第六話:お兄ちゃんと女の子の特訓///////


 私はダメ兄に女の子がどう言うモノか教え込むために特訓を始めた。



「なあ琴吹ことぶき、これって本当なのか?」


「黙って読む。意外かもしれないけど女の子はこう言った恋愛を望んでいるのよ?」


 そう言ってお兄ちゃんに恋愛少女漫画を読ませる。


 世にいる女の子はまず、小さい頃に漫画やアニメのキラキラした主人公に憧れる。

 そしてそこから始まるラブロマンス。

 それが幼いころからDNAレベルで刻み込まれ、年齢と共に小説や雑誌の知識を加え恋愛感情と言うモノを成型してゆく。


 勿論もちろん、人によっては違うかもしれないけど、大体は学校の誰々ちゃんがねぇ~ってな感じで女の子同士である種の連帯感を持ち、そのうち誰が好きとか言うのになって行く。

 その過程で女の子は恋愛する相手ならこう言うのが良いとか、こうなって欲しいという願望が出来る。


 まずはその生態女の子を理解すべきだ。



「でも、俺が勉強したモノの本とは全く違うぞ? これ本当なのか??」


「必ずその漫画が正しいとは言わないけど、参考にはなるよ。女の子はこう言ったラブロマンスが好きだし、アタックしてもらえる相手にはこんな風にしてもらいたいって思うモノよ」


 色々なパターンがあるけど、お兄ちゃんに渡した少女漫画は、主人公が最初なんとも思っていなかった何人もの男の子からアタックを掛けられて、徐々にみんなにドキリとさせられながら男の子たちを好きになって行くストーリー。

 まあ、私たち女の子の願望が駄々洩だだもれな逆ハーレムと言われているけど、イケメンたちに言い寄られ自分を求めて争われるっていうのは大道のラブロマンス!


 これにが嫌いな女子はいない!!



「しかし、この主人公の女の子は何もさせてくれないじゃないか? キスすらさせてくれないとか」


「馬鹿ねぇ~、キスって本当に特別なものよ? 雰囲気があってそして好きな男性から優しく、そしてロマンチックに攻められるようじゃなきゃダメに決まっているじゃない?」


 やはり朴念仁ぼくねんじんのお兄ちゃんはこの絶妙な感覚が分からないのかも。

 しかしそこにロマンスがある!


 いきなり迫られて顔が近くそして甘い言葉を掛けられながら押し倒されちゃったら、キスしても良いかもって気になちゃうものなのよ!


 そう、こんな感じで!!



「あれっ?」


琴吹ことぶき、前からお前の事が好きだった」



 お兄ちゃんはいつの間にか私の目の前にいて、顔と顔がくっつきそうなほど近かった。



「ちょ、お、お兄ちゃん」


「好きだ、お前が欲しい!」


「いや、ちょっとまって」



 お兄ちゃんはいつの間にか私の腰に手を回し、肩を掴み強引にベッドに押し倒す。



「だめ、ちょっと、いやっ!」


「好きなんだ!」



 どきっ!



 真剣に私の目を見るお兄ちゃん。

 じっと私を見つめる。


 いや、ちょっと嘘でしょお兄ちゃん?



「奇麗だよ、琴吹」


「ぁ、そ、その……」



 どきどきどきどきっ



 真剣なまなざしのお兄ちゃんにそんな事ささやかれて心臓が勝手に高鳴る。

 顔も熱くなってきてしまうけど、昔から私好みのイケメンなお兄ちゃんの顔が目の前にある。


 何時の頃だろう、お兄ちゃんの顔をここまで真剣に見なくなったのは?


 こうしてみるとやっぱり私好みのイケメン。

 そんなお兄ちゃんに押し倒され、好きだとか奇麗だとか言われちゃったら……



「……//////」



 お兄ちゃんの顔が更に近づいてくる。

 だめ、私たち兄妹なんだよ?

 それに私、ファーストキスなんだよ??


 近づくお兄ちゃんの顔。

 恥ずかしくてドキドキが止まらなくて、思わず目を閉じてしまう。



 キスくらいなら……








 ―― 五分経過 ――








「お兄ちゃん……」


「ん? なんだ琴吹ことぶき??」



 その後ずっと待っていたのに何も起こらない。

 お兄ちゃんは私から離れてまた漫画を読んでいた。

 一人ドキドキしながら何時キスされるか、もしかしてそれ以上の事されちゃうのかといろいろ頭を考えがめぐっていたのに!!



「今の何よ!? 一体何ぃッ!!!?」


「あー、この漫画の通りにして見た。名前は琴吹ことぶきにしたがさっきみたいな感じで良いのか?」










「ぉお、お兄ちゃんの…… ばぁかぁぁああああぁぁぁぁっッ!!!!」













 ばばばばばば、ばきっ!!!!



 私は思わず流星のような拳を放ちお兄ちゃんを血祭りにあげる! 


「ぐはっ!!」


 お兄ちゃんは部屋の壁に蜘蛛の巣のようなひびをつけてめり込む。


「な、なんで……?」



「もうお兄ちゃんなんか知らない!!」




 私はそう言ってツンとお兄ちゃんから顔を背けるのだった。 


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