第3話 朝の騒動②




 シエルは食堂に着いた。ソロンはシエルの後ろに控えている。食堂の奥に現皇帝である父クライドが、後ろには執事長のセバスとメイド長のロザリーを控えてさせて座っている。そして、父に近い席から左右に皇妃、右側に皇子、左側に皇女、という形で序列順に座っている。当然、シエルは第三皇女なので、父から六番目の席だ。

 しかし、座る前に一言、


「遅れて申し訳ございません、お父様、お兄様、お姉様。」

「いや、大丈夫だ。まだ、食事は運ばれていないからな。座ってもいいよ。」

「ありがとうございます。」


 そういうやり取りをしてから着席する。自分より上のものが先にいた場合、どれくらい待っていたのか関係なく、謝罪をする。そして、その場の最も偉い人からの許しを得、座るように言われてから着席する。それが王族達のマナーとなっている。

 ただ、このように「食事が来ていないから良い。」と無条件で許す者は少なく、大抵の者達はその理由を聞いたり、そのことを後でネチネチ言ったりする。第一皇子のアルバートとその母、第二皇妃のヨランダもそうだ。


「おいおい、何で遅れたんだ〜?本来なら、第三皇女であり、皇位継承権も低いお前が遅れて良いはずがないんだが〜?」

「そうよ、理由を聞いても?」


 予想通り、そんな言葉を言ってきた。なので、いつも通りの返事を返す。


「女は身支度に時間がかかると相場が決まっているでしょ?それに私はここのところ、色々と立て込んでいまして、あまりよく眠れていないのですよ。」

「ほぉ〜、まだ縁談の申込みが来ていらっしゃるのかしら?いい加減、許婚を決めておいた方がよろしくてよ。」

「よしなさい、ヨランダ。シエルはまだ13歳だ。早いだろう。」


 そんな返事に第二王妃が少しイラッとする嫌味を言い、クライドがそんなヨランダを叱責し、シエルを助けるのもよくあることだ。まぁ、クライドは主が侮辱されているのを黙って、それも無表情に聞いているとある者のことが――特に、いつ堪忍袋の緒が切れて暴れ出すのかが――怖くなってきているのもあるだろうが。

 しかし、そんなことなど気にしない――というか気付いていない――ヨランダはなお、言ってくる。


「まったくもって、遅すぎませんか?女なら今くらいの年頃から結婚を意識しませんと。行き遅れの大半がこの時期に婚期を逃しているせいでしてよ。まぁ、貴方なら他国に嫁がせるのもありかもしれませんが……。」


 ハァ〜、なんて人の地雷を踏み抜くのが上手いのだろうか?そう思いたくなるほどクライドはヨランダに呆れていた。何故なら、それはシエルを政略結婚の道具にしか捉えていないということであり、そんなことを


(まだ朝食がまだで助かったわい。もし、やっていたら食事が不味くなるどころか、最悪、血に染まるな。しかし、よく耐えている……いや、あれは耐えているのではなく、聞かなかったことにしようとしておるのか?)


 冷や汗をかなりかきながらどうやって収めようか必死で考えるクライド。

 しかし、考えるのが致命的に遅かった。何故なら、床には冷気の霧が発生しているからだ。流石にマズイとそれを感知できたものが一斉に思ったところで、


「止めなさい、ソロン!こんなところでそれをやれば、まだ十分に防ぎきれない弟が危険よ!」


 主からの命令救いのことばが訪れた。言及していたヨランダとそれをニヤニヤしながら聞いていたアルバートがようやく足元に冷気の霧が漂っていることに気がついた。


「使用人の分際で何をやっている!分をわきまえよ!庶民である貴様が皇族である我らに危害を加えようとするなんて不敬だぞ!この場にいるだけでもおこがましいというのに!」

「そうだぞ、庶民!出自不明なお前を採用することなんて、本来ならば、いや、私ならばありえないことなのだから。」


 ソロンの行動にようやく気付き、咎めようと声を上げるヨランダとアルバート。

 しかし、ソロンを庶民だ、出自不明な存在だ、などと言って蔑んだりする言動はシエルの地雷であり、虎のしっぽでもある。また、ソロンのことを幼少の頃からシエルを助けてくれた恩人ということで知っており、シエルと同い年ということで私的な場では息子のように扱うシエルの母、ノエル第四皇妃も表面上はニコニコとしているが、内心ではかなり怒っていた。第一皇妃のマリーゴールドはノエルより立場が上だが、どんな理由があるのかわからないがノエルを慕っている。なのでその娘とその専属執事であるソロンをよく擁護してくれる。また、第三皇妃のヘンルは中立であるのでどちらにも与しない。なので、この場にはヨランダとその子たち側の味方が少ない。しかし、誰もソロンを擁護する発言もヨランダを責める言葉も出なかった。ソロンに止めるように命じたシエルや現皇帝は驚き、いつまでも攻撃してこないソロンの様子とに周りの使用人たちは戸惑った。


「「どうした(の)、ソロン?」」


 何故なら、今のソロンは胃のあたりを抑えながら露骨にゲンナリとした、嫌そうな顔をしているからだ。


「いえ、が来るだけですよ。アハハハハハ」

「!彼女が来るのか!?」

「えぇ、とんだ厄日になりますね〜。・・・・・・胃が痛い・・・・・・」

「え?え?何のこと?・・・・・・。まさか、・・・」


 皇帝陛下はソロンの言う『チョットした災厄』に驚き、シエルは最初は何もわからなかったようだが、ソロンが何を言っているのか分かってきたのか、だんだん青ざめていく。


「「貴様、皇帝陛下(父上)に対してその発言、無礼ではないのか!」」


 なお、ヨランダとアルバートはこのやり取りがわからず、ソロンの無礼な発言を咎めようとした。ただし、次の瞬間、現れた人物に先程のシエルと同様、青ざめた顔をしていく。


「突然の訪問を許してほしい。魔法帝国メイザースの現皇帝、クライド殿」

「いえいえ、よろしいですよ、法皇ローズ様。貴方様であればいつでも歓迎いたします。」


 まぁ、それも仕方がないだろう。突如、転移してきた人物は世界で最も信者が多い『神王教』の総本山、エルサレム神聖法皇国の法皇ローズなのだから。彼女を敵に回すということは、世界の3分の2以上の”人”を敵に回すということ。はっきり言って、統治するものにとっては特に爆弾のような存在だ。なので、大抵の者達はその場に伏すか、控えるべきなのだ・・・・・・が、ソロンは冷気の霧を濃くしただけで、そんな様子が感じられない。


「ソロン!貴様、控えよ!その御方を誰だと思っている!その御方に手を出せば、貴様はこの世界で生きていけなくなるぞ!」


 ヨランダがそう言い、忠告する。しかし、そのような言葉を聞いていないのか、ソロンは目も合わせず、無視している。そこで、彼女は皇帝を見るが、彼は頭痛がするとでも言うかのように頭を押さえていた。執事長やメイド長も似たような態度である。意味がわからないとでも言うかのような顔をしながら、再び、ソロン達のことを見ると、


「やぁ、ソロン。久しぶりだね〜。」

「いえいえ、。つい先週、定期連絡代わりに水晶にてお話をしたばかりですよ。まぁ、直接会って話をするという意味では久しぶりですけど。」

「「「な!?」」」


 ソロンは気軽そうに話をしていた。いや、一応、敬語は使っているから敬意のようなものはあるのかもしれないが、それでも傍から見れば異常なやり取りをしていた。



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近状ノートにて、食堂の座席表を出してみました!

下にリンクを貼っておきますので、気になる方はご覧ください。

https://kakuyomu.jp/users/tsukahaya/news/16817330650185416439



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