第23話 群馬の心霊スポットを探す

俺は常に死ぬ事を考えている。


去年、アパートにある「ぶら下がり健康器」で首を吊ろうとしたら普通に足が床についてしまった。これじゃ死ねない。高さが全く足りなかった。


首吊りには「定型」と「非定型」の2種類がある。多くの人が首吊りと聞いてイメージするのは、高い所に縄をかけて自分の足が地面につかないようにする方法だと思うが、これを定型首吊りと言う。一方の非定型首吊りは、例えばドアノブなどを使った、足が地面につく方法だ。


俺はぶら下がり健康器を使い非定型首吊りで死のうとしたが、非定型だとどうしても甘えが出てしまい途中で断念してしまう。全体重をかけられない。


かと言って定型で吊ろうとすると、余裕で床に足がつく。


つまり俺がアパート内で首吊りをする事はできない。


あとは包丁で自分の喉元を掻き切るくらいしか思いつかない。


20歳まで勤めていた会社で、俺はよく仕事中に「家に帰ったら頸動脈を切ろう」と思っていた。それでも結局俺は首に“ためらい傷”を何ヶ所か付けただけだった。


何年も死にたいと思っても、俺は死ぬ勇気が持てない。


でも去年、俺は惜しいところまで行った。


非定型首吊りをしたら、視界が白くなってきて意識が遠のいた。途轍もない苦しさの中にほんの少しだけ気持ち良さもあったような気もする。あのまま続けていたら死んでいたと思う。


まあ、どうせ俺は死ねないんだから、「死ぬ」とか「死にたい」とか、そういう発言はしない方が良いな。特に大切な人に向かって「死にたい」と言ってしまうと、その人を困らせてしまうし、傷付けてしまう事にもなる。


「生きてほしい」と言ってくれた人の気持ちは無碍にしたくない。


もう27歳だ。俺は27歳なりの生き方をしなきゃいけない。でも死にたい気持ちが消えない。何をどうしても大人っぽく生きられない。俺はやっぱり死んでないだけの無気力人間だ。何かしら強制される予定が無ければ基本アパートに引きこもってる。俺はただ死んでないだけ。


俺はいつも寂しい。理由も無く常に悲しい。



うちのアパートは3階建てだから、1番高い所から落ちても死ねないと思う。


どこか、廃墟になったホテルとか病院とかビル探そうかな。群馬はそういうスポットいっぱいありそう。


首吊りができないとなったら、やっぱり酒飲みまくった上での飛び降りしか無いかな。車持ってるから練炭でもいいけど、俺は睡眠薬の耐性が付きすぎて、どんな薬を飲もうが眠れないと思う。電車は他人に掛ける迷惑が大きいから選択肢から除外する。


なんで俺は、こうして死ぬ事を考えているのか。うまく言語化できない。


タバコが止まらない。


まともに生きられない。


まともに思考できない。


俺は高い場所から飛び降りたい。とりあえず群馬県内で高い場所を探して、車で下見に向かってみる。


「群馬 廃墟」で画像検索した。一通り見たが、高所は見つからなかった。


「群馬 廃墟ビル」で画像検索すると、前橋市に大友ビルというのがあったが、解体されたらしい。大友ビルの写真を見た感じ、普通に周りにいっぱい人が住んでそうだから、解体されていなかったとしても大友ビルは排除していた。


「群馬 高所」で画像検索しても高所作業車しか出てこない。(ちなみに俺の前々職は高所作業車の操作盤を作る仕事だった。板金を組み立てたり配線を組んだりする仕事)


「群馬 心霊スポット」で検索すると、かなり良さそうな橋が出てきた。富岡市にある不通橋。自殺者が絶えない橋らしい。高さ2メートルの金網が設置されているのだとか。まあ心霊スポットになるような場所は元々自殺者が多かったり惨い殺人事件が起きた場所であるケースがほとんどだ。


橋の金網なんて脚立を使えば乗り越えられる。問題はその橋が心霊スポットとして定着しているという点だ。普通なら夜から深夜の人が来ない時間を狙いたいところだが、心霊スポットのゴールデンタイムはむしろ夜以降であり、橋を見物に来た学生とかヤンキーに出会う可能性がある。それは避けたい。


みどり市にも同じようなスポットがあるらしい。渡良瀬川に架かっている「はねたき橋」だ。自殺防止の看板もあるらしい。それがむしろ自殺スポットとしての信憑性を高めまくっている。だが、みどり市はここから遠い。富岡の不通橋が良いかもしれない。


そもそもなんで俺が人目に付かない場所で死にたいかというと、死ぬところを人に見せたくないからだ。俺だったら多分、自死の瞬間を見たらトラウマになる。だから人の来ない廃墟や心霊スポットがいい。


別に俺は今すぐ死ぬわけじゃない。


でも、今は死ぬことを考えてると落ち着く。


急に寂しくなって、抱きしめられたくなる。


でも無条件に抱きしめてくれるのは、俺が赤ちゃんだった頃の母親くらいだ。


金を払えば風俗嬢は抱きしめてくれる。やらせてくれる。だが、そんなの余計虚しくなるだけだった。


真実の愛が俺を包んでほしい。


やがて朝が来た。朝の陽光が俺の孤独なアパートを照らした。


実際、俺は人を愛したいし人に愛されたい。この世界も愛したい。


俺は孤独ではあったが、仲間に入れなくてもこの世界を愛していた。


1000の痛みを抱いて空を飛べ。






24話に続く

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