第55話
ソロンが意趣返しとして行った『特別料理購入権』は、ファンが多い生徒会長であるセシリアがそのカリスマ性と可愛らしさを利用して生徒達を魅了して自分を守らせながら、他の4人を倒させる方法を取り、結果として、その4人が過剰攻撃――現人神やそれに匹敵する実力者達は、力加減に気をつけなければ一般人なら簡単に吹き飛ばしてしまう――による失格負けで終わった。残りはセシリアだけとなったが、セシリア
「それにしても、ソロン・・・・・・貴方は加減というものを覚えたらどうなの?」
「シエル様に対して適当なものなど作れませんからね」
「だからといって、あれはやり過ぎだと思うわ」
その料理はシエル
特に、【世界最巧】と呼ばれる器用さの無駄使いとさえ思えるような力を発揮してすべての盛り付けをソロンが一人で行ったことについて、シエルは顔を引き攣らせていた。流石に、場所が場所なので周囲に自身の表情がバレないように微笑んでいる偽りの仮面を被っていたが。
ただし、もしここが学園ではなく、皇城の自室か周囲に誰もいない場所であったならば、シエルは両手をグーにして、思いっきりポコポコとソロンのことを叩いていただろう。ソロンにとっては『本日も可愛らしい』程度にしか思わないが。
「・・・・・・そういえば、貴方はどの授業を受ける予定なのですか?」
偶然、特待生クラスの者達全員が近くにいた昼食中に
簡単にまとめると、以下の4点となっていた。
・授業は他クラスの生徒と一緒に受けるものとする。
・どの授業を、どのクラスとやるかも自由。
・上の学年のクラスと混ざりたい場合はそのクラスと自クラスの担任と、その授業担当の教員全員の許可を必須とする。
・授業は基本的に中等部レベルのものとするが、研究系の授業であれば高等部や大学院レベルのものとなっても構わない。
他にも色々と制限や権利などがあったが、この4点が全員が共通して理解できた内容である。
「私がお答えする前に、シエル様にお聞きしたいことがございます。エルフィ様が説明なされた内容で重要な点がいくつかありましたが、おわかりでしょうか?」
ここにはまだシエルとソロンの関係について知らない者もいるため、ソロンの口調は丁寧なものとなっていた。
シエルは顎に人差し指を当てながら少し考える素振りを見せた後、
「ん〜、そうですね〜。大学院と同じく、授業を自分たちで選択させている点、でしょうか?」
学校は下から順に、初等部・中等部・高等部・大学院の4種類が存在する。
初等部は6年間、中等部と高等部は3年間。大学院は3〜6年間と定められているが、稀に飛び級を行う成績優秀者もいる。
ちなみに、国が運営する学校であればこのすべてが揃っているが、貴族や商人たちが運営する学校は大学院を除く3種類のうち1つか2つしかない所が多いし、教会が寄付金を使用して運営する学校は初等部の中でも前半に教えられることしか学べないこともある。
「そうですね。しかし、それは一番重要な点ではございません。一番重要なのは。『研究系の授業であれば高等部や大学院レベルのものとなっても構わない』という点です。これが何を意味するか分かりますか?」
「・・・・・・まさか、ふるい落としですか?」
大学院には授業内容を意図的に難しくして箔を付けようとするだけの生徒を追い払い、本気で興味を持っている者や真面目に研究をしたい者だけを残そうとする教授も多いし、教授たちは教師である以前に研究者だ。それもその分野の第一人者や権威持ちであることが多い。よって、自分の研究の方が忙しく教えている暇がない時も多かったりする。だからこそ、受講者をふるいにかけることはよくある。
「ただし、ここは大学院ではなく、中等部ですので、わざわざふるい落とさなければならないほど生徒間のレベル差はないと思われます。・・・・・・私の記憶が正しければ、リアム王太子殿下はすでに政策の一部を任されておられるお方です。また、その護衛も危険物の研究をしているとお聞きします。リーゼロッテ皇女殿下も精霊や妖精に関する魔法の才をお持ちです。このように、今年は黄金期とも呼ばれるほど優秀な方々が多く入学しておられます。そのため、国民にはより向上心を芽生えさせ、他国の方々には退屈させず、良い印象を持たせ、より親密な外交関係を築くのが狙いのように感じます。」
「・・・・・・あのお父様のことですからね。実力主義の塊で、頭まで筋肉でできた脳筋と思われがちだけど、意外と他国との外交関係などに気を張っていますし、最近は魔術帝国との関係が・・・・・・まさか、これも関係していますか?」
「さて、どうでしょうか?私のような身分の者には国家機密など分かりかねます。」
シエルはソロンのことをジト目で睨む。
内心としては『何言ってんだ、こいつ。』である。
国内外問わず、『魔法帝国の第三皇女殿下の専属執事は主に対して過保護』という噂は広まっているが、あくまでも『第三皇女殿下の専属執事』であり、他には『宮廷司書』という役職持ちであることしか知られていない。
よって、国家機密を知ることは当然不可能であるが、いくつかの例外がある。
そのうちの一つが闇ギルドだ。
国の暗部とも呼ばれるその組織には、表から裏まで様々な情報が集まる。
入手経路は不明。ただし、その正確性から国の諜報機関に紛れ込んでいるという噂もある程である。
「・・・・・・古巣には数年ほど前から顔を出していませんよ、当然ですが、人にも会っていません。加えて、あそこも一枚岩ではありませんよ?」
「分かっているわ。物理的な距離的問題、情報の隠匿や秘匿などによる問題、そして何より、国外の情報の正確性の問題でしょ。」
「距離が離れて連絡が密に取れないため、ほぼ独立状態ですから。こればかりは遠距離魔導具が完成するか、・・・・・・短期間でも良いのであれば、共通の凶悪な敵を存在させない限りは無理でしょう。」
ソロンは大袈裟に肩をすくめながら答えたが、これは誇張なき真実だった。
闇ギルドはその存在の秘匿のために、ギルド同士の距離が一定以上離れている。
国に1つしかないということだって珍しくない。
加えて、連絡を取り合う手段が限られていることも要因の一つだ。
闇ギルドの一つが捕縛対象となり、ギルドの正確な場所が明るみになった場合、他の闇ギルドの場所も発覚する恐れがある。
そのため、万が一のことを考えて、通常とは異なる非正規の手段で送る。
ただし、闇ギルドは必ずしもすべてが悪というわけではない。
一部のギルドは悪事を働くこともある。
確かに、そのようなギルドもあるが、基本的には『必要悪』の存在となっている。
例えば、借金を返済できず奴隷身分に落ちた(されられた)者への仕事の斡旋、悪徳な事をしていないかの調査、身分違いの者同士の文通や逢瀬の仲介、王侯貴族のお忍び、合法・非合法問わず通常では手に入らないものの取り扱い、などなど。
つまり、大抵の者達からすれば有益な存在であることが多いのだ。
「って、さっきから話を逸らしていない?まさか、変な授業を受けているわけではないでしょうね?」
「そのような事実は存じ上げません。また、授業の選択については各自の自由ですので、報告義務はありません。また、主の予定に合わせた行動をしなければならない従者へお伝えすることはあっても、その逆はあまりあまりません。」
「・・・・・・ジー、何か怪しいわね?主人として、そして皇女として、専属執事ソロンに命じます。あなたの選んだ授業を教えなさい。」
何故、先程から豆知識のようなことの説明がされていたのか。
何故、ソロンがこのように自身の選択した授業を教えたがらないのか。
その答えは至って単純だ。
「殿下は選択する授業をソロン君には言ったけど、用紙はまだ提出していないでしょう?ソロン君は自分の選択した授業を聞いて、合わせたり変更したりしないように提出するまで言わないんだよ。」
ソロン達のいる特待生クラスの担当教員であり、今の時間は職員室にいるはずのエルフィーがいつの間にかソロンとシエルの後ろに立って、そう答えていた。
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