第25話 【世界最巧】




「だって、ソロンは【世界最巧】よ!」


 ローズから放たれた言葉にシエルを除く全員が理解できなかった。


「私は【大陸】だけどソロンは【世界】の称号持ち。そして【最巧】とは様々な技術力が最も高い者に与えられる称号のこと。付け加えるなら、よ。ちなみにソロンは恐ろしいことに全てにおいて満遍なく高い技術力を持っている。」


 ここまで説明してようやく理解できたのか、騒がしくなり始めた。


「それに、ソロンは「それ以上は禁則事項ですよ」あぁ、そうだったね。まぁ、これだけでもソロンに勝てないのは分かったかな?小手先だけの技術だけでは現人神圧倒的な強者に勝てないという定説を容易く崩せる異常な化け物イレギュラー


 ゴクリ、と唾を飲み込むかのような音がどこからか聞こえた。


「更に、ソロンは一部の現人神とも交流を持っているから、容易に各国の力関係を崩せる軍事力の破壊者パワー バランス ブレイカー。このことが他国に知られたら、この国は危険にさらされるわよ。勿論、貴方達の命もね♪」


 つい先程までソロンのことを虚仮にしていたカンテラは己の失態に気がついたようで、顔を真っ青にしていた。


「まさか、現人神か準現人神なのか!」

「いえいえ、私はただのどこにでもいる執事です「「それはないから!」」・・・・・・まぁ、普通のではありませんが、執事には変わりありませんよ」

「は、はぁ」


 カンテラはまだ納得しきれないのか半信半疑のようだった。


「さて、ところでシエル様、試験の方は如何いたしますか?」

「勿論受けるわよ?そうでもしなければ貴方の実力が示せないでしょう?ちなみに、ローズ様、一つ質問、いえお願いしてもよろしいでしょうか?」

「何だい?」


 シエルもローズもニヤリとしているので、ソロンは途轍もなく嫌な予感を感じた。


「この試験、私とソロンでタッグを組んでもよろしいでしょうか?」


 ソロンの読みは正しく、前例にない試験内容の提案をしてきた。


「あの〜、シエル様?」

「ほほ〜う。そうしたい理由は何かな?」


 ソロンが聞くよりも早くローズがその訳を聞いた。


(何だろう、物凄く嫌な予感がする。徐々に詰められているような?・・・まさか!)


 ソロンは気が付いたが止めるには致命的に遅かった。


「ソロンが得意としているのは乱戦や混戦、殿しんがり等による時間稼ぎ、などといった戦闘、私が得意としているのは味方への支援や広範囲攻撃などといった戦闘よ。つまり、私達は二人揃えば強敵と化す。何より、ソロンが真面目に相手をしてくれますよ♪」

「あの〜、「った!」・・・・・・シエル様、後で説教ですよ」

「うっ、ソロンの説教は長いからイヤ〜!」


 勝手に提案し、勝手に承諾されたら誰だって怒りたくなるだろう。たとえ、シエルが可愛く上目遣いに見てきたとしても、だ。


「さぁさぁ、始めようか、ソロン君♪」

「この人は・・・・・・まぁ、いいでしょう。では、シエル様、私は

「て、適当って、・・・・・・まぁ、良いわ。ただし、必ず防ぎきってよね?」

「あ、あれ〜?適当?私を相手に、時間稼ぎであっても適当にやるの??」


 ソロンの発言にはシエルだけでなく、ローズも目を点にしている。

 一方で、残っている受験生達は、


「巫山戯るな!貴様のような平民風情が適当にやってローズ様を足止めできると思うなよ!」


「やれやれ、お手並み拝見といこうかな」


「う〜ん、幾ら技術力が高くても、純粋な力では負ける気が・・・まさか、ね〜?」


 などと三者三様、十人十色とでもいうべき反応が起きた。言うまでもなく、最初の発言がカンテラを筆頭とする血統主義陣営、その次の発言がディムエルを筆頭とする実力主義陣営、最後の発言がアリアやメアリー、サム達の陣営だ。


「では、先手はソロン君からどうぞ」


 王者の余裕、ではなく、単純にソロンの攻撃を食らいたいだけだろう。なので、


「そうですか、では、本日の試験開始から十分な時間が経過したので、一気に第五層までの封印を解いても大丈夫ですね」

「へ?」「「「は?」」」


 ローズは『マジで?』という顔を、観戦者達――他の残った受験生と試験監督で来た先生方――は『何故、今になって?寧ろ、封印する必要があるの?』という顔をしていた。


「え〜、『何故、今更?』とでも言いたそうな顔が多いので解説します。私自身にかけた封印は全部で百層あります。そして、これを解くのにはかなりの時間を要します。なので、自分の番までの時間ギリギリまで解除に専念していたのです。後は試験開始前に封印を解くことにより、自分のオド、つまり魔力に当てられて他の受験生達が魔力酔いを起こし、本調子にならなくなるのを防いでいたのですがね♪」

「ソロン/ソロン君/貴様 、それを『ついで』扱いするな!」

「え?何故でしょうか?生死に関わるような内容ではないのに」

「十分、関わるわー!」


 確かに魔力酔いと呼ばれる現象によって死ぬ事例は少なくない。寧ろ、多い。しかし、


「しかし、それは魔力制御コントロールが未熟だからです。魔力制御コントロール上手うまければそのような事態にはなりませんよ」


 魔力制御コントロールは高難易度技術の一つである。それをソロンは普通だと言うかのように話す。


「第三十層封印以降の封印を解けば、が、現在の私にできるのは最高で第十層封印の開門までです」


 更にソロンから発せられたこの内容には皆が唖然とした。自身の魔力を消すのでも偽るのでもなく、感じなくさせる。つまり、魔力感知に引っかからないということだ。そうすると侵入だの偵察だのがやりたい放題だ。唯一の救いは『現在は第十層までしか解けない』ということだけだ。


「やれやれ、それでどうするんだい?」

「【第五層封印・開門】!勿論、こうするんですよ!」


 ソロンは【身体強化】を発動し、一瞬にしてローズの間合いに入った。これには先手を譲ったローズも驚き、数秒だけ――しかし、ソロンにとって攻撃するのに十分過ぎる時間――固まった。


「はっ、しまった!ウグッ!」


 この日初めて、ローズはまともに攻撃ダメージくらった受けた


「イタタタタ、いや〜、ソロンの攻撃は久々ね。痛みというのを思い出したわ。」


 言葉と行動――正確には傷――が一致していない。


「・・・・・・現人神とは本当に不思議ですよね。殺すつもりで放った攻撃をまともにくらって平然と生きているのですから」

「ハハハ、確かに普通の人間族であれば良くても内蔵に傷が、最悪、死に至っているだろうけど、こんなもので私を殺すのは不可能に限りなく近いよ。寧ろ、そんなことは君自身、百も承知だろう?」


のほほんとそんな風に言っている。


「えぇ、そんなことは百も承知二百も合点。なので、シエル様!」

「待たせたわね、ソロン!」

「む、いつの間に!」


 ローズが驚くのも無理は無い。何故なら、この場にいる誰もがシエルの魔力どころか詠唱も感知できなかったからだ。もっと言えば、

 この場でシエルの魔力も詠唱も存在も感知できたのはただ一人。つまり、それらを隠した張本人であるソロンだけだ。


「まさか!」

「前から言っていたではないですか。【世界最巧】を舐めるな、と。あぁ、勿論逃しませんよ。シエル様の魔法が直撃するまで!」

「は、離せー!」

「遅いわ、ローズ様!そしてソロン、無事でいてよね!【疑似氷結地獄シュード・コキュートス】!!」


 昨日に引き続き、今日もソロン御手製の魔法がシエルの手によって炸裂した。




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