第30話 入学式前のクラス分け発表




 入学試験から数日後、合格発表の通知書が受験生達全員に届いた。

 それに一喜一憂する者達が多いが、ソロンやシエルは既に知っていたので、そんなに気にしなかった。どちらかというとクラス分けが気になっていたが、それは来年度の入学式にならないと分からない。なので、ソロン達は入学式の日を待ち遠しく思っていた。

 それまでソロンはそこそこ溜まっていた仕事を片付けながら、入学する者の情報を少しでも多く集めていた。そして集まった情報に目を通し、自らのあるじであるシエルに提出し、シエルはその情報をもとにどのような人間関係を構築するかを考えるのであった。


 そして数カ月後、ついに入学式の日が訪れたのであった。


「ソロン、行きますわよ!」

「承知いたしました、シエル様。・・・・・・すごく楽しそうですね」


 ソロンの言う通り、シエルは楽しそうに、ここにはよく人がくる場所でなければ今にも踊りだしそうなくらいウキウキ感があった。


「仕方がないでしょう?学園生活というものを経験したことがないのですから。それにこれからは皇城のような窮屈な生活から脱却できるわけですし」

「メイドは付き添いますよね?」

「レナなら多めに見てくれるでしょう?」

「・・・・・・では、セバスさん執事長ロザリーさんメイド長に直談判報告しましょうか・・・・・・?一応、定期的に報告する義務が私にはあるので」

「え?そ、それは止めてほしいかな〜?」


 ソロンが無慈悲に告げるとシエルが涙目になり上目遣いでこちらを見ながら懇願してきた。可愛いことこの上なく、つい承諾してしまいそうな気持ちになるが、ここは心を鬼にして告げることにした。


「嫌です。そんな顔をされてもだめですよ。なので、その顔をするのは止めてください。ちゃんとしていれば定期報告では『ちゃんとしていました』と報告しますので。問題行為を起こしさえしなければ、ね?」

「は~い、・・・・・・ソロンのケチ・・・・・・」

「聴こえていますよ!ゴホン・・・・・・さて、行きましょうか、シエル様」

「えぇ、そうね、ソロン♪」


 こうしてようやく、ソロン達は学園へ行くのであった。


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 少ししてソロン達は学園に到着した。ちょうどその時、見知った顔が向かい側からやってきた。


「「あ、おはようございます、ソロンさん!シエル殿下も!」」

「おはようございます、シエル皇女殿下、それにソロンさんも」

「ごきげんよう、シエル皇女殿下、それにソロン君も」

「おはようございます、ディムエル様。そして、おはよう、アリア、メアリー、サム。ちなみに挨拶は上位者から順番に、だよ。この場では最初にシエル様、その次にディムエル様、その後に自分だ。やらなければ不敬罪を適用させる王侯貴族もいるから注意しなよ、メアリー、サム」


 アリアとディムエルは先に一番上の存在であるシエルに対して挨拶をした。

 しかし、メアリーとサムはソロンに対して先に挨拶をしてしまったのだ。

 これは今のうちに注意しておかなければ後で問題になる可能性もあるので、ソロンはこの場で忠告したのだった。


「ごきげんよう、いえ、おはようと言った方がいいかしら?ソロン、どっちがよろしいのかしら?」


 対して、シエルは挨拶の仕方に迷っているようだった。通常、女性は身分の差があっても『ごきげんよう』と言うことが多い。だが、親しき者には『おはよう』などと挨拶を言うこともあるのでこの場合、どちらで言ったほうが良いか迷ったのだろう。


「どちらでも良いと思いますよ。気になるのであれば貴族相手には普通の挨拶を、平民や御無礼で付き合える相手であれば『おはよう』などにすればどうでしょうか?」


 ローズが聞いたら『どうでもいいでしょ?気にするだけ無駄、無駄!』などと答えそうな気がするが、普通の王侯貴族の子息や令嬢こどもたちにとっては難しい問題なのだ。


「そう・・・・・・ね。うん、そうしましょうか。ありがとう、ソロン♪」

「いえいえ、どういたしまして」


 ソロン自身、シエルに仕える唯一の専属使用人専属執事であるので、こうした相談役のようなこともやっているのである。それ自体、ソロンは苦に思っていないし、頼られることは嬉しいと思っているので、今のようなやり取りをし続けている。

 しかし、周りから見れば異様なことと思えるのか、


「おや、ソロン君はシエル皇女殿下の相談役そのようなこともしているのかい?」

「え〜と、これが普通なのですか?」


 貴族社会に精通しているアリアと公爵家の貴族であるディムエルは目を点にして、何回か瞬きをしている。

 基本的に被雇用者しようにん雇用者あるじに対して意見することはほぼ無い。それをやった場合、大抵の者達は最悪、不敬罪で死刑となり、良くても解雇または長期間、大幅な減給がされる。貴族によってはそれを許している所もあるが、それは極少数だ。

 ローランド公爵家は平民よりの政策を代々行ってきた貴族であるので、平民の意見を聞き、取り入れることをするが、それは土地的な問題もあったからだ。

 なので、基本的に何でもいたれりつくせりとも言える皇城で過ごしてきた皇族は大体が傲慢になりやすい。現皇帝は幼い頃からよく城外に抜け出していたから魔法帝国の民達を思う政策ができるだけだ。だから、そんなこともないシエルが傲慢になっていないことに対して余計に驚いたのだろう。


「フフ、私とソロンの関係に驚いているみたいだけど、ソロンは私が幼い頃からずっと一緒にいるのだから当然よ。それに傲慢になることだって私にもあるわ。だけど、別に気にすることは何もないのよ」


 この言葉にソロン以外の全員が首を傾け、理解ができない様子だった。


「は?それはどういうことだ?」


 だが、アリアとディムエルは身分の差を意識して問いかけられないようだった。

 その代わり、貴族相手でも遠慮無く――悪く言えば、無礼に――訊くことができるサムが尋ねた。


「これは私の口からは言えないわ。だってこれは私が考えた言葉ではないから。だから、本人の口から直接聞きましょう?」


 しかし、シエルの口から告げられた言葉は拒否だった。またしても理解ができなかったが、今回はすぐに思い至った。


「ソロンさんが何か言ったのでしょうか?」

「さて、何のことで「ソロン、言ってあげなさい」・・・・・・ハァ〜、分かりました」


 アリアが言い当て、それをソロンは誤魔化そうとしたが、シエルから命令が来たため、誤魔化しきれなかった。なので、ここは大人しく言うことを聞くことにする。


「といっても私が言ったのは至って単純なものですよ。


『傲慢になっても良い。

 狂人になっても良い。

 されど、圧政を敷くべからず

 人間も、獣人も、エルフも、ドワーフも、そして神々も

 この世界に生きとし生ける意思を思考を持つものは全て “人” なり

 故に “人” を愛せ。慈しめ。救え。さすれば道は切り拓かれるであろう』


 まぁ、多少、改良したとはいえ、大本は受け売りの言葉なのですがね」


 ソロンの告げた言葉に固まった。それほどかっこよく、様になっていた。まるで、


「まるで神様みたいでしょう?うちのソロンは」

「え、えぇ。本当に平民なのか怪しく感じますね」


 アリア以外はまだ気圧されている状態から戻ってきていないようだった。


「さ、さぁ、クラス表を見に行きませんか?そのために皆さん、この時間帯に来たのでしょう?」

「あ、あぁ、そ、そうだったな。そろそろクラス分けの紙が貼り出される頃だろう」


 なので、ソロンが無理やり話題を変えた。ただ、無理やりであるため、無理があるかと思っていたが、すぐさまディムエルが立ち直り賛同した。

 ここで皆、本来の目的を思い出したのか、話題を『クラス分けの予測』に変えた。


「やはり、シエル皇女殿下やディムエル様は『ノーブル貴族クラス』に、私達は『コモン平民クラス』に、ソロンさんは『インプロイイ―使用人クラス』に行くのでしょうか?」

「それはどうかな?ソロンは『魔導クラス』になるかもしれないぞ」

「それなら『ノーブル貴族クラス』に来て欲しいな〜。ソロンが近くにいれば安心できるし」


 『クラス分けの予測』と言っても主にソロンがどのクラスに入るのかが殆どだ。


「もしかしたら知り合いが多いクラスになるかもしれませんね」


 自然とソロンは根拠のない、だが、何処かありえそうな感じのする憶測を告げた。

 一応、冗談っぽく言ったつもりだが、周りはそれにウンウン、と、こちらも自然と頷いた。恐らくは同じ理由だろう。


 そんな話をしながらソロン達は学園掲示板前に辿り着いた。

 皆、考えることは同じのようで、既に何十人もの “人” が集まっている。


「お、ちょうど貼り出すところのようだな」


 サムの言う通り、ちょうどクラス分けした表を学園の先生達が掲示板に貼っているところであった。

 しかし、ここからの距離では普通の者なら掲示板に貼られた表の名前を見ることはできないだろう。


「ソロン、お願いできるかしら?」

「承知いたしました、シエル様」


 なので、この中で一番動体視力の良く、五感強化で更に視力を上げられるソロンが見ることにした。


「どうかしら、ソロン?」

「・・・・・・・・・・・・」


 だが、ソロンから予想外の解答が返ってきた。


「なっ、それは本当か!」

「えぇ、私やシエル様だけでなく、皆様方の名前もないので・・・・・・」


 その言葉に一同は疑心暗鬼になりかけたが、


「いや、訂正します」


 ソロンがすぐに訂正を入れようとした。皆が『何だ?』と思ったら、


「皆さんの名前が希望していたクラスには無い、でしたね」

「「はい?」」

「それはどういうことだ?」


 もっと疑問に思う言葉が告げられた。

 こちらは純粋な疑問だろう。もの凄く不思議そうにしていた。


「新たにクラスが新設され、そこに私達は入れられたようです。『エクストラ特待生クラス』と言うらしいですよ。いや〜、下の方に書かれていたので、見つけにくかったですね〜。しかも大抵の者なら近くでよく目を凝らさなければならないほど小さな文字で書くとか嫌がらせでしょうか?」


 周りにいる当の本人ソロン本人の主シエル以外が『じゃあ、近くでよく目を凝らさなければ見れないそんな小さな文字を離れていても見れたソロンは何なんだ?』と言いたげな顔をしている。


「まぁ、分かったことですし、良しとしましょうか。そろそろ先輩方から式の誘導もあるでしょう。それに恐らく、入学式で説明がされると思いますしね」


 やや不吉な笑みを浮かべていたので、若干周りは引いた。

 ソロンのあるじであるシエルだけが見慣れているので平然としていた。



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 ちょうどその頃、神聖な雰囲気が漂う森にて、


「ウフフ、そう、彼を見つけたのね。いつもいつも最初はローズの所へ行こうとするから、もしやと思ったけど正解だったみたいね。それにしてもローズもローズで鈍いわね。彼が貴方のもとに行くのは信頼しているが故なのに」

「? 女王様、いかがしましたか?」

「いえ、独り言ですので気にしないでください」


 そこにはひっそりとした、されど中は豪華ともいえる神殿があった。

 その中には


「それにしてもようやく見つけましたよ。数年前からあった妙な反応がここ最近、強くなったと思いましたが当たりだったようです」


 その中でも女王と呼ばれた女性が告げた言葉に一同、騒然とした。


「おお、ついに!」

「えぇ、ですが、我々が直接動くのは不味い。なので、あの子を使うことにします。他の者達も恐らくはそうするでしょうね」

「他の者と言うと、まさか・・・・・・」

「貴方の考えているとおりです。ウフフ、やっと停滞していた世界が動き出しそうです。それも激しく。念の為に準備をしておいてちょうだい」

「は!承知いたしました!」


 そして、一人だけとなった空間で女王は呟いた。


「あぁ、今回はどのように動くのでしょうか?




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