第46話





(ルーカスSIDE)


「(チッ、呑気な奴らだぜ。第三皇女は『魔法大学に飛び級出来る才能』だとか、『現人神に近い存在の一人』だとか、『出自不明の平民に執着してる小娘』だとか、色々な噂を耳にしてきたから、一体どんな人物なのかと思ってみたら、こんな弱そうなガキだったとは。こんな小娘を褒めてやがるなんてな)」



 竜人族は圧倒的な魔力量と腕力を持って生まれてくる。その中でもルーカスとルカの双子の姉弟は、ルカは【竜の巫女】という十二始祖王の一角、竜(龍)族の始祖たる『双天龍レウシア』からの神託を受けられる者に、ルーカスは竜人族でもかなりの実力を持って神童と呼ばれる者に、それぞれなっていた。

 そんなある日、双天龍からの神託を受けた。しかしそれは、自身の巫女であるはずのルカをルーカスと共に魔法帝国メイザースにあるラメド国立魔法学園に入学させよ、という異例過ぎる内容であった。当然、竜人族は当初、ルカが何か粗相を働いたのではないか、と思ったが、その数日後、双天龍直属の配下が訪れ、事情を説明したので騒ぎは収まった。ただし、ルカにもルーカスにも正直にすべてを話すことは出来ないものであったので、『後学の為、そして現人神ではなく、神族でも竜人族でもない種族の中にも竜人族に勝てる者や力があるということを知る為』ということを二人には説明した。



 これは、今では大人相手でも条件が合えば勝てることもある実力を持つ自分にとって、酷くプライドを傷つけるものではあった。何故なら、その実力故に、古代種―—ハイエルフやエルダードワーフなど千年以上生きる存在―—以外、特に短命な人間族では自分には勝てないと思っているからだ。

 どうせ、俺ら竜人族や獣人族、あとは非力だろうが、人間族の王侯貴族どもの力で疲弊した的を壊すか、何かしらの小細工を仕込んで破壊したかのように見せるつもりだろうが無駄だ。そもそも、あんな覇気のない執事のガキが壊せるわけがない。


「あ~、先生。別に本気で攻撃しても良いんだな?」

「ちょっと、ルーカス!あなt「別に良いですよ」え、先生、本気ですか!」

「えぇ、どうせ単純な腕力だけでは壊すことが出来ず、特殊な製法でしか加工することが出来ず、単純な魔導の力では吸収されてしまうだけの厄介物。法皇ローズ様が最近、どっかの誰かさんが提出した時空間魔法に関する論文を読んで挑戦して出来た残骸だけど、それをやるのに上級魔法数発分の魔力を使って成せたほどだもの。もし、純粋な力で壊せたとしたら、その時点で現人神になる資格が得られるわ」


 姉さんが何かを言おうとしたみたいだが、それを担任が遮るように割り込み、許可を出してくれた。上級魔法数発分なら、自分の本気の攻撃で同等か近しい威力を出せる。


「んじゃ~、やるか!

【我らが偉大なる龍の祖よ、空の覇王よ】

【我が祈り、我が願いに応えたもう】

【我が望みしは紅蓮の炎、万物を焼き尽くす怒りの業火】

【今一度、その御業みわざって、我が敵を消したまえ】

【祈り、願いし我が名はルーカス】

業火の逆鱗Hellfire Wrath】」


 その炎は的ごと包みこんだ。そのまま、見学席にまで到達し、そこにいた者たちまで巻き込んでしまうかと思った。しくじったと思った。警告しようにも間に合わないとも。しかし、それは杞憂に終わってくれた。


「防御結界か?チッ、だが、助かったぜ。こんなところで死者を出したら、親父達に叱られるどころか、国全体に迷惑がかかるからな」


 自分の本気を防がれたことには苛立ちを覚えたが、恐らく結界を張ったのは現人神の一人。ならば、防がれるのも当然だろうと思った。



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(ルカSIDE)


 私は昔から他人の魔力を見ることができ、今ではよく見ている者の魔力であれば識別できるようにもなった。竜(龍)族の始祖様は、『生まれ持った世界からの恩恵ギフトであり、固有能力である』と教えてくれた。そして、それを制御しきる技術を持たないと破滅へと導く呪いでもあるということを。だから、必死に学んだ。正式な巫女になるための修行や勉強の合間を使い、正式に【竜の巫女】となるまでに、完全に制御できるような技術を得た。しかし、それは慢心だったのだろう。いや、寧ろ、制御できているが故に、今もなお正気を保っていられているのかもしれない。


「(あの愚弟!どうして気づかないのよ!・・・・・・いえ、よく考えてみれば、私たち竜人族は元々大雑把で派手な技を使う傾向がある。それに、アリアさんとシエル皇女殿下、エルフィー先生以外の者達も気づいていない。この訓練場に見学に来ている生徒や教職員も含めて。ならば、気づかないのも無理はないか。このということに)」


 ただ魔力が見れるだけでは視ることが出来ない世界。

 ただ結界を張っただけでなく、その結界を生徒や教職員の周囲、そして訓練場全体や見学席の前にそれぞれ張っている。これだけの魔力を一人で平然と供給・制御をしているのだとしたら、それはただの人間族のはずがない。寧ろ、人間族であるのかどうかすら怪しいと思えてくる。



 もし、この場に根源や内面を視る魔眼持ちがいて、それを使ってソロンのことを視たとしたら恐らく発狂して廃人になるか、自殺するだろう。そういう意味では、ルカは眼を極めていなくて正解だったのかもしれない。

 世の中、見ない方が良いこともある。一度見てしまうと、それに魅入られたり、狂わされたりして、ロクな人生ではなくなってしまうからだ。



「(彼や彼の関係者と敵対するような言動は絶対に避けなければ。この身も心もすべて彼に捧げてでも竜人族と敵対するような行動に出ないようにしなければ。竜人族だけならまだしも、関係のない者達まで巻き込み、・・・・・・世界が滅びかねないかも)」


 竜人族にしては温厚で優しく、他種族のことまでも気にかけられる幅広く深い視野を持っているからこそ、彼を敵に回したときの危険性を見抜くことができる。他の竜人族の中では、自分にしか出来ない役割だと思っている。




 しかし、未来の話をすると、それは思い違いだと知る。彼は確かに敵対した者には容赦しないだろう。特に自分のあるじシエルに危害を加えた者には。だが、それは敵対した者であって、無関係の者達までは巻き込まない。巻き込んでしまった場合は守ろうとする。他でもないシエルがそう望んでいたのだから。



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(ソロンSIDE)


「ほぉ~、祝詞、いや、祈祷魔法か。疑似的な神の御業、その再現。それを使徒でも巫女でも教皇でもない者が使うとは驚いた」


 自分は久しぶりに心の底から驚いた。自分のことをある程度知る者が見れば、普段は『驚いた』と口にしても驚いていないことが多いので、嘘つけ、と思うだろう。


「へ~、珍しいわね。ソロンが本気で驚くなんて」

「何故、私が本気で驚いていると?」

「普段は冷静に、そして淡々としている。私のこと以外では感情を露わにすることすらしない。まるで機械仕掛けの人形のように。だから、貴方のことをよく見るようにしているの。忘れていない?私は人間観察が得意なのよ」


 だが、自分が仕えているシエルあるじは気が付いたようだ。それにしても、『自分ソロンのことをよく見ている』とは。中々嬉しいことを言ってくれる。

 少し頬が緩んだのも気が付いたのか、シエルは嬉しそうな表情を見せたが、すぐに疑問に思ったことを告げた。


「でも、祈祷魔法くらいなら普通よね?確かに、『魔法』と付く以上、それなりの才能が必要だということは理解しているけど、そんなに珍しいものでも無いでしょ?」


 祈祷魔法とは文字通り、神や天使などに祈り、願いを叶えてもらう魔法。自分の力では叶えられないものを叶えてもらう魔法であるため、当然ながら代償は存在する。願いなどによって、その代償が変わるとしても、だ。

 昔は危険な魔物などが多かったこともあり、祈祷魔法が使えると知られると強制的に命が尽きるまで国の防衛などに使われるため、積極的に習得しようとした者はおらず、また使えたとしても隠していることが多かった。

 しかし現在では、『危険な魔物は少なくなったこと』、『現人神が君臨・統治するエルサレム神聖法皇国に所属すれば、使えると知られても依頼として来るだけで無理強いされることがほとんどなくなったこと』などがあり、また一日の使用限度、短期間の規制など、比較的軽い代償で済むものも見つかったため、祈祷魔法の使用者は多くなっていた。


「確かに現在では祈祷魔法はそんなに珍しいものでは無いかもしれません。しかし、それらは代償が軽いものばかりです。ですが、今の彼が放ったものは普通の人が放てば寿命が削れ、魂が摩耗してもおかしくはないほど強力なものでした。それを役職を持たない一般人が扱っていることに驚いているのですよ」

「え?でも、そんなことをしたら代償が・・・・・・」

「えぇ、もちろん大きくなります。しかし、実際の代償は見た感じ、ほとんどない。・・・・・・もしかしたら、何かしらの加護を得ているかもしれませんね・・・・・・」


 これは後程、魔法帝と法皇に報告せねばならないな、と思う。


(ふ〜、何とか誤魔化せた。しかし、あの規模の祈祷魔法をほぼ代償無く放てる加護を持つ竜人族、それも九頭竜連邦都市国家の王冠都市出身となると、双天龍関連か?確か、ルカという子が【竜の巫女】という称号持ちだったはず。となると、加護はそこから出てきたのか?だとすれば、自分が使う封印術式を埋め込んだ結界を10枚も破壊する威力になったのも説明が付く・・・・・・)


 事前に張っておいた結界。それもただの防御結界ではなく、を埋め込まれた結界であるが故に、中級程度では一枚も割れることがないというのに、いきなり10枚も破られたのだから、驚かない方が無理である。


(しかし、余計な詮索はしない方が良いかもな。魔眼では無いが、良い眼を持っているようだ。もしかしたら、神眼の下位互換なのかもしれない。少なくとも結界の存在にアリアよりも先に気づいたということは、魔眼や精霊眼の覚醒者か、それらよりも上位の眼の保有者ということになる。あぁ、本当になんでこんなに危険だけど面白そうな者達が集まってきたのか。やはり “世界” に呪われているのかやら?)


 笑みを浮かべながら、自分はこれからのことを考えていくのであった。







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