第21話 ジャニスの再来!


 「師匠、今まではこの二人と一緒に店でギター弾いてたんだろ? ところでボーカルは居ないのか?」


 ギクッ!! 


 ……なんて音はしなかったが三人とも顔が強張った。


 「あー、いや、……。

 居るには居るんだが、……な、ビル?」


 「う、うん……。

 歌は凄いよな、な? チャーリー?」


 「そ、……そうだな。は、いいよな!」



 何だ? ……この三人の様子は。顔色が悪いぞ? もしかしてヤヴァいヤツなのか?


 「まっ、まぁその内会う事になるだろ、さっ、店を開けるぞ!」


 師匠はそう言って俺と目も合わさずにそそくさと開店準備を始めた。



 まっ、歌は上手いみたいだし、俺には関係ないか!




 ※




 師匠の店『Gimme Shelter』(ギミ・シェルター)は奥さんのヨーコさんが経営していて、小さい店だがステージもあり、酒と食事を提供している。


 この頃の俺はすっかり師匠夫妻と生活を共にしていて、本当の息子の様に可愛がられていた。てか、親父元気かな?


 ヨーコさんの作る料理は美味しいと評判で客足も良好だ。俺にとっては嬉しい日本食も作ってくれる!


 そこで師匠は酒を出したりステージに立ったりしていたんだけど、今日から俺も一緒にギターを弾かせてくれる事になった。


 客は常連客がほとんどだが、中には若いにーさん、ねーさんも結構いる。流石に俺みたいなガキは居ないんだけどね。


 俺も皿洗いやテーブルに食事を運んだりと大忙しだ。


 俺達がステージに立つ時間は、だいたい客席が埋まって来たら演奏を始まるなんてアバウトな感じらしい。


 

 夜八時、店内も賑わって来て、そろそろ出番かなと思っていたら……、


 バタンッ!!!


 大きな音と共に入り口の扉が開き、足をふらつかせながら一人の女が入って来た。


 

 「セーフ!! ふふっ、今日は間に合ったみたいられぇ! ヒックッ♪」


 ボサボサ頭に派手な化粧で真っ赤な口紅をつけたその女は、師匠の肩をバンバン叩いてカウンターの椅子に腰掛けた。 うえっ、酒くさっ!!

 

 「ジェス! ……またそんなに飲んでるのか? まだ八時だぞ、そんなんじゃ体壊しちまうって!」


 師匠はジェスと呼んだその女の背中をさすりながら水を飲ませていた。


 「らいじょ〜ぶだってら! ちゃんと歌えるって! ん〜、今夜はなんかジャニスな気分れ♡」

 

 アレ? 日本語……?



 ……ん、? もしかしてこの人が歌うのか?


 

 「シンジっ、そろそろ準備しろ! 始めるぞっ!」


 師匠が俺を呼びステージへと向かう。既にビルとチャーリーはセッティングを始めていた。


 俺もチューニングを合わせ、準備をしていたら師匠が、


 「今日のジェスはジャニスだ! いつもの曲順で行くぞ! シンジ、コレ、曲順な!」


 (ジャニスって、足元フラフラだぞ? 

 ……大丈夫なのか、あの人?)


 「OK、わ、わかった!」



 

 ※

 


 俺達の準備が終わったのを見て、フラフラとステージに上がって来たジェスと呼ばれていたその女は、マイクスタンドにもたれかかり客席をぐるっと見回して一言。



 『Hello♡』


 

 その声と共にドラムのスネアとハイハットがリズムを刻む。


 ドゥテッテッテッテッテッテッ……♪


 『Move Over 』のイントロが始まり、その後は……、


 

 ハスキーボイス(酒焼け?)な彼女のパワフルなステージは、まるでジャニスが乗り移っているかの様な圧倒的な存在感だった。


 ピーッ ピーッ♪

 いいぞーっ、ねーちゃん♪


 観客から歓声と指笛が鳴り響く!!


 (すっ、すげぇ……っっ!!)


 俺は初ステージだというのも忘れて、彼女の声に引っ張られる様にギターを重ねた。

 

 『All Light!!』


 二曲目、三曲目と歌う彼女に観客は大盛り上がり。完全に俺達四人は彼女のバックバンド化していた。


 『Hey Hey Hey Hey〜♪』


 ゴキゲンに煽る彼女に観客のボルテージは最高潮だ!!



 そして四曲目、俺と初めて目が合った時、彼女は俺を見て驚いた顔をしたんだけど、……なんかしたっけ?


 この曲の間奏のギターソロは俺だ。神経を集中して弦に指を滑らせていると、彼女はマイクスタンドを杖の様にしながらヨロヨロと俺に近づき肩に手を回して耳元で一言、



 『…………られ?』(※だれ?)



 (な、……何だ? 

 すげぇ酒臭いんだけど? ……てか今まで気づかなかったんかーい!)



 ※



 ジェスの圧倒的な存在感が店を支配して、一回目のステージは五曲演奏して終わった。


 後片付けをしてカウンターに戻ったら、ジェスが座って水を飲んでいた。


 「ねー、リチャードっ! 誰っ、この子? 凄いギター上手いれー!」


 もう酔いは大分覚めているみたいだけど呂律が回ってない。でも最初の印象よりも若く見える。


 「ジェス、コイツは俺が二年間ギターを教えてきたシンジだ。今日から一緒にステージに立つから宜しくな!」


 師匠がそう言ったので俺は手を差し出して、


 「シンジです。よろしく!」


 「私はジェシー! みんら「ジェス」って呼んでるららシンジもそう呼んれー♪」


 ジェスはニコニコと笑って俺の手を両手で握ってブンブンと振った。うわっ、まだ酒臭っ!


 「ジェス、日本語上手いね! ここで覚えたの?」


 「えっとね、私のパパが日本人でママがイギリス人らの! ちなみにパパの妹がここの店のヨーコさん♪」


 すると厨房からヨーコさんが出て来て、


 「ジェスは学校も行かないでフラフラしてるからウチで働かせてるのよ。だけどギャラはほとんど飲み代みたいなんだけどね!」

 

 「えっ、……ジェス学生なの?」


 「そーよ、私、十八歳の大学一年生! まぁ全然行ってないれろれー♪ ……ところでシンジはいくつなの?」


 ステージでの雰囲気から二十代前半かと思ってたよ。


 「俺は中学二年、もうすぐ十四歳だよ」


 するとジェスは目を丸くして、


 「マジれー? 可愛い♡ これからは私がシンジの面倒見てあげるららねー♪」


 ムチュ ブチュッ♡


 そう言って俺の首に腕を巻きつけ、ほっぺたに何度もチューしてきた!



 めっ、面倒って、……何を見るんだ?←思春期



 つづくー!

 本編はここまでっ♪



 🌸読んで頂きありがとうございました🍒

  コメントの返信は日曜日になります



 🎸ここから先は補足&雑談コーナー🎸



 リチャードの奥さんはヨーコ(オノヨーコ)で店の名前はギミシェルターて! もうめちゃくちゃです(笑)


 さてボーカルのジェスですが、勿論伝説のシンガー、ジャニス・ジョプリンをイメージしました。私が小学6年生の時に父の部屋で初めてジャニスを聴いて、あの声に衝撃を受けました。


 CMとかで聴いたことあるかしら?


 『Move Over』 Janis Joplin


https://youtu.be/fIaKHV88ui8?si=_vhP01Wgq7VT0WBa


 ハスキーでパワフル、そして何処か破滅的で切ない気持ちになるあの声、上手いとかそんなんじゃなくてロックだなぁーって思ってましたよ。


 日本のバンド『グリムスパンキー』のレミさんの声聴いた時ジャニスか? なんて思ってビックリしたわ!


https://youtu.be/KStAxfknmOM?si=3ZkLJUmmFonp2yjE

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