第32話 赤眼鏡のマスク美女


 昼飯を食べ終わったら俺は、机にクッションを置いてスティックで叩くのが入学式からの日課になっている。最初は物珍しくみんなが見ていたけど今じゃ誰も気にしなくなっていた。



 タタタタ タタタタ タタタタ タタタタ♪


 タタタタタタタタ タタタタタタタタ♪


 メトロノームに合わせて八分、十六分と叩いて居ると、マスク姿の赤眼鏡が戻って来た。



 ……ん? 何か見られてる?


 気にせず叩いてたらボソッと一言、


 「ドラム、……やるんだ」


 えーっ、入学してからずっとやってたのに今気付いたの? そんなに関心無かった? 先週シンちゃん達と叩いてから俺、結構有名人になったんだけどー! それでも努めて冷静に爽やかな笑顔で、


 「うるさかった? 読書の邪魔だよねー、ゴメンゴメン!」


 「別に、……好きにやってよ」


 ガーン! 高樹たかぎさんは溜息混じりに言って自分の席に座りまた本を読み出した。



 毎日毎日何を楽しそうに読んでるんだ?


 なんとなく目が笑ってる様に見えるんだけど……。チラとタイトルを見ると『論理学研究〜?』何だかわからないや(苦笑)


 ここは空気を読んでヘッドホンで音楽聞こう。明日から体育館裏でも行って叩くか。



 ※



 それから数日、高樹さんとはなんの進展もなく過ぎていった。それでも『おはよー!』『じゃあまた明日!』だけは言い続けていたら高樹さんも『おはよ』『うん、また明日ね』なんて返してくれる様になった。



 俺はあの日の翌日から昼飯を食べたら一人で体育館裏に行き、メトロノーム&クッションとたわむれていた(笑)そんなある日、いつものように体育館裏に向かって行くと何やら女の子達が集まっていた。


 あれー先客かー

 ……なんて思っていたら高樹さん? が上級生らしき人達に囲まれていた。


 「アンタでしょ? ヒロト先輩の事たぶらかしたのは?」


 「一年のクセに抜け駆けしてさー!」

 

 「私っ、何もしてませんっ! 先輩には付き合ってくれと言われたけど、ちゃんとお断りしました!」


 「……何なの? その態度! ちょっと可愛いからって調子乗ってんじゃないわよ!」



 ……オイオイ、面倒くせーな。見るからに性格悪そーな姉さん達だな、全く。


 とりあえずここは俺の練習場所だからどっか行って欲しいんだけどなー、やれやれだよ。



 「お姉さん達、大勢で下級生囲むの良くないと思うよー!」


 「何よ! 誰アンタ?」


 「通りすがりのバンドマンだけど? ちなみにヒロト先輩はウチのギターの友達だから、コレ聞いたらどーなるかな?」


 俺は録音もしてないスマホをとりあえずお姉さん達に向けてみた。←勿論ヒロト先輩の事なんて知らない

 

 そしたらお姉さん達、急に態度が変わって俺に泣きついて来た。


 「ごめんなさいっ! 私達の憧れの先輩がフラれたって噂聞いてつい……、許してっ!」


 「お姉さん達こう言ってるけど、高樹さんはどーする?」


 高樹さんはお姉さん達を見回して、


 「私は、……別にいいです」


 「だって! それじゃ俺も先輩にチクったりしないから。はいっ、もう解散!! 」


 そう言ってスティックをカンカンッ♪って鳴らしたらお姉さん達、そそくさと逃げて行ったよ。そんなんじゃいつまでたってもヒロト先輩に振り向いてもらえないよー!

 


 お姉さん達が居なくなった後、高樹さんはその場にペタリと座り込んでしまった。


 「……大丈夫、高樹さん? あんな怖い顔して囲まれたら流石にビビるよねー、俺なんて足、ガクガク震えちゃったよー」


 高樹さん、マスクを外して俺を見上げて、


 「助けてくれてありがとう田所くん! 私も怖くて腰が抜けちゃった!」


 安心したのか高樹さんは、初めて笑顔を見せてくれた。笑った顔の高樹さんは綺麗と言うより年相応でとても可愛らしかった。


 「俺も「ヒロト先輩」なんて知らないし、録音もしてないから心臓バクバクだったよ!」


 「あはははっ♪ 田所くんって以外と度胸あるのね! ……ところで、どうしてこんな場所に居たの?」


 俺はバックからクッションを取り出して、


 「高樹さんの読書の邪魔になるかなって思って、あれからここで練習してたんだよねー!」


 それを聞いた高樹さん、恥ずかしそうに本を取り出して、


 「ごめんなさい田所くん! ……実は、この本……、ラノベなの」


 そう言って難しいタイトルの本の表紙を取ったらそこには、『悪役令嬢のご当地ウマカモン巡りの旅』と書かれたラノベが顔を出した。


 「私、凄い人見知りで……。みんなと喋りたいと思っても話しかけられないし、話すタイミングも逃しちゃって、おまけに、その……、『氷の美女』とか言われ出したから余計に話せなくなって……。

 でも一人でいるのはつまらないし、気まずいから難しい本読んでるフリしてラノベ読んでマスクの下で笑ってたの。

 だからごめんね、これからは教室で叩いていいから!」


 一気に捲し立てた。こんなに早口で喋るんだ。最初の印象と違ってなんか可愛いな。


 「わぁー、騙されたー!(笑)でもいーよ、俺ここ気に入っちゃってさ、誰もいないから落ち着くんだよねー!」


 そしたら何と高樹さん、


 「じゃあ私もお昼はここで食べようかな? それに田所くんとは話が合いそうだしね!」


 「えっ、そーなの? 俺、ラノベとか読まないけど?」


 そう言ったら高樹さんは、俺の首から下げてるヘッドホンを取って自分の耳に当てて、


 「やっぱり『Charlotte』聞いてるー! 最初会った時に音が漏れてたから気になってたんだー♪」


 「えーっ、『ロット』ってデビューしたばっかりだよ! 音楽好きなんだ?」


 「うん! だからお昼にここで田所くんの叩いてるトコ、……見ててもいいかな?」


 そう言って高樹さんは、はにかんだ笑顔で俺を見上げた。うっ、……破壊力抜群だな! 高樹さんめぇー! ←結局コレが書きたかっただけ。





 つづくー!

 本編はここまでっ♪



 🌸読んで頂きありがとうございました🍒

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 🎸ここから先は補足&雑談コーナー🎸


 『高樹さんめぇー!』が書きたかったこの赤眼鏡回(?)ここから2人の仲は急速に発展する……のかしら?


 校内描写は難しいわよね、制服だって着こなし方が昔と今じゃ全然違うでしよ?

 なんとか誤魔化しながら書いていくので、ソコは突っ込まないで欲しいなぁ。

 

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