第4話 さかりがついた猫

 なんか、最近、実さんを見ると恥ずかしくなって下を向いてしまう。どうして、こんなに私のことに気をつかわない人のこと考えちゃうんだろう。


 勉強はしているけど、休憩に入って、ふと気づくと、実さんは、今、何をしているんだろうって考えている。アイロンして気づいてみたら、実さんのワイシャツを頬に付けて、目をつぶり、香りをかいでいた。


 あんなに、連絡もしてこない人、私のことなんて家にいても見ない人、時間とか守らない人なのに、考えているのは実さんのことばかり。どうしてなの?


 かまってくれないから気になるの? 私のことを見てくれない日々が苦しくなってきた。JKなんだから、普通のおじさんだったら可愛がってくれるでしょ。可愛いねの一言ぐらい、言ってくれるでしょ。少しは私のことも考えてよ。

 

 でも、そんなこと実さんには言えない。だって、おじさん、親戚だし、相手にされないと、この家で暮らしにくくなる。万が一、付き合えても、母になんと言えばいいんだろう。


 たまに早く帰ってくると、実さん、お風呂上がりにシャツだけで出てきたりするけど、背中とかずっと見ちゃう。何か付いてるとか聞かれちゃったけど、気のせいと答えておいた。私、どうしちゃったんだろう?


 ある晩、私は男性に抱かれている夢を見た。その男性は、私を包み込み、私の体は、自分ではどうしようもなくなった。目が覚めた、その時だった、実さんの顔が私の前に急に現れた。


「え、どうして、ここにいるの?」

「いや、瑠花ちゃんの部屋から、体調が悪いような荒い息の音がして、病気かもって、大丈夫かなと見にきたんだよ。」

「勝手に入って来ないでって言ってるでしょ。出ていって。」


 私は、枕を投げつけ、実さんを追い払った。そんな夢を見ている自分が恥ずかしかったの。パンツも汚れてる。こんな姿、実さんには知られたくない。本当に、私ったら、どうしちゃったんだろう。


 多分、大人になりかけているんだと思う。そうよね。子供を産むために、体が大人の女性に向けて準備しているのね。別に、変なことじゃないのよ、多分。そう自分を安心させた。


 私は受験勉強ばかりしていて、学校も家からすぐ近くの女子高で、登下校で男性とはほとんど会わない。だから、実さんのことが気になっちゃうんだと思う。今日は、少し、外に出てみようか?


 近くの商店街とか駅ビルとかを歩いてみて、男性も周りにいっぱいいたけど、何も感じなかった。そして、実さんのことも、あまり思い出さなかった。でも、家に帰ると、実さんのことばかり考えている。どうしてなの?


 家にいても、気づくと、実さんの部屋を見ているし、実さんのいない家って、寂しくて、寂しくて我慢できない。だから、職場に行ってみようか? いえ、そんなことはできない。嫌われちゃう。


 なんか、実さんが使ったコップとか、お風呂から出てきた時のタオルとか、そんなものを片付けていたりすると、実さんのことしか考えられなくなっちゃう。こんな私、お母さんとかに、恥ずかしくて言えない。あと1年だし、私が、我慢していればいいのね。そう、我慢、我慢。


 だって、実さんは私よりずっと上で、お似合いの彼女とかだってできると思う。私みたいに子供なんて相手にしてくれるはずもない。初めから、ありえない関係なのよ。私が大学に入って、一人暮らししたら、すぐに忘れるって。


 でも、もしかしたら、運命なのかな。前世で大恋愛をした2人だったりして。敵に襲われた時に、救ってくれた王子様で、死後に、少し歳の差が出ちゃったけど、この世で生まれ変わったとか。


 私は、救ってくれた実さんに、馬の上で唇を重ねられた姿を想像して、目を閉じていた。いえいえ、絶対におかしいって。そんなわけないもの。私、こんなんじゃ、さかりがついた猫じゃない。だめ、だめ。勉強しようっと。

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