第44話 村崎との再会
みんな覚えてるか、天然パーマの村崎を。高校の時のクラスメイトでオレを演劇の世界に引きずり込んだ張本人だ。風貌は少し太っていたものの当時とそんなに遜色ない、トレードマークの天然パーマも健在だった。
「た・て・な・が~~!」
まるで戦場で再会した雑兵のようにオレらはえっさほいさと踊る。町中でなにやってんだよ、とつっこむやつもいなかった。向かい合って手を取り合うと久しぶりの再会を喜んだ。
「マジ久しいな! 元気だったか~」
「おうもう、相変わらずよ。って……お前」
村崎はオレのモスグリーンのダウンの内側の白いロンTを見て顔をしかめた。きっと痩身が透けて見えたのだろう。胸板に触れると心配そうな顔をした。
「ガリッガリじゃねえか」
「まあな、理由あんだよ」
声を少し落とすとさらに心配そうにした。こっちも別に弾む理由じゃねえからな。とにもかくにも数年の時間を忘れて気の合ったオレたちは近くのレトロ喫茶へと雪崩れこんだ。
午後三時、普通なら人で混雑する時間だろうが幸いにも客は少なかった。大きな観葉植物と天井で回るファン。色付きのガラスと年代物のドリップマシーン。レトロといえば聞こえがいいがどっちかといえば古めかしい。レトロブームの昨今ならきっと流行るのだろうが、当時はよくある喫茶店だった。二人でブラックコーヒーを注文するとさっそく思い出話が始まった。
「渋かったよな、武井部長の……」
「「笑うんじゃねえぇ」」
二人で声を合わせると笑いが二倍になった。
「オレあの人すごいと思うわ。サイレントだけって発想がただ物じゃねえよな。あれチャップリン観てて思いついたって話してたぜ」
「ああ、マジ面白かったわ」
「そうそう、オレハマりすぎて大学入ってサイレント部作ったんだぜ」
「うわあ、入りたかったかも」
で、村崎から大学で四年間サイレント部を続けてあちこちで公演していたこと、割と評判が良く地元ではファンもついて盛況していたことを聞いた。きっと最高に楽しかったんだな、それは満面の笑みからも読み解けた。
「今はさ、その縁っていったらなんだけど仕事しながら社会人の演劇続けてるぜ」
そうか、だから舞台を観に来てたのか。続けてんだな、元気でよかった、安心したわ、わずかの間にそんなことを思った。
「立長、お前は? どうしたんだよ、そんなに痩せて。頬だってガリガリじゃねえか」
「ああ、コレ?」
オレはははっと笑って大学の演劇部の縁で劇団に所属したこと、なのにすぐにクビになってしまった事実を在りのままに伝えた。村崎はそれを懸命に聞いてくれていた。
「ふうん。なんかすごいところなんだな。メトロポリタンって有名だろ。超いいようなところに所属できたのにクビって。初舞台も踏んでないのにさ」
「なあ、意味分かんねえよな。でさ、オレも諦めつかねえから体作り込んでって、実際は食えねえってのもあるけどさ。もう一回オーディションからやってやろうとしてんだよ。先生がそんな風にいうんならさ。これでも要らねえのかよ! って突きつけて」
「すごいなあ、やることやってんじゃん!」
「まあ、実際死体役をやろうとしてたらふっくらしてたらダメなんだよ。もっと狡猾に生きてかなくちゃってな。で、ひもじくエキストラやってんの」
「エキストラとかオレも一回やったことあるけどさ、なんか玄人面するやついて辞めたわ。時間食って面倒っちかったしな」
「儲けは少ないんだけどさ、そうじゃないんだよ。日々違う役になりきってさ、演じることに意義を感じているというか。どうせモブ目指してるんならさ、モブも腐るほど経験しておいても損にはならねえだろうって」
「違いない」
そう頷いて村崎はコーヒーについてきたビスケットをぼそぼそ噛んだ。馬鹿にしねえ、マジこいつ演劇好きなんだなと思った。
「そうだ、あのさ。経験は宝っていったらなんだけど、オレの社会人の劇団に時々募集がくるんだよ。先週きてたやつだけどさ、お前死にたいんならこういうの受けといた方がいいと思うんだ」
そういって斜めがけバッグをごそごそとあさって一枚の紙を取り出した。渡された紙を見てオレは口をぽっかり開けた。
「…………ファイヤーアクション」
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