第24話 入学試験~実技二次試験~④




 カスティーリャ公爵家次男のカンテラとはすぐに決着が付いた。

 貴族特有の傲慢さと自分の魔法への自信により、相手の力量を見誤り敗れたのだ。更に、この結果が認められないのか、『もう一度だ』、『今のは油断していただけなのだ』と騒がしく言ってくる。貴族によっては金で買収しようとする者もいるほどだ。

 そして、その取引ふせいを拒否すると、取引相手が自分よりも格下であれば圧力をかけ、格上であれば格下で自分より目立っている者のせいにする。

 実際、彼やその取り巻き達は『平民のせいだ』的なことを言っている。


「本当に貴族というのは・・・これだからなるべく目立たずにいたかったのに・・・・・・」


 ソロンは割と本気で本音の愚痴を言っていた。本来は不敬罪に値するが、ソロンの周囲には風の結界を張っているから結界外にいる他の受験生達には聞こえていない。結界内にいるシエルやメアリー、アリア、サムには聞こえているが。


「ゴメン、ソロン。貴方が思っていることがよく理解できたわ。確かにあのような王侯貴族は多いよね」

「す、す、すごいですね、ソロンさんは」

「聞かれれば不敬罪になる内容をさらりと口にしますか・・・・・・」

「周りには聞こえない結界が張られているんだろう?なら良いと思うが?」


 シエルは謝罪を、メアリーとアリアは畏怖と驚愕を、サムは同調をもらった。


「「「「何故、 私/シエル様王侯貴族の一人 に仕えている の/のですか/のよ/んだ ?」」」」


 その後は全員が共通して疑問に思っていることを聞いた。


「もちろん、シエル様だからですよ。シエル様に出会い、シエル様であるならば心の底から忠誠を誓い、仕えても良いと思えたのですから。」

「う〜」

「「ヒュ〜♪」」


 ソロンが堂々と言った言葉にシエルは赤面し、サムとアリアは口笛を吹いた。

 そんな会話をしているうちに、


「おや、ローランド公爵家嫡男ディムエル様の試験が終わりになりますね。次はシエル様の出番ですよ」


 シエルの出番が訪れた。


「あ〜、ちなみに君は試験受けなくても良いんだからね?ソロン君も」

「え?それは・・・・・・」

「・・・・・・法皇様、それは駄m「そうですよね〜」・・・・・・」


 シエルは何かを言いかけ、ソロンは駄目でしょう、と指摘しようとしたら、不意に声が上がった。その声の主はカンテラだった。


「恐れ多くも平民風情が一国の王にして現人神あらひとがみの一人であらせられるエルサレム法皇国の法皇ローズ様に向かって無礼な態度と発言をし、他者の試験に干渉するなど、この名門、『ラメド魔法学園』には相応しくないでしょう。・・・・・・まぁ、試験の干渉に関しては相手が平民だったのでまだいいですが、貴族であれば大問題!我々貴族の矜持プライドに傷をつけられますからねぇ〜。第三皇女殿下の専属執事というだけでも身の程を弁えない名誉なことであるというのにその自覚すらない」


 ペラペラとウザい御高説が始まった。これに関しては皇城内でもあったことなのでソロンは耐えられる。


「・・・・・・何ですって?」


 しかし、シエルにとっては耐え切れる内容ではなかった。

 シエルの全身からオドが溢れ出てきている。それにマナの方も若干反応していた。

 ソロンを含め、一部の者達以外は『何故か、シエル皇女殿下がお怒りになり、皇女殿下の魔力が感情と反応して荒れている』としか思えないだろう。その理由が『自身の専属執事を侮辱されたから』という答えに辿り着けた者は更に少ないと思う。

 しかし、カンテラはこのような状況であってもまだ喋る。いや、単純に気付いていないだけだろうが・・・。


「シエル皇女殿下もですよ。早くこの者を解任しなければ、皇女殿下の目が疑われますよ。何らかの理由で解任できないとしても厳重注意はしてほしいものですがっ!」


 そこでこの場にいる全員が心臓が止まるかのような殺気に襲われた。

 恐る恐る、殺気が放たれた方向を見ると、そこには


  恐怖に震えているカンテラと、ソロンがいた。


「ソロン、落ち着きなさい!気持ちはわかるけど、このままは私でもキツいわ。」

「はっ!申し訳ございません。今解きますね」


 シエルは何とか声を振り絞ってみんなにも聞こえるように出し、ソロンに殺気を解くように命じた。

 そもそも、シエルはソロンにとって守護対象であり、ソロンが殺気を向けることは勿論、ソロンの殺気に襲われることもない。寧ろ、シエルにとっては暖かく気持ちの良いものに包まれたような安心感を得る。

 だが、この場には無礼者が何人かいるだけで、その他大勢は傍観していた者達ばかりだ。彼等彼女等に非はないのだから、恐怖心などをなるべく与えないようにするべきだと判断したのだ。


「しかし、シエル様。この者達はどういたしましょうか?流石の私もあるじの侮辱を黙って見過ごせるほど優しくはないのですが・・・・・・?」


 それは当たり前のことだった。しかし、カンテラは上級貴族の者、それも公爵家である。使用人であるソロンが行えば問題になる。


「き、き、貴様!無礼だぞ!平民のくせに貴族である私に殺気を放つとは!今すぐ死刑に「お黙りなさい!」な、何d・・・でしょうか、シエル様?」


 シエルはカンテラの言葉を黙らせた。そう、使用人では問題になる。しかし、皇族であるシエルなら別だ。


「ソロンは私のために動いたのですよ。あるじのために動くのは執事の務め。」

「し、しかし!」


 それにシエルは怒っている。シエルにとってソロンは唯一、絶対の信頼と信用を持てる者であるからだ。一心同体と言ってもいいほどに。


「お黙りなさいと言ったはずですよ。それに主が道を踏み外す場合は諌めるなり防ぐなりし、使用人が道を踏み外す場合は主が罰を与える。もし、ソロンが無礼な行動をしたなら罰を与えるのはソロンの上司である皇城の使用人長か私か皇帝陛下のいづれかの役目!断じて貴方がやっていいことではない!」


 だから、今後、絶対にソロンに危害を加えないように釘を刺す。


「それに、貴方程度の権力ではソロンに不敬罪を適応させることは不可能ですよ」

「はぁ?そ、それはどういうことでしょうか?もしや、その者はどこかの王族の隠し子である、とかでしょうか?」

「いいえ、そういうことではないわ。寧ろ、その気になれば王族よりも権力はあると思うわ。ね〜、ソロン♪」


 まだ、誰も・・・・・・いや、彼と関わりがない者は誰もわからないようだ。しかし、彼と関わり合いがある者は『あぁ、そういうことか』と納得の表情を浮かべた。


「さぁ、何のことでしょうか?貴方の命に関わることなら兎も角、少なくとも現状は公表されている以上の権力を持つ気はございませんよ。」

「へぇ〜、でも、無理だと思うわよ。それって裏でどんどん権力が溜まっていくだけだから。そのうち把握しきれないだけの量になると思うわ。現時点でも相当溜まっているでしょう?」

「えぇ、まぁ、そうですね・・・・・・」

「は?は?」


 カンテラはついていけない様子だった。いや、カンテラだけではない。他にも話の内容についていけない者がチラホラといる。


「ちなみにソロン、私とのお茶会はいつ開くのかい?私は今か今かと首を長〜くして待っているんだけど?」


 ついに爆弾を落とした。


「今それを言いますか?空気を読んでくれたら大変有り難かったのですが・・・・・・」

「え〜、ソロンの淹れた紅茶を飲みたいのにな〜。私の専属になって欲しいくらい」


 ソロンは苦言を呈するが、ローズはお構いなしに言う。

 更に、シエル皇女殿下ソロンのあるじの前で堂々と引き抜き宣言スカウトをする度胸。これには敬意を覚えるが、流石に真似はできない。

 それにその提案の解答は既に決まっている。だから、


「駄目です!」「嫌ですし、無理ですよ」

「え〜、ケチ〜!」


 キッパリとシエルと共にソロンは拒絶する。

 そして、駄々をこねるローズを無視する。

 これが日常風景いつものことなのだが、相手は一国の王にして現人神法皇ローズ。その前でキッパリと拒絶した者達。そして、それをあまり気にしていない当の本人ローズ。この光景にこの場の全員が固まった。


「よ、よ、よろしいのですか、ローズ様!その者は平民、それも出自が一切不明という得体の知れない者です!そんな者を専属に加えようとするなど!それに、現人神であらせられるローズ様の提案を拒絶するなど!あってはならないことでは「彼は特別さ♪」・・・・・・は?それはどういう・・・・・・」

「彼は私の知人だよ。いや、友人、・・・・・・違うね。親友とも言えるわ。まぁ、私が特別、懇意にしている者なのよ。彼の出自に関して私が保証してあげても良い程のね。ちなみに技術力なら本気を出した彼に世界中が負けるわよ。」

「は?そんなバカな!世界中となると現人神が何人もいる!そんな現人神よりも上だというのか!」


 『信じられない』と言いたいが、その現人神の一角にして【大陸最強の魔導師】という称号を持つローズの言葉を否定することになるから安易には言えないのだろう。

 他の者達もウンウンと頷くが、


「だって、ソロンは【世界最巧】よ!」




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