフィア様」

「よく見えませんが、魔物はさほど多くいるとは感じられませんね?」

「魔物は夜行性も多い、あと隠れてたりする。だから引き摺り出す――範囲指定アルテ・ニミス『猫島全域の魔物』誘引ヴェトロマ


 ソフィアがいつもより少し長めの呪文を終えたその時、遥か下の地表付近から島全体を覆う魔方陣が光と共に出現する。

 すると地表部分に風が通り過ぎたかと思えば、次の瞬間には一瞬にして白い霧が発生し、島全体を全て飲み込んだのだ。


「凄いです! 島が霧に覆われて全部見えなくなりました!」

「……凄い」

「通称誘引の霧、今回は魔物指定で誘い出してる」

「指定という事は、どんなモノでも指定できるのでしょうか?」

「できる。指定先を変えれば個人でも種族単位でも」

「……それはアレ、バルザンですね」

「バルザン?」


 バルザンが何かを知らないソフィアはクエスチョンマークを頭に付けてはいるが、この魔法を見たものは十中八九そう感想を述べるであろう。

 しかしバルザンと違うのは、殺す為ではないという事だ。まず屋内や地下や洞窟などに潜んでいる魔物を屋外へと誘い出す事をこの魔法は目的としている。


「この霧に毒を忍ばせれば簡単に殺せると素人なりに思うのですが、全ての魔物にだけ都合よく効く毒というのはないのですか?」

「燕! いくらソフィア様でもそのような都合の良い魔法など……」

「厳密にはある。魔石に作用する毒。でもそれだと魔石が溶ける仕様」

「……あるのですね、さすがソフィア様です。ですが今後の復興資金確保の為に、魔石が必要になるので配慮してくださったのですね?」

「ん」


 魔物だけが持つ魔石に効く毒魔法は存在する。しかし今回では、その魔法を使用すると魔石が溶けるので使わなかったのだ。


「あっ、見て下さい! 霧が晴れてきました!」


 燕が地上を指で指しながら言うと、全員が下を覗き込んだ。

 そこには、今まで白く覆われていた霧が徐々に晴れていき、元の情景に戻りつつあった島の姿が見えていた――たった一つを除いて。


「なっ!? 魔物があんなにも!」

「数がさっきまでの比じゃない……率直にいって気持ち悪いです……」

「隠れていた魔物が全て屋外に出てきたハズ」

「魔物同士で争ったりはしないんですか?」

「魔物は今、全部催眠状態だから大丈夫」


 ソフィアには見えているのだが人間の二人には、地上の魔物達が口からヨダレを垂らし目が虚ろでその場でユラユラ揺れている幽鬼のようになっているとは露程も知らない。


「それでソフィア様、これからどうされるのですか?」

「仕上げに入る――亜空間倉庫リメタ・ルスト『神竜の杖』」


 そう言うとソフィアは、亜空間倉庫から神竜の杖を取り出した。


「何やら神器のような雰囲気が漂う杖ですが……?」

「神竜の杖、神竜の歯から作った」

「神竜の歯……から?」

「これから繊細さが必要な魔法を使う」

「な、なるほど?」

「ん、細かい調整は苦手」

「……そ、そうですか」


 神楽はわざと言葉を濁した。もはや神竜だの太陽だの蘇生だの言われて、頭はショート寸前である。色々聞きたい事は多いのだが、あえてハッキリ言わずに言葉を濁し曖昧にしておく方が良い時もあるのだ。


「凄い宝石ですね?」

「燕っ!?」


 だがここで予想外の範囲からツッコミが入る。燕である。

 気付いていたがあえて無視をしていたのに、だ。


「これは月の雫、高純度の魔力結晶。月に行って取ってきた」

「また今何か、聞いちゃいけないワードが出て来たのですがっ!?」

「月? お店の名前でしょうか?」

「違う、宇宙? とかに浮かぶ本物の月」

「……あー、えー、この話はまたお聞き致しますね、ソフィア様」

「……? わかった」


 ソフィアが月に行ったのは本当の事である。ただし異世界の月という但し書きが付くのだが。

 横目で燕に、余計な事を聞かないでと言わんばかりの形相を放つ神楽。そんな神楽の心中を察したのか、萎縮する燕であった。


「ん、じゃ魔物を全て駆除する。少し眩しくてうるさいかも?」

「? そうですか、では注意しておきますね」

「私も注意致します」


 ソフィアは性格上、少し言葉足らずな時がある。

 今回のこれもその類いで、少しうるさく眩しいという言葉を鵜呑みにした二人は、後に激しく後悔する事になるとはこの時は知る由もなかったのである。


「始原の魔女、ソフィア・クインが命ず。悪しきモノを辿れば善に還り、善なるモノの軌跡は悪に還る。月光の中に陽光ありて表裏一体と為す。我が元に集え、天空の眩光よ星空の常闇よ――【神威冥葬】ディバラ・フェネル


 ソフィアが両手で持った杖を胸元に掲げて長い詠唱をすると、誘引の霧と同じように地表部分に島を覆う巨大な魔方陣が現れる。

 それとは別に、ソフィア達がいる上空800mの更に上の空に、地表と同じ大きさの魔方陣が出現したのだ。つまり、魔方陣で島とソフィア達が挟まれた状態である。

 

 しかし異変はそれだけではない。霧の時も驚愕ではあったが、今回は地上ではなく上空に変化は訪れた。突如煌々と輝く真夏の太陽を遮る、分厚く黒に染まった雲海が魔方陣から出現したのである。

 猫島だけではあるが、皆既日食のように突然昼の陽光から夜の闇へとその姿を変え、島の中は虫の声すら響かず、暗闇と静寂の中に沈んだ。


「…………今日は皆既日食でしたっけ、燕?」

「……いいえ違います。が、私達が石化していた2年の間に宇宙の理が変わったのかもしれません」

「……本当にそうなら良かったのだけれど」


 二人はもはや放心状態だ。神に奉仕する二人にとって、天候の変化とは即ち天意を変える事と同義なのだ。それがいとも容易く行われている、正気を保てと言うのが無理な話である。


「我に示せ、天魔を打ち砕く聖者の槍に光の源泉を湛えよ――【月華清流】ブラム・セルカビア


 ソフィアは上空の魔方陣に向け両手で杖を突き上げるようにかざした。

 その途端、杖に携えられた月の雫と呼ぶ巨大な魔法結晶から、一筋の光の柱が魔方陣に吸い込まれていく。その様は月光の激流の如く、魔力を魔方陣へと無限に供給していった。

 やがて魔力の最後の一滴が虚空に消え去ったその時、魔方陣が波を打つように揺らぎ始める。


――後の人は言う。あれは世界中を驚天動地に染め上げるという、魔女の号砲であったと。


「我が裁きを受けよ、罪深き波旬に光の鉄槌を刻め――【星離雨散】テライン・サギマ


 ソフィアが杖を勢い良く振り下ろす。

 あたかもマエストロがオーケストラを指揮するように、下ろした杖を合図にして地上の魔物達目掛け、魔方陣から流星となった星が一斉に降り注いだ。

 放たれる、終わる事のない容赦のない光の雨。まさに読んで字の如く、天から離れた星が雨のように散る。その言葉に相応しい攻撃である。

 

 空から地上へ絶え間なく鳴動する流星群。一発必中のこの技は、必ず一発で敵の急所を仕留めるように仕組まれている。

 闇に包まれた島の地上に座した魔物共の数十万の群れに、同じ数だけ打ち付けられるそれは悲しくも万人が魅了されてしまう、燦爛たる情景であった。

 

 哀れなのは数十万の魔物達である。

 ダンジョンにいればまだ命を失う事もなかったかもしれないが、本能と欲の赴くままに穴蔵から這い出たばかりに、その最後は夢うつつのまま何が起きたかも理解できずに全てが絶命したのだ。


「「…………」」


 もはや二人は開いた口が塞がらない。

 単純にその光景に見とれているという事もあったのだが、眩しい輝きの光の奔流と、地上に打ち付けられる地響きで、半分意識が飛んでいるというのが正直な所だ。

 ドローンの向こうの人物も心慌意乱しんこういらんであろう事は想像に難くない。


 一体どれ位の時間が過ぎたのだろうか?

 魔方陣から放たれる流星雨がその役目を終え霧散した頃に、同時に空を覆っていた厚く黒い雲海は徐々に薄れ、やがて日の光が空を取り戻す頃に溶けるようにして消えていった。


「……終わった」

「「…………」」

「……? 終わったけど?」

「え、ええソフィア様、お疲れ様でした。申し訳ありません、今ちょっと文字通り目が眩んでいまして……」

「お疲れ様ですソフィア様。すみません、私も目が眩んで」

完全治癒タイデル・ミスト――どう? 治った?」


 ソフィアがあの大魔法の後であるにも関わらず、微塵の疲労も感じさせないでこれもまたいとも簡単に完全治癒という伝説の魔法を、二人に杖を振って使用する。

 その当事者達は事前にソフィアに言われた事を心の中で反芻しながら「そうじゃないんです!」と激しくツッコミを入れていた。

 

 そもそも二人が言った目が眩むとは確かに目も眩んではいるのだが、どちらかというと衝撃が凄すぎて立ち眩みがするというニュアンスに近いのだ。

 残念ながらソフィアにはこの手の細かい感情を察しろというのは無理な話である。


「あ、ありがとうございますソフィア様。楽になりました」

「え、ええ。楽になりました、ありがとうございますソフィア様」

「ん、あとは魔物の死体」

「あっ、そうですね」

「ええ、この膨大な数の魔石があればこの猫島の復興資金の足しになります。もちろんソフィア様に所有権はあるのですが……」


 猫島を支配していた魔物達の駆除は完了した。しかしだからといって、これで全てが終わりな訳がない。

 少なくとも災害からの復興というものは、インフラが完全に元に戻り被害にあった全ての人々が元の生活に戻れる事でようやく復興の二文字が見えてくるのだ。


「私はいらない。けどわかった、回収しとく――亜空間倉庫リメタ・ルスト範囲指定アルテ・ニミス『猫島全域の魔物の死体』収容アダイン


 再度ソフィアは杖を振るう。地上に目を向ければ、島の中にあれだけ大量に沸き死んで物言わぬ骸となった魔物達が、一瞬にして消え去りその場には色とりどりの血痕の後だけが残されていたのである。


「まあ、もうソフィア様ですから」

「そうですね、もうソフィア様ですから」

「……建物はどうする?」

「……どうするとは、どういう事でしょうかソフィア様?」

「壊れた建物も全て直せる」

「「…………」」


 ……どうやら復興の二文字は既に見えていたようだ。

 見えているどころかソフィアの言い方だと、今日にでも2年前と変わらぬ生活が送れるような言葉であった。二人はもう思考を拒否している顔である。


「……そ、それはこの瓦礫の街がも、元に戻るという事でしょうか?」

「ん、ただ勝手にやると怒られる」

「「……?」」

「前の世界で同じような時、弟子に『建築を生業としている者の収入を奪わないで下さい』って怒られた」

「……あ~っ! そういう事ですか」

「なるほど、合点がいきました」


 世界は違っていてもそこに人が住み、貨幣又はそれに準ずる物で生活を営んでいる者達がいる以上、インフラの整備というのは必然になってくる。

 家然り水回り然り、灯りや食料、道路や物流など他諸々の社会生活基盤があって、初めて文明的な営みを享受できる。


 しかしソフィアのように善意から無償で直した結果、インフラ整備で収入を得ている者達の仕事を奪う事になり、最終的にその人達の家族の糧を奪う事にも繋がったのだ。


「確かにソフィア様のお弟子さんの言う通りです。この街にも建設業に従事している者は少なくありません……ですがその人達は今、避難先で新たな仕事に就いて収入を得ているでしょう」

「神楽様のおっしゃる通りです。今、全てを直してもその者達の糧を奪う事には繋がりません」

「そうです。この先何年も復興に掛かるのならば、今ソフィア様に復元して頂き一刻も早くこの島へ帰島したいという者が大多数でしょう」

「怒る人もいると思う」

「全て復元したとしても感謝こそすれ、怒る者などいないと思いますよ。もしいたなら私がその方と、じっくりohanashiしますからどうぞご安心ください」


 神楽の黒い微笑が突き刺さり、ドローンが一瞬揺れる。

 建設業は確かにインフラの一翼を担うとても大切な事業である。だがしかし全てという訳ではない。インフラとは人々がその地において社会生活を送る事によって、初めて成り立つものなのだ。どんなに箱庭に砂を詰めても、そこに人がいなければ意味がない。

 

「ん、じゃ直していい?」

「はい、もしお疲れでないようでしたらお願い致します」

「建設業の人達は、ここに帰ってきても色々な仕事がありますから、無くなりは致しません」

「ん、わかった。直す――範囲指定アルテ・ニミス『猫島全域の建築物』完全復元タイデル・リモント

 

 今迄と同じように島全体に魔方陣が輝き、全てを照らしていく。粉砕してバラバラだった石像を復元した時と同じように、時が逆流していき元の姿へと変貌していく。

 光が静まった時に姿を現したのは、2年前と変わらぬ街並みであった。


「街が……私達の街がっ!」

「神楽様っ! 街が、街が戻って参りました!」

「猫ちゃんが住むのに相応しい綺麗な街」


 お互いに抱き合って喜ぶ神楽と燕の二人の目には、涙が溢れていた。

 予想はしていたものの、予想以上だった凶悪な怪物コカトリスによって奪われた街並みと生活。それが目の前に変わらぬ姿で復活したのだ。

 普通なら復興まで何年掛かるか分からない。復興したとしてもまともに社会生活を送れるのはさらに何年先か想像がつかない。

 そんな惨状だった光景が、一瞬で元の想い出溢れる街並みに戻ったのだ。


 二人は感慨深そうに街並みを、暫くの間上空から見下ろしていたのだった


「ありがとうございます、ソフィア様。島民を代表して御礼申し上げます。この御恩は私が身命を投げ打ってでも報いる所存です」

「私もです。主人は神楽様ですが、なんなりとご用命をお申し付け下さい」

「特にない。猫ちゃんがいればいい」

「猫ですね、分かりました! この神楽の名において、選りすぐりのカワイイモフ猫達を連れて参ります!」

「ん、すごい楽しみにしてる」

「お任せ下さいませ!」


 ソフィアにとってはどんなに大魔法を連発して誰に感謝されようとも、自身の一番の関心事は猫なのである。


「ん……地上降下エルソロ・センシア

 

 ソフィアは自分達が乗っている魔方陣を杖で叩きながら呪文を口にする。エレベーターもどきは、ゆっくりと地上へと下降していく。やがてそれは地表に降り立ち、役目を終えたと同時に霧散して消えた。


「到着……臭い――範囲指定アルテ・ニミス『猫島全域』完全清浄タイデル・パダス

「「えっ、ソフィア様?」」


 ソフィアはまたしても伝説の類いの大魔法を行使した。

 そのおかげではあるが、島の中に蔓延っていた血生臭さや血痕の跡、そこら中に垂れ流していたし尿などの汚物、それに伴う雑菌や病原菌なども一緒に除去されたのだ。


「臭かったから」

「もはや何度目の感謝か数えきれませんが、ありがとうございますソフィア様」

「ありがとうございます!」

「ん、大丈夫」

「この清々しさ! 神聖な感じがしますね、神楽様!」

「そうですね、神社の境内と同じ感覚です」

「空気も綺麗で猫ちゃんも喜ぶ」

「魔物もいなくなり、見慣れた街並みです!」

「いまだに信じられません、あの魔物の大群がこの短時間でいなくなるなんて」


 街は2年前と全く同じ姿を完全に取り戻した。

 だがまだ箱庭を用意しただけだ。ここに帰るべき者達が帰って来てこそ、初めてこの猫島は時が再び動き出すのである。


「さて燕、ご苦労ですが島内に2ヶ所あるライブカメラを、今すぐに切って来て下さい」

「はっ、かしこまりました! それでは行って参ります」

「ん?」

「ソフィア様はお気になさらず……父上にばれる訳にはいきませんので」

「わからないけどわかった」


 神楽の号令で燕は瞬時に姿を消す。

 ライブカメラは国や自治体などが観光地や河川、海沿いや灯台、山などに設置した24時間ライブ配信で見られるものである。

 日本全国でおよそ35000ヶ所にも及ぶライブカメラが設置されており、天候や災害の予見だけでなく、犯罪防止や抑制にも一助を買っている。

 

 そんなカメラがこの猫島には2ヶ所あり、まだソフィアの事を知られる訳にはいかない神楽が、燕に対処してくるように頼んだのだ。

 

「次はアレの対処ですが……ソフィア様、申し訳ありませんがこの近辺の海沿いに、船が停泊していないか調べられますか?」

「? ん、わかる――遠見タリタス


 ソフィアは神楽に言われて魔法を行使する。この遠見は100km以内であれば遠方の物を見る事のできる望遠鏡の強力版である。


「居た。男女が二人、船の上にいる」

「やはり……ソフィア様、お手数ですが私達をそこに転移させてもらっても宜しいですか?」

「ん、大丈夫――範囲転移アルテ・ポルテ


 二人が転移すると、そこは船上であった。

 自分達が一方的に知っている二人の姿が突然目の前に現れて、そこにいた男女は口を開けて放心状態だ。

 神楽はそんな二人を前に暗黒微笑を讃えて、第一声を放つ。


「初めまして、ご存じかとは思いますが猫宮神楽と申します。色々ohanashiしましょうね?」


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る