第11話 入学試験前




 すみません。『魔法学園』と『帝都』の名前を出すのを忘れていました。

 それぞれ『ラメド魔法学園』、『帝都メレク』となります。


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 あの会話からおよそ数日後、ソロンとシエルはラメド魔法学園の入学試験を受けるために魔法学園に行っている。

 合格するのは間違いない、むしろ、不合格になる方がおかしいと思えるほどの才能――もちろん、それは努力による結果でもある――を持っているシエルが悩んでいるので、ソロンは「はて、何を悩んでいるんだ?」と疑問に思った。


「シエル様、どうかしましたか?」

「ソロンがどうやったら活躍できるかなぁ?って思っていただけよ。」

「そんなことをおっしゃられましても・・・・・・。」

「だって、ソロンは無欲じゃない?私を助けた時の褒美として爵位と領地を貰えたのに辞退してしまうし。そのせいで、未だにソロンは取るに足らない平民だって思われるんだよ?主人として認められません!それに・・・・・・」


 突然、暴れだしそうな雰囲気を解き、プクーっと頬を膨らませた。


「・・・・・・え〜と、シエル様?どうされたのですか?」

「・・・しの・・・まえ、・・・・・・こ・・・ば・・・・・・いも。」


 シエルが何かボソッと言っていたが、ソロンには聞こえなかったようだ。


「何かおっしゃりましたか?シエル様」


 そんなことを言うソロンにシエルは耐えきれなくなったのか、


「わ・た・し・の・な・ま・え!あと言葉遣いも!」

「はい?」

「前に約束したでしょ?公の場はともかくとして、私的な場で、かつ、周りに私のことを知る者がいない時は敬語は無しで普通に話すって!」

「あ〜、え〜と・・・・・・。」


 そう言って言葉に詰まったような感じに応答しつつ、探索魔法を強化して、周囲が本当に大丈夫なのかを調べた。そして、


「はぁ〜、今回は大丈夫だから良いけど、日頃からああやって敬語を使わないとどこで襤褸ぼろが出るのか分からないんだからな?ちなみに、今日やる試験に関して本当に何も企んでいないよな?」

「ソロンは本当に心配性だねぇ〜。大丈夫よ、私は何があっても傷つくことが無い、というか、貴方の目や手が届く範囲であればそれを許さないでしょう?」

「当たり前だろう?自分の目や手が届く範囲で君が傷ついたら契約違反だ。」


 当たり前だ、と言わんばかりに堂々とソロンは告げたが、シエルは不満そうに口を尖らせた。


「本当にそれだけ?他にも言うことはないの??」


 いや、『不満そうに』ではなく、実際に不満なのだろう。別のとある言葉を期待するかのようにキラキラした目をしながら、ソワソワしているから。


(これは断ったり、白を切ったりすると後々面倒な事態になるな。だが、言ったら言ったで陛下から何かと文句を言われるだろうし・・・・・・。もう、どうにでもなれ!)


 と思いながら、シエルが求めている言葉を言うことに決めた。

 なお、この間の思考時間もそうだが、ソロンは大抵、思考を0.1秒未満というメチャクチャ早い時間で終わらせられるが、使い所を全力で間違えているような気がする。いくらとしても。


「ハァ〜、半分未満が契約のため、半分以上が純粋に君のためだよ。」


 といっても、溜め息をわざと最初に付けるのを忘れずに。だが、


「ウフフ、私のためか〜。そうか、そうか。ウフフ」


 シエルは嬉しそうに答えている。恐らくだが、ソロンのわざと付けた溜め息は聞いていない、というか聞こえていないのであろう。ソロンの言葉が嬉しすぎて。

 いつもなら、そんなシエルの顔を、呆れながらもどこかほっこりとした感じの気持ちで何も言わずに眺めているソロンだが、今回は入学試験もある。なので、名残り惜しい感じもあるが、中断させて現実にシエルを戻さなければならなかった。


「シエル様、申し訳ございませんが、もう少しで学園に到着いたします。それに今は馬車ではなく徒歩でも移動となっておりますから、あまり余所見をしていますとお怪我を負ってしまいますよ。」


 まぁ、怪我を負ってもある程度であればシエルが自分で癒やすことも可能ではあるので大丈夫だが、ソロンが心配していることはどちらかと言うと道中で絡まれたり、誰かにぶつかって何か文句を言われたりすることだ。


「えぇ、そうね。自らの身を守ることもできる馬車より無防備な徒歩の方がより一層、気をつけなくてはなりませんものね。でも、ソロン。やはり貴方と話しているとつい、時間を忘れてしまうのよね。だって、もう着いてしまったのですから。」

「そうですね〜。おっしゃる通りかと。私もシエル様とお話しておりますと、つい楽しくなって時間を忘れてしまいますから。と言っても私の場合は気付いた時間が予定時間とピッタリであり、さほど時間に困った経験はございませんが。」


 周りに大勢の人がいるから、ソロンは口調を変え、恭しく言っている。しかし、内容は辛辣でもある。シエルとソロンの身分を知り、かつ、その内容を聞いていたら、発狂してもおかしくはないくらいのものだ。


「それは私への嫌味?時間を忘れ、いつも貴方に注意される私への!」

「いえいえ、滅相もない。ただ、私は苦言を申し上げているだけにございます。これ以上、私の胃に穴をあける事態は避けて欲しいというね。それはさておき、入学試験を行いましょうか。シエル様が主席で合格した場合、ご褒美をあげましょう。次席未満は罰を与えますけどね。」

「ちなみにそれはどんな罰?」


 シエルは顔を赤くして聞いてみたが、その答えは


「秘密です!ただし、少なくとも貴方が喜びそうなものではなく、ほぼ確実に泣き出すものですね。」


 ソロンがちょっと怖い悪魔のような顔をしながら答えていた。


 大きな門を抜けた先にあるのが魔法学園の校舎だ。とは言っても大門からは長い一本道の先であり、その前には広大なグランドがある。


「ん?君、君!こっちは貴族達の試験コースだぞ?平民はあっちだ!」


 ただし、貴族と平民は試験会場が違っており、一緒にされることはあまりない。

 ちなみにソロンのような使用人は貴族と平民のどちら側でも受けられる。使用人は平民だけでなく、下級貴族も社会勉強として上級貴族に仕えていることもある。ただし、平民は使用人でも同じ平民達と受ける事が多い。なので、平民がたとえ、使用人服を着ていても貴族達と受験しようとすると、このように衛兵から注意されることがある。特に服装が明らかに平民っぽい格好のソロンは平民側で受けると思っているのだろう。その衛兵は蔑むような目をしていた。しかし、


「あら?彼はですよ。皇族に仕えている者をそのような蔑んだ目で見ることは彼の、ひいては主である私への侮辱行為と捉えてもよろしくて?」


 シエルの一声で周りが急に静かになった。特にその衛兵は顔が真っ青になっていた。それもそうだ。自分が見下していた相手は皇族に仕える者であり、それも専属使用人であると言うのだから。普通であれば『何をバカなことを』、『ホラを吹くな』、などと言っているところだが、身分を証明した相手がこの国の皇女だ。下手すれば不敬罪に当たるので、衛兵の反応はある意味真っ当な反応だろう。


「し、し、失礼しました!どうぞ、中へお入りください!」

「ウフフ、では行きましょう、ソロン♪」


 衛兵はすぐに道を開け、中へ勧めた。ソロン自身はどうでも良いと思っていたので特に気にはしなかったが、強いて言えば、衛兵が顔を真っ青にして緊張しているように見えるのに対し、


「シエル様、何故そんなに嬉しそうな顔をしていらっしゃるのですか?」


 何故か嬉しそうにしていた。純粋に質問してみたが、


「あら、そうでしたか?ウフフ」


 答えをはぐらかされた。気になりはするが、ここは学園内で、周囲に大勢の受験生達がいる。強く聞けば問題になるからここは大人しくしていようとソロンは思った。



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