第17話

ヒイロは予定通り昼頃に村の近くに行きリアカーをアイテムボックスから取り出し堆肥を満載した状態で村に向かった。


前回は少女が一緒だったので素通りできたが今の自分は部外者である。


村の入り口でぼーっと立っている中年の男性から何ようか問いかけられる。


「流れの錬金術師でして村長殿に是非、取り次いでいただきたい」


ちなみにダンジョン族は人間の社会での身分証明書としていくつかの公的機関に強いパイプを持っている。


錬金術師組合もその一つでダンジョン族の中にはダンジョン産の珍しい素材を提供したりしている。


ヒイロが持っている免状は1級免状であり、これ以上となると特に功績が認められた者に与えられる特級免状ぐらいである。


ヒイロの実力的には特級免状を取得するのも可能であったが目立ちすぎるという理由で手を出していない。


「わかっただ。少し待っててくれの」


そういって門番の男性は先ほどのやる気の無さなど感じさせぬスピードで村の中へ走っていった。


ヒイロとしては頭を抱えたい。


危険は少ないとはいえ今、何か起これば村が危険である。


伝言を頼むとか色々方法はあるだろうに・・・。




しばらく待っていると腰の曲がった老人を連れて門番の男性は戻ってきた。


額には大粒の汗を浮かべている。


腰の曲がった老人も無理矢理せかされたのか息も絶え絶えだ。


思わず腰の水筒を差し出していた。


「お若いの、すまんな」


そういって水筒を受けとった老人は水筒の水を飲み何とか会話が出来そうである。


「私は修行中の錬金術師でヒイロと申します」


「わしゃ、この村で村長をやっておる」


「昨日、この村にきて農地の様子をみさせていただいたのですが土地が疲れ切っておりこのままではまずいと思いまして」


「お若いの、良い目をしておるの。確かにこの村の農地は限界じゃ。しかし、他にどうすることもできんでの」


村は困窮している。


森の恵みを採取することでぎりぎり持ちこたえているのだろう。


「私の作りだした堆肥を使ってはみませんか?」


「そうは言うがの、支払う金がないのじゃ」


「いえ、お代は結構です。その代わりデータを取らせていただきたい」


「データとな?」


「はい。私、一人では実験をするにも限度があります。大規模な農地に売り出す前に検証し改善点などを洗いだしたいのです」


「ふむ。悪い話ではないの。全ての畑で試すわけにはいかんが一部ならよかろう」


「ありがとうございます」


こうして交渉は無事に終了した。

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