突貫ミサイル編

第4話 「はいはーい! 私やりまぁーす♪」


 「えぇーっ! マサオのヤツ腹壊して来られないってよ、どーする? ……今日のライブキャンセルするか?」



 どうやら今日の対バンライブのトリを務めるパンクバンド『突貫とっかんミサイル』のベースが来られないらしい。チケットはソールドアウトだけど、こりゃ払い戻しかな?



 「はいはーい! 私っ、その時間空いてるよー♪」



 ニッコニコで未来姉が駆け寄って来たが、そのパンクバンドのメンバー達は複雑な表情をしていた。


 「ミックが入ってくれれば盛り上がるし助かるけど……な、オイ、……どうする?」


 「チケットも完売してるし、……俺達がメインの対バンライブだから相手にも迷惑かかるしな…………。うーん、それじゃミック、お願い出来るか?」



 「はーい♡ よろこんでー♪」



 まるで居酒屋の店員さんの様な掛け声で、『天使の微笑み』を見せる未来姉に対して、『悪魔の赤眼鏡』の噂を知ってる彼等は青ざめていた。


 「じゃあさー、セトリの曲聞かせてよ! ちゃっちゃと覚えちゃうからさー♪

 よーし、こうなったら対バン相手ぶちのめそー! おーっ♪」


 「ちょっ、ちょっとミック! ケンカじゃないからな! あと、程々に頼むよ……」


 泣きそうなメンバーの声など無視して未来姉はベースを片手にヘッドホンを耳にあてた。



 俺はこの光景を、今年何回見ただろう……。


 (※セトリ……セットリストの略、当日の曲順)


 ※




 軽く数曲リハーサルをしていたけど流石未来姉、ちゃんと覚えてるよ。これにはメンバー達も一安心みたいだ。


 「……なんだ、『悪魔の赤眼鏡』とか言われてたからどんなもんかと思ってだけど全然大丈夫そうだな! 逆にこれなら盛り上がるだろうし。ヨシッ、今日は気合い入れていくぞー!」


 「「おーっ!!」」


 未来姉もリハーサルの時位に抑えてやればいいのになぁ、人前に立つとすぐ興奮するんだから……。




 ※




 今日は三バンドでの対バンライブ、未来姉がヘルプで入るバンドは集客力もあるし結構人気あるんだよねー。ウチの店、キャパ三百ちょっとなんだけどアマチュアなのに割と早い内にソールドアウトしたもんな……。


 高校一年になって俺も店の手伝いをする様になった。俺は未来姉と違ってライブハウスを担当。とは言っても店内の掃除、チケットのもぎりやカウンターで飲み物作ったりする位なんだけどね。


 空いた時間はココでドラム叩けるし、一石二鳥だよ!


 今日は日曜日、十六時スタートで一バンド持ち時間は約四十〜六十分。順調にいけば二十時前には終わる、……ハズ。


 十五時にオープンして、次々と客が入ってくる。ワンドリンク制だからこれから俺は大忙しだ。未来姉も暇みたいで『へい、まいどー!』とか言ってニコニコしながら手際良くドリンクを出すのを手伝ってくれている。……てか、緊張とかしないのか? この人は。


 流石はパンクバンドの対バンライブだけあって気合いの入った人達が前例に集まってる。タトゥーの入った強面の兄さんや、髪を赤や青、金色に染めた姉さん達がウヨウヨ。


 まぁここ最近は普通のカッコした若い子達も多いんだけどね。←オマエも若いだろ


 

 


 ※




 照明が落ち、爆音でSEが流れて店内は興奮状態だ。最初のバンドがステージに上がると客席から歓声や怒号が襲いかかる。


 最初のバンドのセッティングが終わり、SEが止むとドラムがスティックを叩く音でカウントを取る。そしてボーカルが叫び声と共に飛び跳ね、ギター、ベースがかき鳴らされる。


 それに合わせて前列の客が頭を上下に振り拳を突き上げる


 ウチの店はダイブは禁止している。まぁ暗黙の了解かも知れないけど、事故になったらこっちが迷惑するし、何より見に来てくれた人が怪我をするのは良くない。


 その辺はキツく言ってるから、たとえハードコアなバンドでも、やっても軽いモッシュ位にして欲しい。


 とは言え演奏が始まれば飛んだり跳ねたり、ぶつかり合ってみんな血の気の多いこと!


 俺はカウンター越しから混沌としたステージを冷静に眺めて勉強、勉強っ!



(※ダイブ……文字通り観客の上にダイブして、下の観客は上の人を大玉送りみたいに運ぶヤツ)


(※モッシュ……観客同士がぶつかり合い、おしくらまんじゅうみたいになるヤツ、サークルモッシュは観客が円を描いて走り回るヤツ←海外のフェスとかで見るよね、後、ベビメタちゃんのライブでも見たなー)


 ※




 ……やっぱり見てるだけってつまんないなぁ、俺はおもむろにスティックを取り出してリズムを刻む。


 最初のバンドは勢いはあるけど、演奏はイマイチだったな、ボーカルはイカつい見た目の割には声量無いし、ドラムが走っちゃうんだよねー、まぁライブだからしょうがないか。


 二番目に出て来たバンドの方が俺は好きだなー、ちょっとポップな感じだし、客もさっきよりノリが良いし、ボーカルがイケメンで声もいいから女の子達が前列を陣取ってキャーキャー言ってるよ。……でも、こっちはベースが下手過ぎだ。カッコばっか気にしてドラムの音聞いちゃいない。まぁモテたいからバンドやってる風だよねー。



 ※



 そしてトリは未来姉達のバンド、何やらザワザワしてるけど……、そっか、ファンの人達はベースが不在なの知らなかったんだよな……。


 ステージ中央には真っ赤な髪を逆立て、耳にじゃらじゃらピアスをつけて、鋲付き革ジャン、Tシャツにボロボロのジーンズをはいたボーカル。ステージ右手のギターの人は金髪で耳たぶと口がチェーンでつながって痛そう……。更に上半身裸で両腕にタトゥーが入っていて革パン姿。そしてドラムも某ハードコアバンドのTシャツに青モヒカン頭。げっ!……首に蛇のタトゥー入ってるよ!



 兄さん達、気合い充分だね……。



 ……そんな中、ステージ左手では、🐻クマさんのプリントチビTでデニムのショートパンツに生足、ローカットブーツの未来姉がニッコニコでボーカルに話しかけている。


 「うわーっ、髪の毛凄いねー! ハリネズミみたいだよー♪」


 「おい、やめろよミック! 触るんじゃねーよっ!」


 

 ……カオスだ。立ち尽くす満員の客の頭に『?』が浮かんでいる。うん、いつもの光景だ(笑)



 みんな見てろよ! 度肝を抜くぜ! ウチのねーちゃん凄いんだから!!





 つづくー!

 本編はここまでっ♪



 🌸読んで頂きありがとうございました🍒

  コメントの返信は日曜日になります



 🎸ここから先は補足&雑談コーナー🎸


 ほい、3話までは登場人物の説明回で、実質私が最初に書いたのはここからでした(笑)


 ここまで辿り着いた皆様、本当にありがとうございました♪ モノローグで離脱されたらたまったもんじゃないっ!


 シンちゃんが戻って来るまでのみっくと悠真の活躍を書いてます。やっぱり演奏を文字だけで表現するのは難しいなー、あんまりバンド物書いてる人が居ないのはそーゆー事なのかしら? それともニーズがない?(汗)

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