第27話 そこの二人、イチャイチャするなよ!


 E7(#9)いわゆる『ジミヘンコード』だ!


 ざっくり言うと、伝説のギタリスト、ジミ・ヘンドリックスが発明したコードでお洒落でカッコイイ響きがするロックの定番コードだ。


 まぁ、半音下げチューニングって言った時点でなんとなく分かってたけどねー、案の定シンちゃんはシャカシャカとブラッシングを入れながらジミヘン風のカッティングを始めた。


 俺は未来姉に目配せしてハイハットを刻みスネアを叩くと、未来姉はシンちゃんを見てヘラヘラしながらも腰を落として重低音を響かせた。


 ドゥッ、テッ、ドゥッ、ドトゥー♪


 ズッズチャー、シャカ、ズグズグチャー♪


 シンちゃんが未来姉に合わせてカッティングする。


 

 (おっ、お前っ! 良い音出すじゃん!)

 (そっちだって! イギリスで遊んでた訳じゃないんだー♪)


 ドゥドゥドゥドゥドゥドゥドゥーッ♡

 ズッズンチャー、シャカ、ツカツカチャー♪


 (嬉しいー♪ 一緒にやれて楽しー♡)

 (俺もずっと一緒にやりたかったぜー♪)



 ……ん、何か見つめ合って二人の世界に入ってるんですけどー? よーし見てろー! 俺のフィルイン♪


 ズンズンダダン、ドカドクドカドカパーン♪



 ドゥードゥドゥ! ドゥドゥドゥドゥー💢

 トゥィーンティラリラリロリー、ティロリロリー!


 (ちょっと悠真っ! もーっ、今良いトコなんだから!)

 (悠真っ! 今、ねーちゃんと喋ってるんだから邪魔すんなっ!)



 ……ヒドイ。なんだよもー!


 そっからはスリーコード(E、A、B)から、シンちゃんがレイヴォーン風の高速ソロを見せれば、未来姉もスラップを交えた独創的なアドリブで応酬、その間も二人は、


 (凄いよー! こんなに上手いなんて思わなかったよー♡)

 (俺も、……さっきは悪かった。ここまで弾けるとは思わなかった!)


 (だって、……約束したもん!)

 (俺も、……絶対お前に負けたくなかったから!)


 (ずっと、ずっと会いたかったんだからねぇー!)

 (俺だって、……会いたかった!)


 二人は向かい合って、お互いのプレイを熱い視線で見つめながら弾いている。


 ……あぁ、もう、勝手にやってろよ! でも俺だって二人に負けない位努力したんだぞー!


 ドカドカドゥカドカ、パシーン!♪


 (あー、悠真! オマエが後ろに居るとスゲー弾きやすいなー!)

 (悠真ー! 大好きだよー♪)


 ……とってつけた感が、まっ、いっか。


 その後はレッチリ風の曲をやって未来姉がバチバチスラップをかませば、今度はシンちゃんがファンキーなカッティングで返す。



 「おいっ、なんかスゲー演奏やってるぞ!」

 「私服の人誰ーっ? 超カッコ良くなーい?」


 

 音を聞きつけて集まって来た先生と生徒達で音楽室はぎゅうぎゅう詰めになっていた。

 そして見つめ合いながらえげつないプレイをしている二人を見て歓声を上げたり、中には頬を赤らめてる女の子もいた。


 そして、ニコニコ楽しそうに弾いてる未来姉は、今まで見た中で一番飛び跳ね、ちょろちょろとシンちゃんの周りをステップを踏んで全身で大好きを叫んでいた。



 まるで求愛ダンスみたいだよ、未来姉……。



 時間にして十分程だが、俺はR指定にした方が良いんじゃないかと思う程の二人の奏でるイチャイチャを真後ろで聞かされたのだった。不憫だ⤵︎




 ※




 拍手と大歓声に包まれて、俺達は初の三人でのセッションが終了した。


 「部長さん、ベース貸して頂きありがとうございました♪」


 赤眼鏡を外し、若干頬が赤くなった未来姉に部長は、


 「……私のベースって、あんなに良い音するのね。なんか持ち主が私で本当ゴメンなさいって感じよ⤵︎」


 ……と、受け取ったベースを抱きしめ割と本気で凹んでいた。


 シンちゃんはまたもやあーちゃんさん(未来の友達)に近づき耳元で、「Thank you! このギター大事に使ってるんだね、凄く弾きやすかったよ♪」などと囁いていた。無自覚なのか?


 ヘナヘナになるあーちゃんさん、最早ピロートークだろ、コレ!


 まぁ俺もドラムを貸してくれた未来姉の友達にお礼をいったら、「悠真くん、すっごいカッコ良かったよ♡」なんて言われちゃった、えへへっ♪


 そしてさっきまであんなに演奏でイチャついていた二人だったけど、楽器を離した途端、急によそよそしくなった。……だけど一言だけ、


 「今回は引き分けだな、未来!」

 「そーだね、シンジっ♪」


 照れくさそうに呼び合う二人。あっ、そーいや初めて名前で呼びあうトコ見たよー!



 そっからはもう大変! 未来姉はみんなに取り囲まれて姿が見えなくなった。


 「ねぇーねぇーみっく! あの人が噂のカレなの?」

 「カッコいぃーっ、お似合いだよー♪」

 「愛しのダーリン帰って来たのねー♡」

 「あぁー運命の再会っ! ねぇハグは? キスはっ? 早く早くっ!」


 もう手がつけられない、集中攻撃だよ!

 すると未来姉、テンパっちゃったのか思ってもいない事を口走ったよ。



 「もっ、もぉーっ! 違うのー!

 みんなぁー聞いてーっ!!

 わっ、私とシンジはそんなんじゃないの! 

 私達はただ再会したら一緒にバンドやるって約束してただけなんだからぁー! 


 すっ、……好きとかぁ? 付き合うとか全然違うしぃー!!」



 ……未来姉、ヘタクソかよ。



 それを聞いて未来姉を取り巻くみんなは一瞬静まり返り、そしてシンちゃんに矛先が向けられた。


 「みっくがあんな事言ってるけどいいんですかぁー?」

 「みっくの事どう思ってるのー? 本当にバンド組むだけなのー?」

 「二人は愛し合ってるんじゃないのー?」



 ……あーコレ、シンちゃんに振っちゃダメなヤツだよー!



 「勝手に言いたい事言ってんじゃねーよ! 俺達はそんなんじゃねーしっ! ガキん時約束したから帰って来ただけなんだからなぁーっ!


 すっ、……好きな訳ねーだろ? 

 勘違いすんなっ! オイっ、未来、悠真っ、帰るぞ! Let's bounce!」

 


 ほらー、二人共意地っ張りだからそっとしておいて欲しかったよー! 未来姉涙目だよっ!



 「ひどーい!!

 そんな言い方ないんじゃないのぉーっ?

 何よもぉーっ、髪なんか染めちゃってさ、ちょっと背ぇ高くなったからって調子に乗ってんじゃないのぉー?」


 「そう言うお前だって染めてんだろっ! そんな事よりなんでメガネ外すんだよ?」


 「あー、やっぱりシンジはメガネかけてれば誰でも良かったんだぁー!

 もうメガネはベース弾く時だけって決めたのっ! そんなにメガネが好きならメガネの女の子と付き合えばぁー?」


 「はぁ? ちょっと可愛くなったからって調子乗んなよ、バーカ!」


 「バカって言った方がバーカ!」



 ……もう、二人共小学生の頃から全然変わってないよ⤵︎ だいたいさぁ、ここに居るみんなあの演奏聞いてたんだから、好き合ってるのバレバレだからね!


 ん? ……でも未来姉顔真っ赤だぞ?



 「あっ、でも、……可愛くなったって思ってくれたんだ♪」


 「そっ、……そりゃあの頃のメガネザルに比べたら、かっ、……可愛くなってんだろ?」


 シンちゃん、下手くそ過ぎだよ!


 「もーっ、悠真っ! 帰ろ♪ 歓迎会の準備するよっ、早く早くっ!!」


 チョロ過ぎだろ、未来姉っ!


 「おい、待てよっ! まだ話は終わってねーだろ! ホラっ、悠真急げっ! Hurry up!」



 もー、待ってよ二人共! とりあえず俺はこの小学生の様なやりとりを生暖かい目で見ているみんなに頭を下げて後を追っかけるのでした。あー面倒くさ⤵︎




 つづくー!

 本編はここまでっ♪



 🌸読んで頂きありがとうございました🍒

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 🎸ここから先は補足&雑談コーナー🎸


 E7(#9)……コレはねジミヘンの『Purple Haze』で使われてるコードです。

 https://youtu.be/cJunCsrhJjg?si=LnOor89igouOmZJ3


 私が『なんかギター弾いて!』なんて言われた時に真っ先に弾くヤツです(笑)1番分かりやすいでしょ?


 そしてちょいちょい名前が出て来るレイヴォーンとは? 私が1番好きなブルースギタリスト『スティービーレイヴォーン』です。

 父から借りたCDにジミヘンの『リトルウイング』をカバーをしてる曲があってね(こっちはインスト)初めて聴いた時何故か涙が出て来て……。←思春期


 コレがレイヴォーンのリトルウイング

https://youtu.be/i6G53BMgugo?si=FBq6DH5bFT20Psm1


 勿論あんなに弾けるハズもなく挫折しましたが、今でも車で思い出しては聴いています。

 

 



 

 


 

 


 


 

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