第2話「心臓が揺れる(2)【ウミ視点】」
「ソラ!」
マンションの管理人に事情を説明して鍵を借りなきゃいけないところとか、変なところが現実っぽくて嫌になる。
「ん……」
「ソラ!」
ソラが住んでいるマンションの造りが、自分の住んでいる部屋とそっくりなことに驚いた。自分とソラは、間違いなく同じご主人の元で育てられたのだと自覚する。
「ウミ、くん……?」
「ソラ、しっかり!」
寝ぼけまなこのソラだったけれど、ゆっくりと瞼が上がって、ぱっちりとした瞳で俺を視界に入れてくれる。
俺はソラに無視されて当然のことをしてきたのに、ソラは俺のことを受け入れてくれて、その現実に目頭が熱くなる。
「……学校!」
「どこか具合が悪いなら、病院って場所があるから……」
「学校に行かないと」
「ソラ」
慌てるソラをなだめるために、彼女を自分の腕の中に閉じ込める。
抱き締めることでしか愛情表現ができない自分に笑いが零れそうにもなるけれど、これしかソラに自分を知ってもらう術を知らない。
「大丈夫?」
「え……」
今度は、ソラを壊してしまわないように。
今度こそは、ソラの心を守るように。
ソラを優しく抱き締める。
「身体、苦しいとか、痛いとか、辛いとか」
「ないよ……?」
「本当?」
「本当」
ソラの言葉と、ソラの声を信じて、ソラを自分の腕の中から解放する。
ソラは元々白猫ってことが影響しているのか、ほかのひとよりも肌が白いような気がする。
「顔色が悪いような気もするけど……」
「あ……昨日のお昼から、何も食べていなくて……」
猫のときから食が細いような気がしていたけれど、人の身体を得てからのソラはだいぶ食べるようになった。にこにこと笑顔を浮かべながら食事を摂る姿が可愛らしくて、あ、ソラが喜んでくれることができているんだなって嬉しくなった。
「今、何か作るから」
それなのに、ソラはほぼ1日何も食べていない。
ソラの体が弱まってしまわないように、俺はソラのためにできることをやろうと思った。
「あのね、ウミく……」
「もう泣かなくても大丈夫だから」
泣き疲れてしまったのか、ソラの顔には涙の跡があった。
猫の頃も、人の身体を得たあとも、結局自分はソラを泣かせることしかできない。
自惚れやの自分から卒業しなければいけないって気づいたのに、やっぱり俺はダメな犬でしかないのかもしれない。
「ウミくん!」
キッチンに向かおうとすると、ソラに腕を引かれてバランスを崩す。
「一緒に食べたい! 一緒にご飯、作りたい!」
ソラに膝枕するような態勢が恥ずかしくて、せっかく向けてくれたソラの瞳から逃げてしまった。でも、ソラは……。
「ちゃんと、食べられるようになりたい」
逃げる俺を、しっかりと追いかけてきてくれた。
「みんなみたいに、丈夫な体になりたい」
俺の瞳にソラが映るように、ソラの瞳に俺が映るように。
「しっかり食べられるように、見守ってください」
ソラが、俺の顔を覗き込んでくる。
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