第8話 本題に入ろう




 ここからは時間軸を現在に戻します。ここからのナレーションも指定していなければソロン視点だったり、第三者視点だったりします。


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「とまぁ、私の過去の話はこのあたりですかねぇ〜。あぁ、正直言うと本当に面倒な事態になりました。久しぶりに本気で自分の頭脳を恨めしく思ったほどですよ。」

「まぁまぁ、でもそういうことだったのか。道理で君があのことを頼むわけだ。」

「そういうことです。おっと、陛下の執務室に着きましたよ。恐らくこの時間であれば中に戻っていると思います。」


 安全のためにソロンの部屋からクライドの執務室は――シエルの部屋もだが――遠くなっている。ちなみに、ここで言う『安全のため』とは『襲われないようにするため』という意味ではなく――そもそも、ソロンがそんなことをするのは普通はありえないが――、『もしも実験が失敗しても巻き込まれないようにするため』という意味だ。だが、長話をしているうちにどうやら、着いたようだ。

 部屋の外には皇帝陛下直属の近衛騎士達がいるし、その中でも上位十名のナンバーズと呼ばれる騎士達だ。ナンバーズは基本、皇帝陛下の傍か近くにいつもいるので、クライドはほぼ確実に部屋の中にいるのだろう。ただし、念の為に彼らに聞く。


「あなた方がいるということは、皇帝陛下は中にいらっしゃるのでしょうか?」

「おぉ、これはソロン殿。皇帝陛下なら中にいらっしゃいます。シエル皇女殿下も。」

「ありがとうございます。」


コンコン、

「入れ。」

「失礼します。」

「失礼するね〜。」


 あれ?シエルが頬を膨らませている。何でだ?


「ソロン、貴方にしては遅かったじゃないの?」


 あぁ、ナルホド。ローズと一緒にいたことに嫉妬しているのか、引き抜かれないか危惧してピリピリしているのかといったところか。どちらも無意識だろうけど。


「すみません、シエル様。法皇様が私の私室を見てみたいとおっしゃられておりましたので、見学させていました。」

「む?それは大丈夫なのか?皇帝である我の依頼を拒否していたというのに。」


 今度は皇帝か。というか・・・・・・


「ハァ〜、皇帝陛下。では、尋ねますが、陛下は私の私室に入って、何も触らない、弄らないとお約束できますか?もしくは呪いなど、危険物に触れても大丈夫な対策をしてきてくれますか?」

「うっ!それは・・・・・・その〜、なぁ〜。・・・・・・無理だ。」


 目が泳いでいたが、折れてくれたようだ。まぁ、当たり前だろう。


「宮廷魔導師達にも手に負えない仕事をこちらにどんどん回されて、それも質の悪い品ばかりなのですから。現在は危険度Ⅳの品ですが、解呪自体は可能ですが、かけられた呪いそのものを調べておかないといけないので、結構困難極まる仕事中です。それに・・・・・・はっきり申し上げますと私の私室に行く陛下のことを臣下達は全力で阻止しますよ。血統主義や魔導階級主義、実力主義など関係なく、その垣根を越えて私の私室に行くこと自体を。皇帝陛下はもちろんのこと、貴族や平民達、そして奴隷であろうとね。それほど危険な物が置いてあったりするのですから。唯一、法皇様だけは例外として立ち入りを許されているのは、法皇様の力が関係しているだけです。」

「いや〜、ソロンは嬉しいことを言うね〜。まぁ、私が『大陸最高の魔導師』の称号を得ているのは伊達じゃないということだけどね。最近はとある人物によって返上の危機が迫ってきているけど。」

「はて、誰でしょうね?」


 心当たりはあるので、適当にとぼけておく。

 周りからの視線が痛いので、ここで話題を変え、いや、当初の目的に戻ろう。


「そろそろ、当初の目的に戻りましょうか。」

「「「(あ、逃げたな/わね)」」」

「聞こえないようにボソッと言ったつもりなのでしょうが、聞こえてますよ。それに逃げたわけではありません。事実、『大陸最高』の称号は勧められてもいませんし。『世界最巧』の称号はありましたが。」

「『大陸』より『世界』を得れるお前(君/貴方)の方がすごくないか(かな/かしら)?」


 ・・・・・・知られていないし、実際には取らなかったし、それに提案したのは法皇様御自身でしょうに!と叫びたかったが、いつまで経っても本来の目的に本当に戻れなくなるので、強引に進めた。


「え〜、陛下。今回、法皇様に依頼した件ですが、内容は『魔法学園に平民である自分が問題なく入学することは可能か?』ということです。」

「む?それはもしや・・・・・・」

「ソロン!それって!」


 まぁ、こんな依頼をする理由は彼らにとって分かりきったことだよなぁ〜。ローズだって顔をニヤニヤしているし。


「えぇ、流石に私も入学しないとシエル様との契約違反になってしまうので。ただ、正攻法でやるとどうしても・・・・・・。あそこの学園長は珍しい『実力主義寄りの中立主義』ですけど、教職員は『血統主義』か『魔法階級主義』が多いですから。いくらあの学園に『使用人科』があるとしても下級貴族の方々が多いですしね。説明には平民でも入れると言われていますが・・・・・・まぁ、念の為の対策ということで。」

「君なら正攻法でも余裕で入れると思うけどねぇ〜。まぁ、一応君の推薦状を持ってきたよ。あとは君の皇帝からの許可証と推薦状をもらうだけだけど?」


 ここでシエルは目をキラキラさせてクライドとソロンのことを交互に見ている。また、クライドもソロンを入学させるか悩んでいるようだ。


「ちなみに、ソロンの入学試験はどうするつもりのだ?」

「陛下、私は試験を権力によってパスする気は全くありませんよ。まぁ、多少は手抜きしますが。あぁ、でも、魔導理論の問題は手を抜くつもりはありませんけど。」

「「「ソロン、そこは手加減して欲しい!」」」

「・・・・・・何故そこは揃って反対するのでしょうか?」

「まぁ、いい。手抜きすると言われるとイラッとはくるが、連名で署名しよう。シエルをよろしく頼むぞ。入学試験は例年、怪我人がでるらしいからな。」

「お任せください、皇帝陛下。シエル様は私が守り抜きますので。」

「・・・・・・『全力で』とは言わないんだね。いや、君が全力を出すことなんて無いに越したことはないし、というかあったら危険度Ⅱ以上の事態になるか。」

「それこそ地形が変わってしまいますね〜。だから幾重にも封印を常時、自分にかけているのです。ちなみに現在、すぐに開門できる封印は第五層封印までです。十分あれば第十層封印までなんとか。丸一日かければ第百層封印まで――つまり、全ての封印を開門可能です。まぁ、裏技はあると言えばあるのですが、現状は使えませんね。」


 みんな唖然としていた。何も知らない者なら『幾重と言ってもたかがの封印ではないか』と思うだろうが、ソロン自身にかけられている封印を知る者は『封印をかける程なのか!?』と思う。何故なら、封印を得意とする者や封印について詳しい者などがソロンの封印を見ればわかるが、一枚一枚の封印力がとにかく大きい。たった一枚でさえ、大抵の者達のことのできるものであるから。それを百層もやると。『大抵の人間』ではなく『大抵の生物』だ。つまり、条件さえ揃えばということに他ならない。ただし、本人曰く『やりたくない、というか会いたくない!』と何故か即答する。


「これであとは入学試験対策をするだけですね。主にシエル様の。」


ギクッ


「・・・・・・ソロン?それは大丈夫だと思うのだけれども?ねぇ、お父様?」

「む?対策のし過ぎに悪いことはないと思うが?何か問題でもあるのか?」

「いえ、魔導理論の『新たな理論の論文を書け。』という問題が・・・・・・。」

「「はぁ?」」「頑張ればできると思いますが?」「「いやいや」」「やっぱり・・・」


 これはソロンに問題があった。魔導理論の新規論文作成は学園の入学試験レベルを超えている。むしろ、宮廷魔導師達の仕事だ。いくらシエルが天才でも無理がある。といっても、結構惜しいところまで書けているので、すごいことだが。


「ん?待てよ、それは宮廷魔導師達の仕事だったような・・・。何故、それをやれているのだ?まさか、ソロン・・・・・・」

「えぇ、あの人達から頼まれる仕事の一つです。主にあの年齢不詳者詐欺師からの。」

「あやつ、『危険度:レベルIV』の浄化依頼だけでなく、そんなことまで依頼していたのか?」

「え?『危険度:レベルIV』!そんな危ないことまでやらせていたの!?下手したら死んでしまうものじゃない!というか、そのせいでソロンの私室に行かせてもらえなかったってこと!」


 シエルは初耳だった為、かなり動揺している。後半の言葉はこの場にいる全員がツッコミをしたかったが、また話が脱線しそうなので無視した。


「すまんな、ソロン。あとであやつにはきちんと言いつけておく。」

「ありがとうございます、陛下。では、これで終わりにしましょう。私達は入試対策が、陛下や法皇様は執務がそれぞれございますので。」


 そう言って、この場は一旦、お開きになった。



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