第5話 devil's red glasses〜悪魔の赤眼鏡〜


 強面兄さん達のセッティングが済み、未来姉は重たそうに担いでいたベースを低く構えてポーズをとった。

 ちっちゃい女の子が大きいベースを持ってると本当可愛いよね。ぴょんぴょんと二、三回その場でジャンプして、その後頭を左右に振り出した。



 ……イカつい兄さん達の真横で可愛らしい未来姉のルーティンが続けられている。



 そしてアンプの上に置いてあった赤いメガネをそっとかけた瞬間…………全身からパッとピンク色の光が見えた……気がした。



 青モヒカンドラムさんに、ウインクして準備オッケーを伝えると、『カン・カン・カン・カン』とスティックがカウントを取った。



 『GOーーーーっっ!!!』



 赤髪を逆立てたボーカル兄さんが絶叫したのを合図にドラム、ギターの音が爆音で流れ出した!


 ……だけど観客は皆、それよりも大きい音でステージ左手で姿勢を低くベースを構えてネックを客席に向け、観客を挑発しながらもニッコニコでツブの揃った、そして重厚な高速ダウンピッキングをする少女に目を奪われていた。



 「まるでマシンガンみたいだ……」



 そう言って俺の向かい側でカウンターに座って見ていた客は、ふらふらと吸い込まれる様にステージに走っていった。


 歌が始まり、イカつい三人さんは気合い充分の演奏をしている。うん、さっき迄のバンドとは格が違うね! ドラムもギターを気持ち良さそうに激しい音を奏でている。



 ……だけど観客は皆、ステージ左手に釘付けになっていた。



 さっきまでの低い姿勢から一転、軽くステップを踏みながらドラムに合わせてリズムキープをする姿は、そこだけお花畑で蜜を求めて飛び回っている蝶の様だった。


 サビに入って観客が拳を挙げて飛び跳ねると、未来姉も一緒に飛び跳ね、満開の笑顔で客席に向かってウインクをした。


 これには女の子達がキャーキャー、イカついにーさん達もデレデレ、優しい世界だ。



 …………コレ、パンクバンドだよね? みんな、ちょっと位ボーカル見てやってくれよ。



 間奏に入り金髪ギター兄さんがステージ中央に立って、見事な指さばきで渾身のギターソロを弾きまくる!


 赤髪逆立てボーカル兄さんはステージ右手に移動し、ヘッドバンキングを始めた。



 『みんなー、俺を見ろーっ!!』



 と、言わんばかりの気合いの入ったカッコいいギターソロだったんだけど……、客席のみんなの目線は客席に背中を向け、可愛いお尻をプリプリと振りながら、青モヒカンドラム兄さんと向かい合わせで会話する様に高速でリズムを刻む未来姉に視線が集中していた。


 ギターソロが終わり、今度は中央でマイクスタンドに寄りかかる様にして魂を叫び続ける赤髪逆立てボーカル兄さんの側で、未来姉は寄り添う様にをしながら腰を落として弾きまくる。


 未来姉それさー、逆効果だよね⤵︎ 赤髪逆立てボーカル兄さんの見せ場なのに客は笑ってるよ。



 ……もう、世界観台無しだよね。



 だけど、未来姉の可愛い見た目に騙されちゃいがちだけど、他のパートのメンバーの事をよく見て気持ち良く演奏させてるんだよね、知らず知らずのうちに未来姉が支配してるんだよ。毎回、毎回、どんなジャンルのバンドでも!


 ただ、相乗効果で他のメンバーがどんなに良い演奏をしても、観客はみんな未来姉に釘付けになるから今までのバンドは皆、心折れちゃうんだ。


 …………シンちゃん、未来姉はとんでもない化け物になってるよ! 大丈夫?




 ※




 一曲目が終わり、赤髪逆立てボーカル兄さんがMCを入れる。


 「OK! Thank you!! 

 『突貫ミサイル』ですっ! 今日はベースのマサオが体調崩して急遽、ここのライブハウスの店員さんにサポートしてもらったんだ! 

 紹介するぜ! ON BASS Mick!!」


 ♪ドゥーデッドゥデッデンンデンデデレッデンドゥディドゥデドゥデンデッドゥデドゥー♪


 ニッコニコの笑顔を見せながら、ゴリゴリの高速スラップ奏法をかましお辞儀をしてマイクスタンドに向かい、


 「みっくだよー! みんなーよろしくー♪」


 女の子達の黄色い歓声と『ウオーッ』と野太い声が混ざり合った。


 そして、


 「今日はマサオさんの為にも気合い入れていくぜっ、とむらい合戦だーっ! みんな死ぬ気でかかってこいよーっ!」



 …………死んで無いし。

 


 言ってる事は勇ましいが、赤髪逆立てボーカル兄さん苦笑いだよ(しろめ)



 その後も散々笑顔を振り撒いてピョンピョン跳ねたり回転したり、華麗なステップ、そして超絶テクを繰り出し(途中からほとんどアドリブ)このステージはもう未来姉の独壇場だった。まぁいつもの事だけど、それでも今回の兄さん達は頑張ってたと思うよ。


 


 ※




 「お疲れーっ、すっごい楽しかったよー♪」



 ライブが終わり楽屋に戻って、メンバーの一人一人とハグをして、笑顔を爆発させた。


 青モヒカンドラムさんが、「こんなに叩き易かったの初めてだぜ! 俺もすっげー楽しかったよ!」そう言ってサムズアップした。


 赤髪逆立てボーカル兄さん、金髪ギターさんもウンウンと頷いてビールをグビグビ飲んでいた。


 こりゃマサオさん(ベースの人)この後やり辛いだろうなー。



 ……と、思ったら赤髪逆立てボーカル兄さんが、



 「でも、正直凹むよな、何やったってみんなミックしか見てないんだからさー、やっぱり俺達にはマサオが合ってるんだろうな、ふっ」


 「そんな事言わないでさぁー、また何かあったら誘ってねー♪」


 赤い眼鏡を外した悪魔(未来姉)は、タオルで汗を拭きながら笑った。


 そうだよね、俺も未来姉に飲み込まれない位のドラムを叩ける様にしないとなー。

 そしてシンちゃんと三人で、この店で最高のライブをするんだ!



 

 シンちゃんが帰って来るまで、……あと二ヶ月。

 


 つづくー!

 本編はここまでっ♪



 🌸読んで頂きありがとうございました🍒

  コメントの返信は日曜日になります



 🎸ここから先は補足&雑談コーナー🎸


 パンクって怖いイメージだったので今回はみっくの可愛さとの対比を書くにはちょうどいいかなって思いまして……。


 汚くならない程度のパンクファッションはカッコ可愛いですねー、さて肝心の音楽はグリーン・デイ位しか聴いてこなかったわ。


 日本ならブルーハーツやその後のヒロトさんのバンドはパンクでいいのかしら?


 正直コピーすると簡単だと思うけど、パンクは技術じゃないわ、気合いが無いとねっ!

 


 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る