第45話

「うむ。君はお茶を出すのがうまいな。配下に引き入れたいぐらいだよ」


「私の前でヒイロを勧誘するなんて死にたいのかしら?」


ラキア姉さんは笑っているが目が本気だ。


「ごっほん。それでご用件は?」


「あぁ。少し待ってくれ」


しばらく待っていると何やら騒がしい声が聞こえる。


「ちょっと待って、何なの?何なのよ?体が言うこと聞かないんだけどぉぉぉ」


そう言って現れたのはラミアだ。


「うむ。間違いなく私の血脈に連なる者のようだな」


吸血鬼はピラミッド構造の支配権を保有している。


ヴラド公爵はその支配権を利用してラミアを呼び出したらしい。


「貴方の眷属がダンジョン内に入り込んだ。困ったことになったわね」


ヴラド公爵は吸血鬼でもかなりの力を持った存在だ。


末端とはいえ、その血族が協定を破ったのは大問題なのだろう。


「君の親は何をしていたのか」


そう言ってラミアに話しかけるヴラド公爵は鋭い視線を向けている。


「親なんていないわ。気付いた時には一人だったもの」


どうやらラミアは生粋のはぐれ吸血鬼だったようだ。


詳しく話を聞くと元々孤児で気付いた時には路地裏を彷徨っていたストリートチルドレンだったという。


そして、寝込みを襲われ気付いたら吸血鬼になっていた。


最初は同じような境遇の孤児や浮浪者の血を吸っていたが加減など知る由もなかったラミアは下級吸血鬼を量産してしまう。


事態を重くみた教会からエクソシストが派遣され命からがら逃げだした。


騎士爵の吸血鬼というのはその時に討伐にやってきたエクソシストが言っていたことから名乗っていたそうだ。


それからは少しずつ自分の力を分析し分体を生み出せるようになり現在に至る。


「確かに君は騎士爵の底辺の力は持っているのだろう。しかし、吸血鬼としては未熟者だ」


ラミアの話を聞いて同情的な感情を覚えたのだろう。


怒気こそ含んでいないがヴラド公爵はそう言い切る。


「私にも責任があるのだろうがルール違反を見逃すわけにはいかないな」


ダンジョン族と吸血鬼の間で交わされた不干渉のルールに違反している現状、吸血鬼のまとめ役であるヴラド公爵としても見逃せないのだろう。


本来であればラミアは消されて終わりになっていても不思議ではないのだ。


「ヴラド公爵。ルール違反と知りながら迎え入れた僕にも責任があります。どうか寛大な処置を」


「ヒイロ。貴方って本当に甘いわね。その甘さは嫌いではないけれど命取りになることもあるってことを覚えておきなさい」


ラキア姉さんは笑っている。


こういう時のラキア姉さんは何かを企んでいる証拠だった。

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