第10話 オープニングアクト!


 「ねーねー知ってるー? 最初のバンド、今、結構注目されてるらしいわよ」


 「『charlotte』って言うんだー。近いウチにメジャーデビューだって! どんなバンドか楽しみよね♪」



 多分この会場に俺達目当ての客はほとんど居ないだろう。急遽きゅうきょ出演が決まったみたいだし、周りはメジャーデビューしてるし。


 今の俺の目一杯を見せて、ジャンヌさん達に恥をかかせない様にしないと……。そんな事を考えてたら、あれ? 足がガクガクと震えて来たよ。やべー、緊張するー!


 そこにニコニコしながら未来姉がやって来て俺の手をギュッと握って、


 「今のガチガチな悠真をアイツが見たら、どう思うかなー、ププッ♪」



 ……ぜってーバカにするに決まってる! シンちゃんの小馬鹿にした顔を思い出したらなんかムカついて足の震えがピタッと止まった。



 「さっ、悠真行くよぉー♪」



 暗転したステージにロットのお馴染みのパイプオルガンがSEで流れ出した。


 俺達はセッティングを済ませ、未来姉もいつものルーティンを終えて赤眼鏡を装着した。


 戦闘態勢万端の中、袖からゆっくりと煌びやかなドレス姿のジャンヌさんがやって来てSEが止まる。



 ♪『さあ皆様、舞踏会の始まりよ!』♪




 お決まりの挨拶とともに右手をあげた。


 俺はハイハットをパン、パン、パン、パンと叩いてカウントを入れるとギター、鍵盤、そして未来姉の音が一斉に弾け出す。


 機関銃の様なツーバスに合わせて未来姉も激しく重いリズムを正確に刻み、メロディアスなギターが旋律を奏でる。そして全体をシンセの音が包み込む。


 そこに鮮やかなハイトーンボイスでジャンヌさんが歌い出す。



 「ねぇー、この曲カッコ良くない?」

 「あのお姫さまみたいなボーカル素敵っ!」


 「『charlotte』いいんじゃなーい♪」

 「色モノバンドかと思ったらガチじゃん、演奏ハンパねぇー!!」



 最初はあまり興味を示していなかったオーディエンス達が次々と体を揺らし、拳を上げる。


 一曲目の間奏辺りには皆、既にロットの世界観に取り込まれていた。


 そしてそんな中でも未来姉はニコニコしながら頭を左右に振り、時に『どうだ!』と言わんばかりのドヤ顔を見せ、短いスカートをヒラヒラさせながら華麗なステップを踏んで重厚な音を弾き出していた。

 

 「あの眼鏡のベースの子可愛いー♡」

 「見てるだけで楽しくなるーっ♪」


 未来姉は俺は勿論、アリエルさんやミーシャさんにも目配せをして出方を伺っている。引く時は引いて、前に出る時はアピールをする。

 外から見てると気が付かなかったけど、レベルの高い人達と演奏してる時はこんなに周りを見て気を配ってたんだな。


 無事に一曲目が終わり、ノンストップで二曲目が始まる。一曲目より更に早いテンポの曲でオーディエンスを煽る。アリエルさんがステージ右側、未来姉が左側前方でスピーカーに片足を乗せ、『もっともっとー!』と弦をかき鳴らす。


 セクシーなアリエルさんと、ロリータの未来姉の対比が妙にマッチしている!


 ジャンヌさんはマイクスタンドから杖の様な特注のハンドマイクを抜き取り、華麗なステップを踏み踊りながら低音から高音へと幅広い音域で歌い上げる。本当に舞踏会の様だ!


 あっという間に会場全体を飲み込んだ俺達の音楽は開始直後だと言うのにメインの様な盛り上がりを見せた。


 二曲目が終わり、ジャンヌさんがMCを入れる。


 『皆様、御機嫌よう、charlotteです! 私達わたくしたちこの夏、メジャーデビュー致します! この度『MDC』さんのレーベルメイトになるので今回、急遽お誘い頂きました!』



 「おめでとー!」

 「キャー、ジャンヌ様ーっ♡」


 パチパチ パチパチ👏

 パチパチ パチパチ👏



 『今回はベースとドラムがサポートメンバーなんですけれど、次にお会いする時は完全体の私達をお見せ致しますわ!』



 ワーワー、キャー、キャー!!

 ワー、キャー!! ジャンヌー♪



 そしてラストのお決まりのセリフ



 『♪最後に何か

   言い残した事はあるかしら?♪』



 シンセからパイプオルガンの音が流れ出し、『反逆の果てのレクイエム』が始まった!

 


 会場全体が手を上げ、上下に振り歓声が響き渡る。


 圧巻だ……! 三千人が皆俺達を見て体を揺らしている。叩きながら涙が出そうになった。


 すげぇー! 最高だぁーっ!!


 すると、未来姉が俺の前までピョンピョンと跳ねながらやって来て、顔を覗き込む様にして笑っている。……あぁ、ライブって楽しい! 出来る事ならこのままずっと演奏を続けていたい!



 しかし、ここでトラブル発生!!



 アリエルさんのギターから音が出ない!



 慌ててスタッフが代わりのギターを持って来てPAさんに合図を送っている。その間をなんとか三人で繋ぎ、サビに入る。


 この後は間奏に入りシンセの後にギターソロがあるんだけど、間に合うか?


 すると未来姉はすかさずミーシャさんに目配せをして、親指を自分に向けて、


 (私が繋ぎますっ!)


 と、合図した。そして俺を見て叫んだ!


 『悠真ーっ、私について来てーっ!!』


 本来のギターソロの所で未来姉がステージ中央に飛び出した!



 ♪ドゥドゥドゥドゥドゥドゥドゥドゥー


 ♪ドゥドゥドゥドゥーン♪


 

 ベースラインを弾いてたピックを客席に投げ捨てて高速スラップを始めた!



 ♪ドゥーデレドットゥデーデン、ドゥーデドゥンドゥン、ンデッ、ンデッンデッ♪



 「何だ何だー? スゲーッ!!」

 「ベースのメガネの子可愛いーっ♡」


 

 アリエルさんのギタートラブルが解消するまで十六小節のソロを未来姉がアドリブでカバーした。


 更に凄いのは、こうなる事が分かっていたかの様な振る舞いで、慌てる事無く世界観を崩さずに優雅に踊り、舞うジャンヌさん。そして後ろをしっかり支えるミーシャさん。


 そしてパニックに陥る事無く復帰して、何事も無かった様に未来姉に近づき、背中合わせになりギターソロを弾き始めるアリエルさん。



 俺は、なんて人達と一緒に演奏しているんだろう! 楽しい! あー楽しいっ!!




 ※




 ……夢中で叩いていたら、終わっていた。



 気がつけば舞台裏で、未来姉が抱きついていた。


 「悠真ーっ! 頑張ったねー♪」


 ああ、……終わったんだ。まるで夢を見ている様だった。


 「みっく、悠真くん、最高だったよ!」

 「ごめん! みっく、助かったよ! 悠真くんもナイスフォローありがとう!」


 ミーシャさん、アリエルさんともハグをして喜びを爆発させていたらジャンヌさんが、車椅子を押してやって来た。


 マリアさんだ! 見に来てくれてたんだ!


 「悠真っ! トラブルにも落ち着いて対処出来てたし、初めてのステージにしては上出来だったよ!」


 そう言って笑ったマリアさんを見たら、今まで張り詰めた緊張の糸がプツッと切れて、俺はその場にヘナヘナと座り込んでしまった。


 「うん、うん♪ ありがとう悠真!」


 うわっ! マリアさんが俺の頭を抱きしめてくれた。……かっ、顔がっ! 柔らかい胸に包まれて……っ! とても柔らかくて、いい匂いだ♡


 そしてジャンヌさんが未来姉の頭を撫でて、

 

「お疲れ様。頑張ったね、悠真くん! そして未来ちゃん! トラブル回避してくれてありがとう!」


 「私の方こそ楽しかったです! あっ、それとメジャーデビューおめでとうございます♪」


 そう言って二人はガッチリと握手をした。


 「二人も、バンド始めるんでしょ? ……いつか一緒にやれるといいわね!」



 「はいっ! 私と悠真と、……アイツで、天下取りますっ!」



 ロットメンバーやスタッフの前で宣戦布告をした未来姉に、みんな苦笑いだった。



 


 こうして俺の初ライブは終わり、忘れられない一日になった。


 

 シンちゃんが帰って来るまで、……あと一ヶ月。



 

 つづくー!

 本編はここまでっ♪



 🌸読んで頂きありがとうございました🍒

  コメントの返信は日曜日になります



 🎸ここから先は補足&雑談コーナー🎸


 『Charlotte編』終了です! 悠真も未来も頑張ったねー!


 ライブはトラブルがつきもの、今回はみっくがなんとかしたけど、『ぼざろ』では、ぼっちちゃんは弦が切れてその後ボトルネック奏法とかやってたわよねー! アレはエモい♡

 

 ボトルネックは私、ブルースギタリストの『エルモアジェイムス』のスライドギターコピーした事あるのよ! オープンEだったっけ? 渋いでしょ、えへへっ♪


 https://youtu.be/5jcGY7NbaQw?si=t7Pts9NFV8we2TiJ


 次話はちょっと流行りに乗っかって『追放系&ざまぁ』を書いてみましたよー!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る