第23話 ラストライブ!


 そして月日は経ち、俺は高校二年になり、いよいよ日本に帰るのが二週間後に迫ってきた。



 『Pearl Blue』はこの一年間でイギリス各地を回り、ジェスは『リトルジャニス』『ジャニスの再来』とまで言われ知名度を上げていた。

 幾つかのフェスにも参加して、その度に評価を上げていった中で俺が抜けるのはちょっと残念な気もする。


 そんな中で今日は俺のラストライブだ!


 リチャードの店の近くにある、キャパ千人ちょっと入るこのライブハウスは噂を聞きつけた多くの客で既に溢れ返っていた。


 

 「シンジィ、もういっぱい泣いたから今日は笑顔で最高のステージにするからね! うぅっ……」


 控室では、ジェスがそう言いながらも涙で顔がぐちゃぐちゃになってる。


 「これからもっとビッグになって、日本に帰った事後悔させてやるんだからっ!」


 そう言って抱きついたまま離れない。


 チャーリーがジェスを無理矢理引き剥がし、


 「でも、最初会った時はちっちゃくて女の子みたいだったのに、いつの間にか俺より背が伸びて、男らしくなったよな!」


 ビルも俺の肩を叩き、


 「ギターだって初めて見た時も上手かったけど、あれから更に上手くなって凄みが増したもんな。やっぱりお前は凄いよ! 今日は最高のステージにしような!」


 ロニーも続けて、


 「シンジィが居なくなって評判落とす訳にはいかないからなっ! 今日は俺の最高のプレイを見せてやるから覚悟しとけよ!」


 俺は一人一人と固い握手とハグをして、


 「俺、日本から来て言葉も通じないし、知り合いも居ない中、このギターがあったからみんなと繋がったんだ! そしてこんなに楽しい時間を一緒に過ごせて本当に感謝してる、みんなっ、今までありがとうっ!」


 ヤベっ、俺も勝手に涙が溢れてくる。止まらないや。



 チャーリーは目を赤くしながら手をパンパンと叩いて、


 「もう辛気臭いのは俺達には似合わないだろ? みんなで最後、思いっきり楽しもうぜっ!!」



 ※



 いよいよラストライブ! 


 俺達がステージに上がると歓声や指笛が鳴りやまない。暗転の中セッティングをして、俺は下を向き目を閉じる。


 そしていつもの様に赤い眼鏡のアイツを思い出して……、


 (絶対俺の方が上手くなってやるっ!!)



 カンッ、カンッ、カンッ、カンッ


 チャーリーのカウントから一斉に音が勢いよく飛び出していく。


 ズッ、ジャージャッ、ジャージャッ♪

              ティロリン♪

 ズッ、ジャージャッ、ジャージャッ♪

              ティロリロー♪

       

 イントロは俺とロニーのツインギターの絡みから、タンバリンを叩きながら荒ぶるジェスのハスキーな声が会場を鷲掴みにしていく。

 ビルは冷静に安定したリズムを弾き、パワフルなチャーリーのドラムが鳴り響く。


 客席では思い思いに体をくねらせて俺達の音を感じている。


 あぁ、……俺はなんて幸せなんだろう!


 最高の仲間と大勢の客に見守られ、弦に指を滑らせていく。


 ジェスの声と四人の音が混ざり合い、凄い力となって客席に襲いかかる。



 ※



 

 「みんなありがとーっ! 

 今日でシンジィとはお別れだけど、私達はいつまでも繋がってるからねー! それじゃ最後の曲いくよーっ!!」


 ジェスの掛け声に合わせて、四人の音が重なる。そこにジェスの声が絡みつく。


 俺達はお互いのプレイを体中で感じて、最後は笑顔で最高の一曲を締め括った。



 ※



 ライブを終えた後は師匠の店に場所を移して、ささやかな送別会が開かれた。


 店には常連客や、ヨーコさん、師匠はもちろん、なんと親父まで駆けつけてくれた。


 「神史しんじ、俺は仕事にかまけてお前に何もしてやれなかった。本当にすまないと思っている」


 更に親父はみんなに向かって、


 「リチャード夫妻をはじめ、メンバーの方々、そしてみなさん、今まで神史の事見守ってくれてありがとうございました! 今日は私のおごりなので好きなだけ楽しんで下さい!」



 「「「「「やったーぁ!!」」」」」



 集まった常連客達は飲めや歌えやの大騒ぎ!


 ジェスも最近は飲む量を控えめにしていたけど、今日は飲みまくってるし、ビルやチャーリー、ロニーはヨーコさんの手料理をがっついて食べている。


 俺は師匠に改めてお礼を言った。


 「師匠、今まで本当にありがとう! 

 ギターと師匠が居なかったら俺は今頃どうなってたか分からないよ。日本に戻っても俺、バンドやるから! 絶対ビッグになって又、ここでライブやりに戻って来るからな!」


 師匠は目頭を押さえて、そしてヨーコさんの肩を抱き、


 「俺達も息子が出来たみたいでな……、おまけにギターやりたいだなんて、こんなに嬉しい事はなかったよ!」


 「私達はシンジの事、本当の息子の様に思ってるからね、いつでも遊びにおいで!」


 そう言ってヨーコさんは涙を堪えて笑顔で俺を優しく抱きしめてくれた。


 そして師匠が……、


 「シンジ、コレは俺からの餞別せんべつだ、受け取ってくれ!」


 師匠はそう言って少し古ぼけたハードケースを俺に渡した。


 ……っ!!


 「し、師匠っ、コレって……」


 「俺が若い頃メインで使っていたフェンダーのストラトだ。俺が持ってるよりお前が弾いてくれた方がコイツも喜ぶだろう!」


 

 「あ……あ、ありがとうございますっ!」


 師匠からストラトを受け取り俺は泣き崩れた。


 そして師匠が、


 「最後にみんなでやらないか? 俺は今、無性にギターが弾きたいんだ!」


 その一言を待っていたかの様に皆がステージに集まる。

 俺もストラトを手にステージへ向かうとみんなが笑顔で迎えてくれた。


 「それじゃ、いくぜみんなっ!」


 チャーリーがスティックを叩きカウントする。


 カンッ、カンッ、カンッ、カンッ!!



 ※



 俺達のセッションは深夜遅くまで続いた。


 みんなが最高の笑顔で思い思いのプレイをして俺を送り出してくれたあのセッションを、俺は一生忘れないだろう。


 

 

 第1章終わり🎸

 本編はここまでっ♪



 🌸読んで頂きありがとうございました🍒

  コメントの返信は日曜日になります



 🎸ここから先は補足&雑談コーナー🎸



 『シンちゃん編』終了です! 周りの人達に恵まれてとにかくギター三昧だったシンちゃんでした。

 ジェス達はこの後更に有名になっていきます。いつかシンちゃんと再会する話も書いてみたいなぁ、なんて思ってますよ♪


 さぁ、やっと3人は再会しますが、何やら怪しい雰囲気が……。


 とりあえず章分けした方が読みやすいかしら? なんて思ってここで第1章終わりにしました。


 再会を祝して❤️、⭐️、フォローを!!

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