もう1人の赤眼鏡さん 編

第31話 もう1人の赤眼鏡


 「ゴメン。……気持ちは嬉しいんだけど俺、忙しいから付き合っても一緒に居る時間作れないし、今はそれどころじゃないんだ」



 ※



 はぁー、断るのは胸が痛いしなんか悪い事した気分になるよ……。


 未来姉とシンちゃんと音楽室でセッションしてから一週間、これで三人目だ。

 みんな可愛いかったし好きと言われて嬉しかったけど、今は何よりバンドが一番! ドラムが恋人さ! なんてね(恥)


 でも、……もし万が一、マ、……マリアさんと付き合えるなら……♡

 

 ダメだダメだっ! 年だって離れてるし、もっともっと上手くならないと俺になんて振り向いてもらえないよ!


 それに実際、俺に遊んでいる時間は無い。


 朝、起きて体力作りの為にジョギング→学校→店の手伝いorマリアさんとレッスン→家で基礎練→就寝zzz



 このルーティンは中学から続いている。高校に入って店の手伝いをするようになったから尚更時間がなくなった。


 マリアさんには結局、この間の代役のお礼と言う事で無料でレッスンを受けている。ちなみに俺の師匠だった人は今、全国を回ってる為不在だ。


 レッスンって言ったって基礎練は師匠と散々やって来たから教わる事なんてもうほとんどないんだけどね。他の生徒さんが来るまでの間だけ、ロットや他のバンドの曲を叩いては二人で雑談してる。そーだよ、俺が会いたいだけだよっ!


 そりゃ俺だって、女の子とデートしたりあんな事やこんな事したいよ! 目の前でイチャイチャ見せつけられて正直羨ましいもん。


 だけどそれ以上にあの二人と一緒に音を出したいんだ! その為にはもっともっと上手くならないとおいていかれてしまう。それだけは絶対に嫌だ!


 それに初舞台で叩いた時のあのゾクゾクする高揚感は〇〇◯するより気持ち良いハズだ!←偉そうに言ってるけど童貞、キスもまだ未経験



 ※



 「はーい、今日は席替えするよー!」



 入学して三ヶ月、あと二週間ちょっとで夏休みだと言うのに何故今やる? 


 まぁ担任は今まで喋ってなかった人とも仲良くなる為にって感じなんだろうけど、この席、一番後ろで気に入ってたんだよねー。


 「箱の中の紙に番号書いてあるから、順番に取って移動してー!」



 ※



 「悠真、私達もう別れましょ、さよなら!」


 隣の席の横川よこかわ凪沙なぎさがウソ泣きをしながら訳の分からない事を言ってる。明るく元気で入学早々クラスの中心人物になった彼女が隣にいたおかげで、俺もみんなと自然と仲良くなれた。


 「はいはい、またな、横川。お前が隣で良かったよ!」


 みんな自分の番になって番号を確認して、歓声を上げるヤツ、何も言わずに机を持って前の席に行くヤツ(笑)出来れば後ろのままでお願いします!



 ……げっ、一番前だ! さっき笑ったバチが当たった(苦笑)


 せめてもの救いは窓際って所だ。これなら上手くやれば寝ててもバレない……かも。



 「おっ、悠真ーっ、また一緒だな!」


 入学式の時に初めて声を掛けて来た、昨日まで前の席に座ってた俺の昼飯友達、前野まえのともだ。


 「『前野』のクセになんで俺の『後ろの』席なんだよー! まぁ気が楽でいーけど」


 更に前野の隣には、


 「悠真っ、私、新しい彼が出来たの! 貴方も私の事なんて忘れて早く良い人みつけてねっ♪」


 そう言って前野の腕を組んで来たのは横川さんだった(苦笑)いきなり新しい彼氏に任命された前野は腕に柔らかいモノが当たってデレデレしてるし……。あーぁ、これじゃ席替えの意味ないじゃん!


 それじゃ俺の隣の席は……、あっ、高樹さんか!


 高樹たかぎ朱里紗ありさ


 いつも一人で難しそうな本を読んでるって印象だ。

 ストレートの黒髪ロング、未来姉と同じ赤い眼鏡なんだけどこっちはキレイ系、てか成績も容姿も学年一とか言われてる才女だ。


 怖いもの知らずの男子達が告白してことごとく玉砕してるって言うし、俺なんて入学以来話した事も無いし、笑ってる顔も見た事がない。


 そんな中つけられた二つ名が『氷の美女』


 最近じゃ顔を見られるのも嫌なのか、いつもマスクをしている。


 『隣の席の高木さん』と言えば、からかって来るイメージなんだけど、それはあくまでもマンガの世界、こっちの高樹さんは全身から声をかけるなオーラを漂わせている(苦笑)



 「宜しく、高樹さん。俺、田所悠真!」


 シンちゃんを見習って、爽やか笑顔で挨拶をしたら高樹さんは本から目を離し、俺をチラリと見た後、赤眼鏡のブリッジを中指でクイッとして一言、



 「……知ってる。宜しくね」



 もう夏になると言うのに、鋭い氷の矢が俺の体を貫いた。一週間に三人もフッた俺に神様が罰を与えたのか? それっきり高樹さんとは話すどころか目を合わすこともないまま昼休みになった。



 ※



 「流石の悠真もお手上げってか?」



 後ろの席から一部始終を見ていた前野は弁当を広げてクククと笑っていた。


 高樹さんは昼休みになると何処かに居なくなるらしい、多分図書館だと思うけど。


 「私も『氷の美女』にはちょっかい出せないわぁー、『声かけるな』オーラ半端ないんだもん」


 何故か横川も話に割り込んで来た。


 「まぁ、一人で居たいって思ってるならそれで良いんじゃない? 俺は何か用があった時だけ話しかけようと思うけど、それ以外はそっとしておくよ」


 「そーなの? 悠真なら『氷の美女』を溶かしてくれると思ったのにぃー! 私、高樹さんと仲良くしたいのよ!」


 「無理だー! 俺、忙しいしそんな事で時間潰したくないんだ」


 横川は「あーぁ、忙しぶってさぁー」なんて言って弁当を持って仲良しグループの元に走っていった。


 まあ、『氷の美女』の笑った顔、見たい気もするけどねー。




 つづくー!

 本編はここまでっ♪



 🌸読んで頂きありがとうございました🍒

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 🎸ここから先は補足&雑談コーナー🎸


 

 

 ちょっと音楽から離れますが、みんなは離れないでよー!(懇願)


 さぁ悠真くん、『氷の美女』を溶かす事が出来るのでしょうか?

 そしてこの『もう1人の赤眼鏡』こと高樹さんは一体これからどう絡んでいくのでしょうか?

 

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