第7話 ソロンの過去・回想③
まぁ、こんなところでいいでしょうか?あぁ、本当に気をつけてくださいよ。それは「危険度:レベルⅣ」に相当する
あれはシエルの専属執事になったばかりの頃です。
自分はその2年前から執事としてシエルのお世話係をしてきました。また、皇城にいるので、他の皇族たちの教育風景も観察する機会がたくさんありました。なので、一通りのことはでき、シエルにどのようなことを教えるのかが分かっていました。ただ、万が一のこともあるので、念の為、執事長やメイド長に確認をとってから実行に移していました。といってもそんなに厳しいものではありませんよ。他の教育係たちとは違い、まずはじめに、自分がそれを受けてみて、どういったことを教えたりすれば良いのかなどを学んでから教えていたので、教えるのには苦労しませんでした。どこがどんなふうにミスをしやすいのか、どこが難しいのか、何から教えれば身につきやすいのか、などを前から調べ、考え、まとめていましたからね。世話係のままだったとしても、助言として進言する可能性がありましたから。
そんなこんなで自分が組んだカリキュラムでやっていたのですが、本当にシエルは天才ですよ。魔法に関してもそうなのですが、他のこともすぐに学んでいくのですから。こちらとしても教え甲斐がありました。ただ、まぁ、少々やりすぎてしまったこともありましたけどね。どんなことかと言うと、護身術を学ばせている時にだったのですが、
「ねぇねぇ、ソロン!私もあれをやってみたい!」
と、魔法帝国に未だに残っていた騎士たち――まぁ、魔導師は接近戦を苦手とする者も多いので必要かと言われればかなり必要だと即答できますが――、その中でも団長格の人がやっていた投げ技を指して言ってきたのです。ただ、(男性にとって)一般的な護身術の一つである投げ技を習得できれば、守る側としてもある程度は安心できるので、承諾してしまったのですよね〜。
「かしこまりました、お嬢様。」
ただ、次の瞬間、
「駄目ですよ、シエル皇女殿下!それに、ソロン君もかしこまらないでください!流石にそれは危ないですから!!」
と、近くで聞いていたメイドのレナさんから言われてしまったんですよね。ん?何故、立場は上なのに私のことを”君”付けして、彼女のことを”さん”付けして呼ぶのかと?それは私の方が彼女よりも年下だからですよ。あと、使用人歴から見ても先輩だからです。なので、基本的にシエル付きの使用人には
「レナさん、別に大丈夫だと思いますよ。こんなこともあろうかと、執事長やメイド長からはすでに確認済みで、なおかつ、皇帝陛下からも許可が降りていますので。ただし、怪我をさせないことが条件であり、もしも怪我をさせたりした場合は罰則を受けさせるということになっています。」
「そういうことを言っているのではないですよ〜!というか、何で許可が降りているんですか!?『こんなこともあろうかと』って一体何ですか!?」
「『こんなこと』は『こんなこと』です。好奇心旺盛なシエル様なら毎日のようにあの風景を見ていればやりたいと思うでしょうし。そのことはあの人達も分かっていたようですし。」
「だからといって普通は止めるべきではないんですか!それに危ないでしょう?投げ技なんt!・・・・・・・・・・・・・・・!いつの間に!」
投げ技を教えるのにはやられてみないと分からないし、それはそれで受け身の練習にもなる、だけど、打ちどころを間違えれば重症を負うかもしれない危ないことだと分かってはいるのですが、私はちゃんと受け身をさせる前にキャッチさせる自信はかなりあったのです。なのでその証明ということで、レナさんを投げてキャッチしたんですけどね〜。シエルには睨まれるわ、レナさんからは『そういったことは事前報告も了承もなしに私にやらないで!』と怒られるわ――こちらは何故か焦るように言ってきましたが――何故なんでしょうね?・・・・・・はい?もっと女心を学んだほうが良いですって?急にどうしたんですか?真顔になってまで・・・・・・。
他にも第五階梯の魔術を少し教えてしまったんですよね。あぁ、大丈夫ですよ。効力は『味方への支援魔術』と『対軍用小規模攻撃魔法』だけですから。小規模と言っても多少広がった一個中隊レベルの範囲なら殲滅できる魔術ですけど。
「ソロン〜、私に魔術を教えて〜。できれば強いやつ〜。」
「そう言われましても・・・・・・しばらくお時間をください。そうすれば、第五階梯までの魔術であればお教えすることが出来ます。あぁ、その前に魔術についての講義をしなければなりませんね。いきなり第五階梯と言われてもどれくらい強いのか、どんなものがあるのかがわかりませんよね。ちなみにシエル様は魔術についてどこまでご存知なのでしょうか?」
「ん〜とね、魔法は詠唱によって使うのが主流だけど、魔術は陣などの術式を描いて使うのが主流だってことくらいしか知らない。」
「まぁ、そこまで知っていればいいでしょう。ちなみに術式は実際に手や道具などで事前に描いて使われる魔術と魔力で空中などにその場で描いて使われる魔術があります。前者は消されたりする危険性がある一方で簡略化し、魔力を通せばすぐに使えたりするのに対し、後者は消されにくい一方で描くのに時間がかかったりすることがあります。ただし、後者の起動速度は使用者の力量によって早くなるので一流の魔術師となると、後者の魔術を好まれる者達が多いですね。そして、魔術は魔法とは違い、階級ではなく階梯で強さや規模が変わります。階梯の数字が低ければ低いほど弱いものが多く、高ければ高いほど強いものが多くなります。魔術階梯を魔法階級に直すと、第一階梯と第二階梯が下級、第三階梯と第四階梯が中級、第五階梯から第七階梯が上級、第八階梯から第十階梯が最上級となっております。神級は第十階梯の一部や第0階梯とされておりますが、使用者はほとんどいませんね。現人神クラスの者であれば使えると思いますが、世捨て人が多いので。」
「へぇ〜、じゃあ、第五階梯は真ん中あたりってこと?」
「えぇ、その認識で正しいですよ。第五階梯でも上級魔法と同レベルなので対軍用魔術も多くありますが。ただし、これを教えて良いのか悩ましいところですけどね。」
「え?何で?」
「貴方様はこの魔法帝国の皇女殿下の一人です。この帝国は魔術よりも魔法が主流であり、魔術のことを見下す者達が多いのです。更に言えば、たかが第五階梯でも上級の低位や下位に匹敵するものなので、国家間のパワーバランスが崩れる恐れがあるのです。なので、まずは皇帝陛下にお伺いを立てなければなりませんね。」
「ソロン君、その心配は大丈夫ですよ。むしろ、皇女殿下の泊に直結するので、多少なりとも強力な魔法や魔術は覚えさせてくれるとありがたいです。」
「執事長!いつの間に・・・・・・。」
「セバスさん、どうやってここに?」
「それは皇女殿下でも秘密です。強いて言うならば、ソロン君がこっそり城を抜け出していたときと同じような方法です。」
「あぁ、魔法による隠蔽と素の力による気配遮断ですか。相変わらず、恐ろしい人ですね〜。まぁ、でも一応、習得させても良い魔術なのか、確認をお願いしたいのですが・・・・・・よろしいでしょうか?」
「まぁ、ものによっては危険ですからね〜。ちなみに、それは前から何やら空き時間でいじくっていたものですか?」
「えぇ、既存の魔術理論を応用してシエル様専用の魔術を組み立てていたのですが、最近、シエル様の力量が上がっておりまして・・・・・・。魔術に関しても当初は第三階梯を予定していたのですが、現在は第五階梯の魔術になってしまったのですよね〜。このまま行けば、数年後には第七階梯までを、魔法にすれば上級魔法までを、それこそ息を吸うかのように自然に発動しそうな感じがするのですよね〜。成人すれば、もしかしたら、第十階梯、つまり、最上級魔法まで習得できそうでして・・・・・・。はっきり申し上げますと、皇族たちの中でも最強となる可能性が・・・・・・。もちろん、現在の皇帝陛下が最盛期の頃だったとしても、圧倒することが可能になるかと。それはそれで、皇族間だけでなく、国家間のパワーバランスを本当に崩壊しかねない、それこそ全世界がシエル様に襲いかかろうとするということもありますよ。」
「それは大丈夫でしょう。いざという時は神聖法皇国に亡命すればいい話ですので。ノエル様やマリーゴールド様ならそれは可能です。あの方々が、特にノエル様は自身の娘なのですから、どんな手を使ってでも亡命させると思いますよ。まぁ、その最悪を想定した考えは良いことですけどね。」
「はぁ、なら良いのですが・・・・・・。ちなみにこれが習得させる魔術の術式とその概要などをまとめたレポートです。」
「ふむ。・・・・・・確かにこれは注意が必要ですね。私かロザリーが近くで見ている時のみ、練習するのを許可しましょう。あぁ、場所も指定した所にしましょう。」
「お願いします。あぁ、広くて人があまり寄り付かないような場所ならばどこでも大丈夫ですよ。自分が魔法や魔術で周囲を補強しますので。」
「可能なのですか?ならお願いします。そうですね〜、場所は直轄領の一つにあるアルマロス山にしましょう。」
まぁ、この後どうなったのか、気になるでしょうが省略します。
結論から申し上げますと来年度から入学する予定の学園に在学中か、遅くても卒業後には初陣が決定されるほどのレベルでした。いや~、自重って大事ですね~。私までそれに巻き込まれてしまいましたよ。おかげで、遊撃隊としてではありますが、その隊の隊長に任命されてしまいました。あぁ、この初陣の件はまだ、公式発表されていませんので、内密にお願いしますよ。バレたら機密保持の為にうちらは暗殺される危険性がありますので。危険な情報を教えないでくれ?言わなければ安全ですよ。
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