第44話




(ソロンSIDE)


 第一訓練場。それは初級や下級の魔法を見るために作られた訓練場。

 的はミスリル製のものもあれば、ただの木製のものまである。噂でしか語られず、実際に目にした者はいないとされる訓練場にはオリハルコン製のものまであると聞くが、真偽は定かでない。


「さあ、始めようか!的は、即ち、魔力伝導量が非常に高く、ことで有名な、通称『魔導師殺しの金属』。これを無償で提供してくれたエルサレム神聖法皇国の法皇ローズ様には感謝しないとね。まぁ、本人曰く『どうせ壊されるだけだし、被害を減らすという点ではこれが一番適任!』とのこと」


 普通にヤバい発言がいくつかエルフィーから飛んできたが、他の者達は的に使われている素材しか聞こえていないようだった。この世界の産出量は多い方から、鉄、鋼、銅、宝石、銀、金、ミスリル、アダマンタイト、ヒヒイロカネ、オリハルコン、というような順である。ちなみに、オリハルコン以上の硬さと秘めた力を持つ鉱石もあるらしいが、そちらは上級の神族の中でも更に高位に位置する者達が管理しているらしく、現物を見た者は現人神であろうとも極僅かしかいない。また、一部の者にしか鍛え上げることが出来ないため、滅多にお目にかかれないのだろう。

 なお、ミスリルであれば魔法帝国内に鉱山がいくつもある――流石にドワーフの国ほどはないが――ので、よく有力な王侯貴族の子息令嬢たちが使う杖に使われることが多い。シエルも上級魔法を使う場合は、制御用の杖を使ったり、発動に必要な媒体――大半が自分が製作したもの――を所持したりしている。もちろん、平民はミスリル自体、商人や王都に行ったことのある者でない限り、目に触れることさえないが。

 ただし、純ミスリル――純度が高く、不純物が少ないミスリルのこと――は中々手に入らない。そもそも、純ミスリルは天然産は殆どなく、一流の鍛冶師や錬金術師でさえ、成人男性の握りこぶしサイズを一日10個作れるか否かというくらい、精製が困難なものである。それに失敗すれば精製前のミスリル以上に不純物を含んでしまう。なので、絶対量が少なく、それらは国家か、国の重鎮が管理をするので、たとえ王族でも使ったことのある者は少ないだろう。


「エルフィー先生、その的の耐久度は幾らほどですか?」

「それも本人曰く、『下位の上級魔法程度なら10発まで耐えられるはずだよ。中位以降は保証できないけどね』と言っていたね。流石に上級、それも中位以上の魔法を習得している者は・・・・・・魔法帝国うち第三皇女殿下シエル様は例外として、いないよね?むしろ、いるなら何故、飛び級せずにここに入学したのか疑問に思うけど・・・・・・」


 幾ら『世界広し』と言えども、13歳で上級魔法を習得しているのは数少ない天才だけだ。自分や、『乾いたスポンジのようにどんどん吸収していくから教え甲斐がある』と、つい調子に乗りすぎて過剰に様々なことを教えてしまったシエルだけだろう。もしくは、錬金術の神髄にして最奥の一つとも言われる、人造生命体ホムンクルスくらいだろう。あれはチートな気がするし、現人神以外が造るのは禁忌指定されているが・・・・・・。


「さぁ、最初は誰から始める?あぁ、ソロンは一番最後ね。貴方はこの国に来たイレギュラー規格外であり、この国の国民に貴方は本来入っていないのだから。まぁ、だからといって腐った王侯貴族あのバカどものように排斥はしないけどね」


 よく忘れられてしまうが、自分は元々、出自不明者。何処で産まれ、何処で育ったのか――といっても、不明なのはたった数年ほどであるが――が分かっていない。何処で魔導を学んだかについてもだ。エルサレム神聖法皇国の法皇であるローズが自分のことを【世界最巧】の称号持ちであり、魔導に関しては【世界最巧】が代々、持っている固有能力【無限の保管書庫インフィニット・ライブラリー】により、歴代の【世界最巧】のを継承している、という保障付きの説明をしてくれたが、それでも移民であることには間違いない。更に言えば、闇ギルドに加入していたこともあり、余計に排斥の対象となりやすいのだ。もっとも自分は気にしないのだが。


「では、最初は誰にしようか?」


 自分は最後と言われたし、シエルも恐らく自分の前にやるだろう。となると、平民組か、もしくは・・・・・・、


「なら、俺から行かせて貰うぜ!」

「こら、ルーカス、敬語を使いなさい!」

「別にいいだろ?姉さん」


 やはりと言うべきか、実力主義が強い竜人族が行くようだ。





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