第37話

久しぶりに近くの村へと顔を出した。


出迎えてくれる村人達の顔は明るい。


食料は十分にあるし家畜や農作物も順調に育っているからだ。


「お兄ちゃん。お兄ちゃん」


ヒイロを見つけた少女、改めシャルが声をかけてくる。


「色々ありがとね」


望まぬ形ではあったが代官となったからには責任がある。


それにこれは無償の奉仕ではなく将来への投資だ。


ヒイロは村長に頼み若者を集めてもらう。


「さて、貴方方に集まってもらったのには訳があります。この近くにダンジョンが出来たのはご存じでしょうか?」


「知ってるだ。街に行ったときに噂になってただ」


「皆さんにはそこに出稼ぎに行ってもらおうと思います」


「ダンジョンって危険なところだべ。オラたちには無理だ」


「いきなりダンジョンに突っ込ませるようなことはしませんよ」


そういってにっこりとしながらアイテムボックスから作っておいた槍を出す。


残念ながら普通のちょっと性能のいい槍である。


人間にほいほい性能のいい武器を与えるつもりはない。


「槍は初心者にも扱いやすい武器です。基本動作を覚えれば普段の狩りでも役に立ちますよ」


人は剣を学びたがるものであるが剣というのは実は難しい。


兵士達が槍を持っているのはそちらの方が即戦力として期待できるからだ。


「まずは僕がお手本をみせますね」


そういって1本槍を持ち突いて戻す動作をしてみせる。


「これだけです。ほら、簡単だったでしょ」


「オラ達、頑張るだ」


そういって一人、また一人と槍に手を伸ばす。


その後はひたすら突いて戻すを繰り返させる。


細かい注意点もあるが彼等は武器を持ったのははじめてだ。


難しいことをいっても頭がパンクしてしまうだろう。


まずは槍に慣れさせること。


それだけを考えて指導する。


訓練は昼御飯を食べてからも続けられた。


彼等は普段から森で採取をしたりと体力は十分ある。


しかし、慣れない動作というのは疲労が溜まるものだ。


夕方になる頃には全員へばっていた。


「皆さん、お疲れさまでした。僕がいないからって訓練をさぼらないようにしてくださいね」


それだけ言ってヒイロはダンジョンへと帰還した。


ダンジョンに帰ってきたヒイロは魔物の状況を確認する。


嬉しい誤算があった。


スライムとゴブリンの中に進化した個体が現れたのだ。


スライムはポイズンスライムに。


ゴブリンはホブゴブリンへと進化を遂げていた。


進化した個体にはそれぞれ個別に指示を出し隔離しておく。


ダンジョンに投入するのは数がある程度揃ってからである。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る