第31話 入学式直前
「ソロン、私達は何処に座れば良いのかしら?」
「・・・・・・シエル様、何度も申し上げますが、今回の私は案内役ではございません。なので、私に聞かれましても答えることができません」
「・・・・・・ソロンなら分かると思うけどなぁ〜・・・・・・」ボソッ
入学式の会場に辿り着いたが、そこからが大変だった。何故なら、毎年千人以上の新入生が入るこの学園は王侯貴族の子息令嬢や、彼等彼女達と関わり合いを持ちたい者達であることが多いことから社交界と同規模の巨大な会場があり、そこで入学式や卒業式など、大きなイベントやパーティーを行い、関わり合いを持つためである。
「ほへ〜、広いな〜」
「サム、下手な発言は控えなさい。ここには国内国外問わずたくさんの王侯貴族がいるのよ。最悪、外交問題に発展して死刑になることだってあるのよ」
「お、そうだった。すまん、すまん」
「ハァ〜、全くもって・・・・・・」
サムはいつも通りの普通な態度をし、それをアリアが注意して、それをメアリーが静かに見守るという関係がここでも行われる。若干、メアリーは緊張しているようなので、余計にアリアの気苦労が絶えないだろう。
「安心してください。流石に殺人などの重罪は庇いきれませんが、それ以外の多少の外交問題程度であれば揉み消すことも可能ですよ」
「そ、そうなの?・・・・・・それってシエル様の力?それとも・・・・・・」
「アリア様、それ以上余計なことを言わない方が互いに得ですよ」
「・・・・・・えぇ、そうね」
ソロンは安心させるために言ったのだが、アリアにとっては逆効果になってしまったようだ。いや、サム達への気苦労は消えたが、それ以上の緊張感が与えられてしまった、と言うべきか・・・・・・。
「おや、君達は・・・・・・もしかして、今年の主席であらせられるシエル皇女殿下と次席のソロン君かい?」
突然告げられた言葉にソロンを除く全員がビクッとした。
「貴方は生徒会の・・・・・・」
「あぁ、すまないね。自己紹介を先にすべきだった。私の名はマリアンヌ・フォン・ローリエ、ラメド魔法学園の現生徒会副会長を務めている。よろしく、ソロン君」
それと同時に手を出してきた。恐らくは握手なのだろう。しかし、この場には立場上、自分より上のシエルがいる。先に受けて良いのか迷ってしまう。
「あぁ、安心したまえ。我らが生徒会会長様からもよろしく言ってくれと言われたものでな。私が来たのも生徒会会長代理である副会長としての仕事さ」
前半はソロンに向けて、後半はシエル達に向けての言葉であるのだろう。なので、ソロンもマリアンヌの握手に応じることにした。
「よろしくおねがいします、マリアンヌ先輩」
「よろしくな、ソロン君。いや、今代の【世界最巧】ソロモン殿」
その瞬間、この場にいる全員がピシッと何かが割れるかのような幻聴を聴いた。
『何だ?』と思って辺りを見回すと、握手をしながら見ただけで呼吸が苦しくなる程、剣呑な雰囲気を醸し出している二人がいた。
「おやおや、これは恐ろしい程の殺気だね。これを直に当てられたら大抵の生物は死にかけるのでは?君って本当に人間族なのかい?」
「ご安心ください、マリアンヌ先輩。似たようなことを様々なところや人から訊かれますが、私は人間族です。私の友人達や主であるシエル様には当たらないようにしておりますので。寧ろ、これをくらって立ちながら平然と喋っている貴方の方が異常すぎますが?貴方こそ本当に人間族ですか?または年齢詐欺とか・・・・・・」
「失礼だぞ、私はまだ14歳だ!君こそ年齢を偽ってないか?立ち振舞いなどが年不相応に大人びているぞ?」
「正真正銘、この生を受けてから13年目ですよ!それは恐らく、あの陰謀渦巻く魔境に連れ込まれたからでしょう。この国一番の年齢詐欺師に!」
「ははは、現人神の一人にして、この国の宮廷魔導師筆頭である彼女に向かって真っ向からそんなことを言える者は世界広しと言えども、赤ん坊か世間知らずか、もしくは君だけだろうね」
このようにソロンとマリアンヌは周りのことを気にせず、言葉と言葉の応酬を繰り広げていた。『このままでは殺し合いに発展しそうだ。』誰もがそう思った瞬間、
「止めなさい、マリア、それにソロン君も」
剣呑な雰囲気に包まれた場が一瞬にして漂白されたかのように中和されていった。
そんな偉業を成し遂げた者はきれいな女性だった。清楚とも言えるかもしれない。
そんな彼女こそが、
「ウォーカー公爵家の令嬢にして、ラメド魔法学園生徒会会長、セシリア・フォン・ウォーカー」
ソロンの呟きに呼応するかのように
「久しぶりね、ソロン。やはり来てくれるとは思っていたわ」
「一応、貴方のために来たわけでは無いのですがね」
「分かっているわ。そこにいるシエル皇女殿下のためでしょう?貴方が直接動くなんて、滅多に無いことだから。だけど、私としては会えて嬉しいわ」
大人しい、落ち着いた声で告げる。ソロンがシエルがムッとしているのを感じる。
「私が誘っても躱して、あらゆる社交界からシエルの専属執事として以外で表舞台に出ることはないのだから。ある意味、
この言葉には皆が驚いた。一番の驚きはマリアンヌだろう。何故なら、セシリアがここまで饒舌に話すことは珍しかった、というかほぼなかったからだ。
もっとも周りの者達はソロンがセシリアと関わりがあったこと、セシリアからのお誘いを躱したことに驚いていた。特に後者に驚いている者が多い。何故なら、セシリアは寡黙ではあるが、その美しい顔や得意魔法と合わさって、『氷の令嬢』とも呼ばれているからだ。この学園の男子生徒からは入学してから毎月のようにラブレターが送られてくる。ちなみにその全てをセシリアは断っている。
「あら、そろそろ式が始まる時間ね。行くわよ、マリア。じゃあね、ソロン君」
「は〜い、会長♪」
そう言ってセシリアとマリアンヌは立ち去っていった。
「ハァ〜、疲れた」
「お疲れ様、ソロン。はい、どうぞ。それにしても随分と仲が良かったようだけど、どういうことかしら?」
ソロンが少し肩の力を抜いたところに、ちょうどシエルが飲み物を持ってきた。
「ありがとうございます、シエル様。ゴクゴク、あ〜生き返る〜。セシリア様の件でしたら、国内の清掃作業中に起きたちょっとした事件に巻き込まれそうになった子ですよ。冤罪を掛けられそうになったウォーカー家を以前、助けたことがありまして」
「そう言えばそんなこともあったわね。あの頃は一番怖かったわ。主にソロンが」
「ウグッ、そ、その節は本当に申し訳ございませんでした」
「ウフフ、冗談よ。それよりついに来たわね。王立魔法学園に」
「えぇ、そうですね。いい思い出が作れそうです」
そして、ついに入学式が始まろうとしていた。
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