第28話 ここが本拠地よ!


 「ほらっ、悠真っ、早く早くっ!」

 「何やってんだ? 置いてくぞー」



 あーぁ、俺ってこれから先もこの二人に振り回される人生なの? それでもみんなは俺に同情してくれて、『悠真君、大変ねー』とか『二人の事頼んだわよ!』なんて言われちゃったよ。保護者か?


 だけどあんなに幸せそうな顔した未来姉を見たら、全部許せちゃうんだよねー、俺、シスコンなのかな?


 家から学校までは徒歩で十五分、音楽ばっかりやってたから勉強なんて出来る訳も無く、俺達姉弟はそこそこの学力で入れて家から近いってだけでここの高校に入った。

 まぁお陰で練習時間も取れるし俺達にはとても都合が良かったんだけどねー。


 家に着くまでの間も二人は、

 『おいっ、俺のカゲ踏むなよ!』『踏まれたら三秒動かないで息止めるんだよー♪』


 ……完全に子供の頃に戻っていた⤵︎



 ※



 「Ohーっ、本当にライブハウスなんだなー! それでこの上に住んでるのか、すげぇなオマエん家!」


 『no doubt』(ノーダウト)と書かれた看板の下の階段を降りるとライブハウス、階段を登ると自宅がある。一階は駐車場になっている。

 

 「お父さん仕事忙しくてどーせ一人でご飯食べるんでしょ? お腹空いたらいつでもウチにおいでよー! 店で働いてたら簡単な物なら作れる様になったんだ、へへっ♪」


 未来姉は高校に入って店で働く様になってから何故か料理を頑張って覚えていた。……ははーん、そーゆー事だったんだな! 本当可愛いな、ウチの姉ちゃんは♪


 過去に出演したバンドのステッカーやポスターが張り巡らされている階段を降りて入り口のドアを開けると、普段は中々忙しくて店に顔を出せないのに、珍しく両親が揃って店に居た。


 「おーっ、シンジくん、おかえり! 背ぇー伸びたねー!」

 「まぁ男前になっちゃって! あっちで金髪美人にモテモテだったんじゃないのー♪」


 ウチの両親は音楽家で若い時は演奏しながら世界各地を飛び回っていた。ここ最近はライブハウスの他にも楽器屋や音楽教室なんかも手広くやっている。

 

 「お久しぶりです、おじさん、おばさん! これからちょくちょく顔出しますんで宜しくお願いします! あっ、後で親父も顔出すって言ってました」


 「そーか、親父さんも来るのか! シンジくん、これからは此処を自分家じぶんちだと思ってくれて構わないから、遠慮なく遊びに来てくれ!」

 「そーよ、『未来みらいの旦那様』なんだから、未来みくだけにねっ♡」


 「ちょっとぉー! ママ何言ってるのよ? もうあっち行ってぇー!!」


 シンちゃんも未来姉も顔が真っ赤になってる。二人共ウチの両親には敵わないよなー♪


 

 ※




 ウチの店は二フロアあって、入り口から一つ目の扉を開けるとは簡単な食事も取れるカフェになっていて、その奥にある重い扉を開けるとライブスペースになっている。


 ライブスペースは出演バンドが居ない日はイベントスペースやレンタルルームとして利用してたりもする。俺は大体こっちでドリンクを作ったり雑用をしているが、未来姉はカフェスペースに居る事の方が多い。


 「すげぇな、ライブ見に来る客だけじゃないんだな。ここで開始時間まで時間潰せるし、飯も食えるなんて便利だよなぁ」


 シンちゃんは目をキラキラさせながら店内を見回した後、その先にある重い扉を開いた。そこには薄暗いフロアが広がっていて、奥には照明に照らされたステージが見える。


 「シンジっ、ここが私達の本拠地よ! これから私達の演奏でこのフロアをお客さんでいっぱいにするんだからねー!」


 未来姉がシンちゃんの肩をバシバシ叩いて笑って言った。そうだ、この日が来るのを俺達はずっと待ってたんだ!


 「俺達、やっとスタートラインに立ったんだな、未来、悠真っ、ここから天下とるぞ!」


 「「おーーっっ!!」」


 まだ誰も客が入っていないフロアで俺達三人は、手を重ね気合いを入れてその手を上に掲げた。

 

 

 ※



 今夜は貸し切り、カフェスペースでは店のスタッフ、それにシンちゃんの親父さんも合流して盛大に歓迎会が開かれた。大人達は久しぶりの再会にアルコールもすすんで上機嫌だった。


 俺達は母さんと未来姉の作った料理を食べながら、シンちゃんのイギリスでのバンドの話や俺達の今まで出会ったバンドの話をして夜遅くまで盛り上がった。


 未来姉はさっきからずっとソワソワして何か言いかけてはやめて、またモジモジして……。


 スマホを手にチラチラシンちゃんを見てる。ははーん、分かったぞ!



 

 そして意を決した未来姉が、


 「ねぇシンジ、……これからは私に直接連絡して欲しいの、LIME……交換、しよ♪」

 

 「お、……おぉ、OK! よろしく、な!」


 二人、下を向いて無言でQRコードをポチポチ……。



 「わっ、私、後片付け手伝ってくるー!」

 「お、おぉ、気ぃつけろよ!」


 思春期中学生かっ? ……何で二人共そんなに可愛いの?



 そして二人は遂に念願の(?)LIME交換をしたのだった。ふぅーっ、これでやっと俺は解放されたよー!




 ※




 「あっ、そーだ! シンちゃん見てくれよ、コレが俺の初ステージだったんだぜ! いきなりキャパ三千とかで叩くんだもん、足ガクガクいっちゃってさー♪」


 そう言って俺はカフェスペースにあるプロジェクターで、この間のジャンヌさんの後ろで叩いた記念すべき俺の初ステージの映像をシンちゃんに見せた。



 「What! ……ゆ、悠真、こっ、コレは……っ!!」



 固まるシンちゃん、流石に三千人の前ではやった事ないみたいだねー! ヨシッ!!


 「ねー、凄いでしょ? お客さんパンパンに入ってたんだぜー!」


 「…………っ!」


 ん? シンちゃんがずっと固まってる。そこに後片付けを終えた未来姉が戻って来て……、



 「いやぁぁーーっっ!!!」



 プロジェクターには赤眼鏡のゴスロリメイド姿の未来姉がベースをブイブイいわせていた!


 「もーっ、悠真っ! なんでこんなの見せてるのよーっ!! シンジもそんなにじっと見ないで…………っ!!!」


 シンちゃんは顔を真っ赤にしてその場に立ち尽くし、目が釘付けになっていた。おーい、未来姉じゃなくて俺を見てよー!

 


 「どっ、……どうかな? 私のメイド姿」


 恥ずかしそうにシンちゃんを見上げる未来姉、身長差があるから思いっきり上目遣いになってるよ!


 「あー、……うん、……いよ……っっ!」


 ハッと我に返ったシンちゃん、慌てて目を逸らして、


 「とっ、トイレ行ってくる! 悠真っ、また後で見るからそのままにしとけよーっ!」


 そう言って逃げる様にトイレに駆け込んだ。


 「もぉーっ!! 可愛いって思ったんでしょーっ! 惚れ直したでしょー? 素直になりなさいよーっ!!」



 そんな事言いながら未来姉さん、お顔が真っ赤になってますよ♪



 

 つづくー!

 本編はここまでっ♪



 🌸読んで頂きありがとうございました🍒

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 🎸ここから先は補足&雑談コーナー🎸


 みっくのお店の名前は『no doubt』(ノーダウト)です。ヒゲダンの曲じゃないよ!


 グウェン・ステファーニ率いるアメリカのスカパンク、オルタナ、ポップロック系のロックバンドです。今年(2024)に久しぶりに活動再開したってよ! 一時期ハマって車でよく聴いてたなぁー、なんて思ってお店の名前にしましたよ。

 No Doubt 『Just a girl』


https://youtu.be/PHzOOQfhPFg?si=yu3yxM8hoAgUphC_


 そして悠真は自慢気に言ってますが、シンちゃんは既にジェス達と1万人以上の規模のフェスに出演しています。(設定)

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