第7話 死に関する会話
昼下がり、俺は友人の「佐藤あかり」と喫茶店にいた。同じ精神病院に入院してる時に知り合って仲良くなった人だ。あかりはクリームが沢山乗ったパンケーキを美味しそうにもぐもぐ頬張りながら、言った。
「優雅くん、“ペントバルビタール”って知ってる?」
「知らない。薬の名前?」
「スイスで安楽死に使われてる薬だよ。スイスって良い国だよね。死ぬ権利があるんだから」
「うん。良い国だと思う。生まれる権利と死ぬ権利は同じだと俺は思うから」
「でも安楽死の条件は厳しくて、精神疾患の人は本当によっぽどじゃないと安楽死できない。安楽死できるのは基本、肉体的に不治の病の人だけらしい。末期癌とか。簡単にぽんぽん死ねるわけじゃないんだよ」
「じゃあ俺は安楽死できないな。たしかスイスで安楽死するには、まず日本の医師の診断書が要る。手続きはかなりめんどくさい。スイスで安楽死した日本人がいたけど、診断書を書いた日本人医師は別件の安楽死事件で逮捕されたらしい」
「スイスだと自殺幇助は罪にならないけど、日本だと自殺幇助は犯罪だからね。だから精神科医はとにかく生きさせようとする。“あなた生きる価値ないから早く自殺した方がいいですよ”なんて言う先生は、まずいないよね」
「そんな精神科医がいたら、速攻でクビだ」
「あはは」
「そういえば去年か一昨年、カナダで精神疾患者の安楽死も認められるようになったらしいよ」
「へえ。カナダもいい国だね。そういえば日本の政党で安楽死を進めようとしてる政党なかったっけ?」
「ああ、“安楽死制度を考える会”っていうのがあった気がする」
「日本も安楽死が合法化しないかな」
「日本は絶対無理だよ。死に関する議論なんて、この国の政治家がすると思う?」
「思わない」
「日本の政治家は臭い物には蓋をする。あと、日本で安楽死を合法化したら奴隷が減るから偉い人とか支配者層が困る。人減ったら税収が減る。資本主義は相対的だからこそ資本家が華やかな人生を謳歌できる。だから死にたい奴こそ生かさないと駄目なんだ。弱者がいるから強者がいる。残酷な話だ」
「うん。でもまあ、人間はまだ良い方じゃない? 動物界なんて、弱い個体はすぐ他の動物に殺されちゃうよ」
「いっそ殺してくれた方が楽じゃないか? 人間は、なまじ知能があるせいで、弱者を生殺しにするんだよ」
「あ、すっかり忘れてた。今日は優雅に大切な話があったんだよ。ペントバルビタールのことで」
「うん」
「今、私のバッグの中にね、ペントバルビタールが何十錠もあるの」
「え、なんで?」
「私のお兄ちゃんに頼んだの」
「あかりのお兄ちゃん何者なん?」
「薬剤師だよ。どのルートから取り寄せてくれたかは教えてくれなかった。死にたいなら飲んでみる?」
「うん」
「じゃあ手出して」
あかりがバッグから取り出したのはフリスクのケースだった。フリスクを1粒だけ俺の手の上に出したあかりは、言った。
「これたくさん飲んだら死ねるよ」
「死ねないよ。これフリスクだもん」
「死ねるよ。私、今からこれODして死ぬから!」
そう言って、あかりは、フリスクを一気に口の中に入れまくって、水でそれを流し込んだ。
「あれ、全然死ねない。これただのスースーするやつじゃん。お兄ちゃんに騙された!」
あかりは残念そうに言って、笑った。そしてパンケーキを口に運んだ。
「おいしい」
◆
◆
日本における年間の自殺者は2万人。行方不明者が8万人。変死者が15万人。
遺書が無ければ、自殺者も変死者として数えられるケースがかなり多いらしい。実際のところ年間で何万人が自ら命を絶っているのかは不明だが、政府の公式発表の2万人を遥かに超える人数なのは火を見るより明らかだ。
また、先進国(G7)の中で日本は最も自殺率が高く、15歳〜35歳までの死因の第1位が「自殺」なのも日本だけである。
また、日本人の自殺の既遂率は2%で、98%の人は未遂に終わる。
そして、精神疾患を持つ日本人は令和2年の時点で615万人。日本の発達障害者は推定800万人とされている。
日本の総人口は約1億2200万人。
俺は12200分の615と800を同時に引いた事になる。やっぱりマイノリティ側の人だ。
色んなデータを調べてみて、俺は「死にたがってる日本人が多すぎる」と思った。(俺もそのうちの1人だが)
たしかに日本は同調圧力が強い方だと思うし、みんな常に周りの目を気にしている感じがする。そして日本人は謙虚であること、他人に優しくあることが美徳とされてきた。それが逆に良くない。自分を責める人の増加に繋がっていると思う。そして近年のSNSの普及で、多くの人が自分と他人の“格差”を感じやすくなった。SNSは劣等感の温床となっている。5chとかの匿名掲示板では常に弱者への差別や攻撃が絶えない。
ブータンという国の幸福度ランキングは数年前まで世界1位だったが、ブータンにインターネットが普及した途端、ブータンの幸福度ランキングは、ありえないくらい下落した。井の中の蛙が大海を知った結果、知らなくてもいい不幸を自覚してしまった形である。
やっぱり自分と他人を比較してしまう事が、不幸に繋がるのだと思う。
韓国のことわざで「他者との比較は不幸の始まり」っていうのがある。このことわざには完全に同意する。
だが、自分と他人を比較する事を俺は中々やめられそうにない。難しい事だ。
今日も隣の芝生はキラキラのオーシャンブルーです、か。
他人と比較してしまうのは人間の性。(さが)
◆
仕事納めが28日なので、俺はそれまで会社に行かないといけない。でも、そこからは無職だ。俺は将来を悲観しているが、まあ何とかなるだろ。
今までも何とかなってきたから。
◆
暗いことを書いたので、ここからはどうでもいい事を書く。
俺はゲームが趣味だが、最近遊びまくった結果、また積みゲーが無くなってしまった。金銭面に余裕が無いからあんまりゲームばっか買ってると貯金が終わる。
でもさっきAmazonで「ジャッジアイズ」と「ロストジャッジメント」ってゲームを廉価で買った。龍が如くスタジオが作ったゲームで、どっちもかなり名作らしい。楽しみ。
スマホ版のロマンシングサガ3を買って暇な時にちょこちょこ遊んでたら、クリアしてしまった。レトロゲームも味があって面白い。
ソシャゲは野球のゲームを何年も無課金で遊んでる。
27歳の大人になってもゲームは楽しい。
ゲームが1番の暇潰しになる。
アニメは最近めっきり見なくなったな。
◆
もうどこかで何度も書いてるけど、俺には姉と妹がいる。2人とも既に結婚している。
正直羨ましい。俺は結婚願望は一切ないものの、一生を添い遂げたいと思えるほどの人と出会えた姉と妹は羨ましい。
姉は16歳くらいの時から現在に至るまで双極性障害に苦しんでいる。
妹は特に病気も障害も無いが、一時期精神科に通院していた。
俺については、鬱で今も通院している。
先日、妹は旦那さんとウェディングフォトを撮った。厳かな場所でプロのカメラマンが撮りまくった。色んな衣装や場所で撮った総計200枚近い写真が、この前、家族のグループラインでアルバムとして共有された。
ウェディングフォトを見て、俺はちょっと感動した。
やっぱりプロのカメラマンってすごいなと思った。本当に全てクオリティの高い写真だった。妹も旦那さんも芸能人のように綺麗に見えた。(実際、妹も旦那さんも整った顔だ)
旦那さんに関しては、身長が193センチもある。でかい!!!!!!
ちなみに俺は171センチ。ちょうど日本人男性の平均くらいはあるのかな。ずっと170センチをぎりぎり超えるくらいだったけど、去年くらいに1センチ伸びた。
俺は自分の外見にはコンプレックスがほとんど無い。それより、内面的な事に延々と悩んでいる。
◆
全体で通して見れば、暗い気持ちになる事も多いけど、瞬間瞬間では楽しい事や嬉しい事だって多い1年だったなと思う。
この文を読んでくれたあなたにも、楽しい事や嬉しい事が起こるように俺は陰ながら祈っている。
「ことだま」も、きっとある。
8話に続く
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