第12話 魔法執判官
そこにいたのは、ひと組の男女だった。
「あの」
そう声をかけようとして、ライズは言葉を詰まらせる。
夕暮れの正門が近づくにつれ、だんだんとその姿がはっきりしてくる。
石畳に長い影を敷いて立つ彼らは、年配の捜査官が来ると思っていたライズの予想に反してずいぶんと若かった。
今年27になる自分と、そう変わらないのではないかと思う。
そんなことを考えていると、すっと。
遮るように、リィエンが前にでた。
「学校に何かご用でしょうか。よければ承りますが」
「あの、私たち」
そう言いかけて、女性はさっと周囲に視線を走らせる。
正門には誰の姿もなかったが、それでも彼女は声をひそめて言った。
「事件の連絡を受けてまいりました、魔法
「やはりそうでしたか。すみません、試すような真似をして。学校という場所はこの手の状況に
「お気になさらないでください。私は、フィフィー・オルヴァリアと申します」
フィフィーと名乗った彼女はライズから見て礼儀正しく——そして、どこか固い印象の女性だった。
淡くピンクに色づいた
解けば腰までありそうなそれは、今はうなじが見えるほど高く結い上げられている。
紫のシャツにネクタイ。黒を基調としたかっちりしたジャケットにタイトなズボンという出立ちは少しの隙もないように見えたが、右耳の傍に飾られた一輪の花が、不思議と目を引いた。
「そして彼が」
「はじめまして、俺はオルヴァリアさんの部下のヴァン・グリーと言います。どうぞよろしく」
どこかとっつきにくいフィフィーとは違い、声色も、表情も。ヴァンはすべてが親しみやすい人物だった。
アッシュブラウンの髪を荒く撫でつけ、ロングジャケットを着こなす
身長もリィエンより拳一つ分、彼のほうが高かった。
ヴァンはターコイズの瞳で愛想よく笑うと、挨拶ついでにとショートグローブをはめた手を差しだす。
するとリィエンは、すぐに困ったような表情をした。
「すみません、僕は重度の
「そうだったのか?」
そう尋ねたライズにリィエンはただ、かすかな笑みを返す。その間にヴァンは出していた手をひっこめると、眉を下げて笑った。
「そいつはすみません。それで、おふたりはこの学校の先生ってことでいいんですよね?」
「少し違いますが、おおむねは。僕はリィエン・チアーファ」
すると、ヴァンがああ、と納得したように頷く。
「目の色でそうかと思いましたけど、やっぱり東のご出身だったんですね」
「よくご存じですね」
そう微笑むリィエンの瞳は、
東のほうに住む人々はみな、色は多少違えど、星のような光を宿しているのだという。
「実家が、東との交易地で宿をやってまして」
「そうでしたか。……ああ、それと」
そのときだった。
これまでほとんど触れてこなかったのに。
和やかな雰囲気のなか、急に、リィエンがライズを手でさし示す。
「紹介が遅れましたが、こちらはライズ・グロリエル先生」
彼はそうライズを紹介しながら——けど顔は魔法執判官のふたりに向けたまま、こう言った。
「魔法薬学の教師です」
その瞬間——。
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