第27話 入学試験三日目
入学試験もついに終わりを迎える三日目の朝。場所は皇城。
「ねぇねぇ、ソロン♪」
「何でしょうか、シエル様?」
「とても暇ね。何か面白いものは無いかしら?」
「無いですね〜。あるとしても
再度確認するが、今日は入学試験三日目の朝である。それも早朝ではなく、あと1〜2時間程で正午になる時刻だ。しかも、皇城内である。いくら魔法学園に近いとはいえ、試験会場に向かわなければ遅刻する。
しかし、不思議なことにソロンもシエルも慌てず、のんびりとしている。
その理由は、先程シエルが放った発言に込められている。つまり、『暇』なのだ!
時は前日の試験――実技二次試験――終了後に遡る
残っていた受験生達は試験が終わり、帰り支度をしていた。
ソロンとシエルは手ぶらで来たし、あったとしてもソロンの【収納】がある。
なので、シエルの魔力がある程度回復してから帰るつもりであった。
「ソロン、シエル、ちょっといいか?」
暇潰しにアリア達と話をしていたら、いきなりローズから呼ばれた。
何事か、とまだその場に居た全員が思っていたら、
「ソロンとシエルはこの後の試験を受けなくていいぞ〜。あ、ソロンだけは命令な」
と、衝撃的なことを告げたのである。
「理由を聞いてもよろしいでしょうか?」
シエルは本気で不思議に思った。
シエルには提案、ソロンには命令、という形で試験中断を言われたからだ。
「試験の中断を言われたと思っていらっしゃるでしょうが、恐らく違います。法皇様が言いたいのは、試験の免除だと思われます。違いますか?」
しかし、ソロンは優しく否定し、別の仮説を立てた。
「その通りだよ♪」
「しかし、何故自分もなのでしょうか?自分は『使用人コース』なので安全、かつ、受けた方がいいような気がするのですが・・・・・・」
ソロンの読み通り、試験の免除であった。ソロンだけ命令形の理由が謎であるが。
ちなみに、周りの者達は皆、動きが止まっていた
「おや、皆さん、どうしたのですか?」
「周りが動きを止めているのは君が『使用人コース』に行こうとしているからだよ。本当に『使用人コース』に行く気なの?『貴族コース』でも良い気がするんだけど?もしくは教員に「嫌ですよ」・・・・・・そうか」
ローズは露骨に溜め息をつく。その瞬間、止まった時が息を吹き返したかのように騒がしくなった。よく耳を傾けて聴くと、
・・・・・・何故、彼は使用人なのだ?
・・・・・・あれ程の逸材を『使用人コース』に入れても良いのか?
・・・・・・そもそも彼の出自は本当に平民なのか?
などと言っているのが分かる。
「君達に関しては明確な理由があって試験免除を言っているのよ」
咳払いをしてローズは試験免除の理由を話し始めた。
「まず、シエルはソロンの教育を幼い頃から受けて、すでに及第点をもらっている。だから、もし君が受けていたら、他の受験生達の自信が挫ける可能性があるの」
まずはシエルの理由を告げた。そのことにシエルは少し顔を赤くしながら、「ありがとうございます」と言った。
「次にソロンだけど・・・・・・。ソロンはそもそも論外ね。現役の執事に試験をさせることはそもそもおかしいし、他の使用人見習いの者達の心を粉々に砕きかねないから」
次にソロンの理由を告げた。そのことに周りはギョッとしながらも、『ウンウン、その通り!』とでも言うかのように頷いていた。
「・・・・・・納得はしましたが、クラスについてはどうなるのでしょうか?『使用人コース』を切に願いますが」
ソロンはこの場は一旦引き、肝心のクラス分けについて聞いた。
「勿論、『貴族コース』に・・・・・・冗談だからそんなに怖い顔をしないでくれ。『貴族コース』以外なら何でも良いんだろう?」
「正確に言えば王侯貴族とかなり関わるクラス全てですね。難癖をつけられたくはありませんし、問題が起きることはもっての外ですよ?」
ローズの読みにソロンは訂正を加えた。それに対してローズは呆れながら、
「今に始まったことではないけど、本当に君は欲がないな〜。普通の人間ならより上の身分の者と少しでも関わり合いを持って、自分の地位を高めようとするものなのに。君のあり方は閉鎖的な種族に近くないかい?」
と言う。少し笑っているように見えるのは気の所為であろうか?
「私は今の地位で結構です。必要以上に地位や権力を持てば雁字搦めに束縛されてしまうので。それに『盛者必衰の理』を常に心に留めて置かなければ、いつかは必ず破滅に向かいますよ」
ソロンは何処か達観しているかのように言った。
「おや?それは【世界最巧】としての言葉かい?」
「お忘れですか?これは始まりの現人神が
その瞬間、ローズは目を閉じ、
「そうだね。そういえばそんなことも言っていたっけ。懐かしいな〜」
と、感傷に浸るように言い、
「そうですか」
ソロンはあえて素っ気なく言った。
しばらく気まずい雰囲気になったが、そこにシエルが割り込んで空気を変えた。
「ちなみに、ローズ様。私達は明日、どうすれば良いのでしょうか?」
「あぁ、すまないね。明日は部屋でのんびりと過ごすのも良いし、仕事をしているのも良い。つまりは自由にしていて良いということよ♪」
ローズも雰囲気を変えるように明るく答えた。
そして時は現在に戻る
シエルは急に予定が空いたので暇になったのだ。元々、試験をやるつもりだったので、いきなり自由にして良いと言われてもやることが思いつかない。
反対にソロンも急に予定が空いたので暇にはなったが、執事として仕事があるし、そうでなくても宮廷からの依頼があるので暇になることはなかった。
しかし、それをシエルに手伝ってもらうことはできない。身分の差もあるが、一番の理由は危険だからだ。 危険度
「本当に暇ね〜。一人で何処かに行こうかしら?」
ついに我慢の限界が来たのか、シエルがとんでもない発言をした。
ソロンのことをチラチラ見ながら告げているということは恐らく、ソロンも来てほしいということだろう。もしくはソロンと何処か出掛けたいのか。
「・・・・・・ハァ〜、分かりましたよ。何処に行きたいのですか?」
「やった〜♪ソロンとならどこでも良いよ♪」
『ここら辺はまだまだ子供だな〜、いや、年相応なのか?』などと思い、溜め息をつきながらも、以前、一人で勝手に出掛けて行方不明騒ぎ――騒ぎと言っても素早く情報規制をしたため、一部の者達しか知らない――になったことがあるので、付き合うことにした。そもそも、ソロンは誓約があるため、どんなところにいても居場所を知ることができる。それでも心配なものは心配なのだ。
「それでは帝都を散策しましょうか?」
一番無難で、かつ、比較的安全な場所にすることにした。
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