五分魂
吾音
第1話
午前零時、自室の部屋のドアをノックする音が聞こえる。
トントントン――自分以外誰もいない家、こんな時間にノックをする者は、誰もいない。
とうとう私の所にも来たか、男が苦渋とも諦観とも取れない表情でノックされたドアを見つめていると、男の返事を待つことなくドアが開かれた。
「おっじゃましまーす、魂をいただきにまいりましたー」
場違いな明るい声で入ってきた二人組、それぞれ頭から一人は白い布、もう一人は黒い布を被っており、人相はおろか大きさも良く分からない。あるいは男の緊張感が二人の像を暈しているのか。
「うんうん、良いですね。赤魂さん。大人しくしてくれている人は大歓迎です。わりと逃げ回ったり暴れたりする人も多いのです」
白い布が雑談のような明るい調子で声を上げているが、男にとっては雑音の様に耳障りに聞こえる声だった。
「わたしを、殺すのかね」
男が絞り出すように尋ねた。それは質問というよりむしろ――
「そうですよー。すぐ終わりますので、そのまま大人しく待っていてくださいねー」
白い布が軽い調子で答える。やはり男にとっては耳障りだ。
「繋がったぞ」
黒い布の方が何かを白い布に差しだすと、白い布がどうもどうもと頭を下げながら受け取った。
「赤魂さん、お待たせしました。青魂さんと繋がったので質問や恨み言はそちらにお願いしますねー」
「青魂? 何者かね?」
「おやおや、最近は説明せずともご存じの方が多かったので省略したのですが、青魂さんはあなたを赤魂にした方です。あ、赤魂というのはわたしたちに魂をいただかれる方ですね」
耳鳴りのような声に耐え、男は自分が死ぬ原因が青魂と呼ばれるものにあることを辛うじて理解した。
「良いですか? ではどうぞー」
白い布がこちらに手をかざすと、見知らぬ男がうずくまっている様子が画面に映った。場所は分からないが、こちらと同じように白黒の二人組がいる。
「君が、青魂かね」
男が絞り出すように確認すると、画面の向こうにいる男は小さく首肯した。
「なぜ、わたしを殺そうと?」
男はただ、興味があった。なぜ見ず知らずの人間が自分を殺そうとするのか。知らぬ間に大きな怒りを買っていたのか。
「あなたが、えらいひとだから……」
画面の中にいる男が声を絞り出した。
「はーい、おしまいでーす」
白い布が声を上げた瞬間、男の感覚が失われた。
「ああ……」
頭を抱えた男は、目の前で行われた行為を理解し、恐怖した。すると画面の中にいたはずの白黒二人組が、画面の中から飛び出し、こちらの二人組と重なった。白い布が先ほどの行為で得た赤魂をこちらに見せつけている。
「さ、しっかり確認できましたね? ではあなたの番ですよ青魂さん」
「お、おれは……こんな……」
「怯える必要はありませんよ、青魂さん。ただ、死ぬだけです。人間の魂は等価です。誰かの
男の感覚は失われた。頭を抱えて静止した姿は、まるで朝を待つ迷子の様だった。
『お望みの
数カ月前突然ネット上に現れたポップアップ。それはSNS、動画サイト、検索エンジン、どこ構わず表示され、その存在は瞬く間に全世界に知れ渡る事となった。
実際アクセスした者曰く、理由を任意で記載する欄があるだけで、標的を思い浮かべながら確定ボタンを押せ、としか書いていないページが表示されるだけらしい。怪しかったのでそのまま何もせずにページを閉じたとのことだった。
当初は世界的規模の悪戯と思われたが、翌日全世界で不審死が相次ぎ、ただの悪戯では無い事を思い知らせることとなった。
五分魂 吾音 @Naruvier
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