第45話 悠真の初恋物語 その6


 「……うん」


 俺はそのまま高樹さんの手を握り近くの公園まで無言で歩いた。

 そしてベンチの横の自販機でペットボトルの冷たいお茶を買い、腰を下ろした高樹さんに渡して俺も隣に腰掛けた。


 「高樹さんって、……マリアさんの妹だったんだ」


 ペットボトルを両手で握りしめ、俺の問いに下を向いたままうなずいた。


 「俺、店でマリアさんと知り合ってからドラムの練習を見てもらう様になったんだ。それから色々話してる内に、考え方とかドラムに向き合う姿勢に憧れて……」


 「……」


 「気がついたらどんどん好きになって……、初めてだったんだ、こんな気持ちになったのは!」


 「……っ!」


 高樹さんは何も言わずに肩を震わせていた。


 「マリアさん、これから夏フェスが続いて忙しくなって会えなくなるから、……俺が無理矢理『高校の時のバンドの映像が見たい』ってわがまま言ったんだ」


 「……それで、二人は抱き合ってたんだ、映像も見ないでっ!」


 『氷の美女』と呼ばれていた時の様な冷たい目で睨まれた。だけどその目は涙で溢れていた。


 「俺がマリアさんと彼氏の写真を見てしまって、……動揺しちゃったんだ。

 それでマリアさんが『俺の事は弟にしか見れない』『それにあの部屋を出たら結婚も考えてる』って言うから、恥ずかしいんだけど泣いちゃってさ……。

 そしたら『ごめんね』って言って抱きしめてくれて、……だからマリアさんとは何も無いんだ! 全部俺が悪いんだ! だからお姉さんの事、嫌いにならないでくれ!」


 カッコ悪いけどちゃんと話さなきゃ! 俺は正直に全てを話し、立ち上がって高樹さんに深々と頭を下げた。




 ※




 ……どの位の時間が経ったんだろう?


 暫く頭を下げたまま、高樹さんのすすり泣く声を聞いていた。


 「もう……いいよ。頭上げてよ」


 そう言われて顔だけ上げたら高樹さんと目があった。まだ涙目だけど『氷の美女』の頃の冷たい視線ではなくなっていた。


 「悠真くん、カッコ悪い! こんなに大っきい体してあんな小っちゃいお姉ちゃんに甘えちゃってさー♪」


 涙を拭ってフフフと笑いながら俺の肩をグーで叩いた。

 

 「よく考えたらお姉ちゃんが浮気なんかする訳ないのに、……しかも相手が悠真くんだったから二度ビックリしちゃって! なんだか恥ずかしいわ」


 「浮気じゃないんだ! その、……俺が甘えただけでマリアさんには恋愛感情なんてなかったんだから!」

 

 「もう分かったわよ! ……それより悠真くんっていつも落ち着いてる感じなのに、甘えん坊さんだったんだねー♪」


 そう言ってベンチに腰掛けた俺の頭を『よちよち』とか言って撫でて来た。うーん、悔しいけどなんも言えねぇーっ!


 「じゃあ悠真くんの初恋はお姉ちゃんだったんだね」


 「そーだよ! あははっ、……でも見事にフラれちゃったけどね!」


 照れ隠しのつもりで無理矢理笑ったハズだったんだけど、……あれ? 涙出て来た。

 慌てて目をこすったから、見られてないよね?


 「いーよ、泣いても! 今度は私が胸を貸してあげるから。私にも、……もっと素顔の悠真くんを見せてよ!」


 そう言って高樹さんは天使の様な優しい笑顔で俺の頭を抱き寄せた。吸い込まれる様に胸に顔を埋めた俺は、そのまま声を上げて泣いてしまった。もう自分が女々しくて恥ずかしいんだけど、柔らかくてあたたかい胸に包まれて、なんだかフラれてしまった悲しみが浄化される様だった。





 「ねぇ、……そろそろ帰ろ、悠真くん。お姉ちゃん心配してるよ!」


 「……っ! ごめん高樹さんっ!」


 泣き疲れた俺はそのまま高樹さんの膝の上で眠ってしまったらしい。えーっ、俺どんだけ寝てたんだ? 

 空はすっかり暗くなっている。昨夜ゆうべはほとんど寝られなかったからって、何やってんだ俺はっ!!


 「ふふっ、『甘えん坊悠真くん』の寝顔、可愛いかったわよ♪」

 


 あれ、怒ってないの? ……気のせいかな、なんか嬉しそうだぞ?


 俺はマリアさんに『今から二人で戻ります』とLIMEを送った。部屋を出てからかなり時間が経っていたけど、すぐに既読がついたって事は余程心配していたんだろう。


 ごめんマリアさん、こんなに遅くなったのは全部俺のせいです⤵︎


 「帰ろ、高樹さん!」


 俺が立ち上がると、何故か高樹さんは座ったまま俺を見て恥ずかしそうに両手を広げてる。


 「足、……しびれちゃった!」


 あーっ、ずっと膝枕してくれてたもんなー!

 俺は広げた手を掴もうとしたら高樹さん、そのまま『えいっ♪』と言って俺に飛びついて首に腕を巻き付けて来た! えーっ?


 「私だって、……甘えん坊なんだよ♡」


 マリアさんと違って背が高いから頭が顔のすぐ近くにあるよー! 甘い香りがふわっと鼻につく。こんな所で抱き合ってたらみんなに誤解されちゃうよ!


 しばらくの間抱き合っていたら、高樹さんが体から離れて、


 「あー、スッキリした! 帰ろっ、悠真くんっ♪」


 ……何がスッキリしたんだ? 散々迷惑かけて嫌われてないの、俺? おまけに繋いだ手をブンブン振って歩いてるし。



 ※




 「朱里紗ありさっ!」



 玄関で待ち構えていた涙目のマリアさんが高樹さんに抱きついた! 未来姉とほとんど身長変わらないから、さっき俺が泣いてた胸に顔が収まってるよ!


 「ごめんね、お姉ちゃん! 私の勘違いだったわ。お姉ちゃんが浮気する訳無いもんね!」


 ヨシヨシって感じでマリアさんの背中をポンポンする高樹さん、もう、どっちが姉でどっちが妹か分からないよね?


 「私、お腹空いちゃった! でもピザ、すっかり冷めちゃったね⤵︎」


 「悠真からLIME来てからオーブンで温めたから熱々だよ! さっ、みんなで食べよ!」


 二人は手を繋いでリビングに入っていった。めっちゃ仲良しじゃん! 姉妹ってこんななのかな? 知らんけど。



 

 つづくー!

 本編はここまでっ♪



 🌸読んで頂きありがとうございました🍒

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 🎸ここから先は補足&雑談コーナー🎸



 悠真の野郎、今度は朱里紗の胸に顔を埋めました! こんにゃろ、許さーん!!


 あれ? せっかくの悠真回なのに悠真の株が急降下です。←私のせい?


 気を取り直して今日のおススメは!


 Stevie Wonder/Songs in the Key of Life


 はい、ついに出ました!

 スティービーワンダーです!!


 本当声が大好き! そしてこのアルバムはスティービーワンダーの入門編&代表作です。


 1度は耳にした事がある曲があると思います。CMでも結構流れてるしね。1番有名なのはこの曲かしら? 


 『Isn’t she lovely 』

 https://youtu.be/9-n3Ydy7ras?si=3huWs3_TZlU0dsIl


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