第40話 朝のHR




「あの〜、一応言っておきますが、禁書庫に入れるのは、月に一度行われる定期点検の時と、国家または王族が危険に晒された場合のみであり、他の日、他の目的では、原則として入ることが出来ませんよ。あと、そもそも禁術指定された魔導の大半は、複雑で汚いものや無駄に長い詠唱を必要とするものなど、自分が苦手とする分野のものなのですから、発動までに時間がかかったり、効力が薄かったりしますし」


 ソロンの権力がどのくらい危険なものかを理解し、静まり返った一同。

 ソロンは皆が抱いている勘違いを払拭させようと本当のことを話したが、シエルやエルフィーなどからは『嘘つけ』という視線を送られるし、それでも払拭できないものもいる。ソロンを馬鹿にしていた者は明らかに安心した表情を浮かべているが。



「さて、大幅に脱線して、時間も残り僅かだから、さっさとHRを始めるわよ」


 そんな中、元々ソロンの役職を知っている者の一人であるエルフィーはなお、平然とニコニコしながら当初の目的に戻った。


「では改めて、特待生として入学した新入生の諸君、おはよう!私の自己紹介は不要だと思うが、念の為に言っておこう。ここの担任となったエルフィー・M・アールヴだ。本職は宮廷魔導師筆頭兼帝国大図書館館長。ちなみに、ミドルネームのMはメイザースのことであり、私が建国に携わっていたことの証でもあるのよ。アールヴは家名であり、ハイエルフの元王族であること。まぁ、未だに手紙とかでやり取りをしているとはいっても出奔した身であるから、公の場以外ではあまり使わないけどね」


 そうエルフィーは語るが、ソロンは知っている。この魔法帝国内にいるエルフ達は大きく分けて、彼女のことを神聖視する者達と邪険に扱う者達、そして、彼女を同じエルフとして見て扱う者達の三種類に分かれていることを。


――神聖視する者は、『ハイエルフの王族=十二始祖王の直系であり、現人神の一柱である』という理由から。


――邪険に扱う者は、『王森から出奔して自由奔放に暮らし、他種族とも気軽に付き合っている』という理由から。


――同じエルフとして見て扱う者は、『ハイエルフであっても王森から出奔することは珍しくなく、本人がそう扱ってほしいと望んでいる』という理由から。


 主に神聖視する者と邪険に扱う者が対立し合い、間に同じエルフとして見て扱う者が入り仲介する、という構図が以前から続いている。度々、苦情が来、それを極力、エルフィーにバレないように処理する、ということを一部の官僚たち――大半がエルフィーのファン――と結託してやるほどでもある。


「今日やることはオリエンテーションも兼ねた校内の探索案内と設備の使用や授業について、などを並行して行うからよく聞いておくように」


 エルフィーの声でソロンは想像の世界から現実世界に引き戻された。

 くだらない考え事をしていたことがバレていたのか、ソロンは一瞬、彼女が自分のことを睨んでいたような気がした。

 この時、ソロンは気の所為であろうと判断したが、気の所為ではない。実際にエルフィーは睨んでいた。『行き遅れ』だの、『年増』だの、『ババァ』だのといった失礼なことを考えているのでは、と思いながら。まぁ、ソロンはエルフィーのことを普段から『年齢不詳者詐欺師』などと呼んでいるので、あながち間違っているとは言えないが。


(やれやれ、女性というものは本当に感が良いものだな。というか尖すぎないか?)


 ソロンはそう思わざるをえない程、この短い年月の中で沢山の実体験をしてきた。主に同僚のレナやあるじのシエル、法皇ローズあたりではあるが。


「一応オリエンテーションが終わった後は、各担任教師の裁量に任せられているの。普通に帰らせる者もいれば、そのまま残って少しだけ講義する者もいるらしいわ。私の場合は訓練場でみんなの力を見させてもらうね。ここで見させてもらった技量を元にそれぞれ教え方を変えていくから」


 大半の者は最初、不満そうにしていた――声に出ていた者もいた――が、現人神が自分達に合わせて教えてくれるということで喜んでいる者が多くなった。

 しかし、エルフィーはすぐに顔を曇らせて告げた。


「ただし、ソロン君とシエル様はやらなくても大丈夫ですよ。もしも実力を見せたかったり、どんなものかやってみたくなったのなら、やっても良いですが、必ず手加減をお願いしますね?」


 その瞬間、入学試験にいなかった者達が一斉にこちらを見た。


(あぁ、そういえばこのクラスの生徒の約3分の2は、推薦または裏口入学だったっけ?本来ならシエルも同じように推薦入学が出来たけど、本人シエルは入学試験をやりたいと言って、辞退していたんだったよな)


 ソロンは逃避気味に過去のことを思い出していた。推薦入学も裏口入学も、共に入学試験をスルーして入学できる方法だが、推薦入学は各国の王族や有力貴族などを職員会議で決めるのに対し、裏口入学は校長や理事長が直接選び、認めた入学方法だ。基本的に、裏口入学者よりも推薦入学者の方が多いが、毎年、一人は裏口入学で入る者がいる。スラム街出身の者もいれば、貴族街出身の者もいる。何なら、絶縁された者やいない者と扱われている者まで、国内外問わず、長期休業期間中にあらゆるところを渡り歩いているオーフェン理事長カミーラ校長が、才はあるが、埋もれた者を見つけてくるのだ。

 なので、裏口入学者や推薦入学者は知らない。入学試験でソロンとシエルがやった『現人神あらひとがみ十二柱じゅうにはしらにして、神王教の総本山、エルサレム神聖法皇国法皇ローズに勝つ』というある種の偉業を成し遂げたことを。知れば驚愕することだろう。そして、勝利方法を聞きに来るはず。馬鹿正直に、『消失魔法ロスト・マジックの一つでもある【時空間魔法】を使いました』などと言えば、世界を混乱に導く可能性が高い。念の為に、あの場にいた者達全員には箝口令が出されたし、論文はローズに行くということで問題視しないだろうが、この場には各国の王族や有力貴族もいる。下手に公開するのは、この世界のパワー・バランス的に言えば、非常に不味い。


「どうせ大した魔法が使えないから、それを隠すために言っている言葉だろう」

「そうだよね。身内の恥を隠すためには丁度いい口実だし」

「寧ろ、国のメンツのためにこのクラスを作ったんじゃね?」


などといった言葉がヒソヒソと聞こえてくるが、ソロンは当然無視をした。というかしなければならなかった。本来なら今すぐにでも首を絞め、不敬な言葉の撤回を求めたいところだが、他国の王族もいるので国際問題にも発展するし、ここで手を出せば先の言葉を肯定するようなものだ。何よりソロンは事前にシエルも含む沢山の者達から抑えるように懇願されもしている。ここで下手に暴れるリスクを考えたら、やらない方がマシと思えたのだ。

 ただし、エルフィーは顔を引き攣らせ、ソロンが暴れないかと焦ってはいるが・・・。


「先生、何故、私もなのですか?シエル様は魔力が多く、制御が未熟なので、まだわかりますが、私はその点、大丈夫ですよ」


 ただし、少々耐えきれそうになかったので、エルフィーに質問することによって、気を紛らわせた。


「貴方は魔力の濃度と密度が高すぎるのよ。それこそ本当に人間族であるのか怪しくなるぐらい。そんな貴方が魔法を使えば、最下級魔法でも中級や上級の魔法に匹敵するほどの魔法が放たれるでしょ?忘れたとは言わせないからね」


 そんなソロンの気持ちをエルフィーは理解できていたが、返した言葉は真面目なものだった。




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 全体的な流れ(主に各章の最後辺り)は決めてあるのですが、そこに至るまでの内容が少なく、その場の思いつきで執筆していることが多い現状です。

 そこで、この作品を読んでくれている読者の皆さんにお願いがあります。

 SSにするのか、本編に組み込むのかはさておき、読者の皆さんに募集をかけたいと思います。ぜひ応援コメントで貴方の思いついた提案を教えて下さい。その場の思いつきでも結構です。具体的な案ではなくとも結構です。いたしますので、どうかよろしくお願いします!!


例)「〇〇の〜〜の話を聞きたい!」「〇〇の・・・・・・を詳しく知りたい!」


※後に使う予定であるものであった場合は、どこで出す予定かをお答えします。

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