第5話「ずっと心臓が痛かった(5)【ソラ視点】」

「結論から言って、人間に生まれ変わることはできる」


 ここは、前世で人間を幸せにした動物たちが集う場所。

 飼い主でなくても構わない。

 誰か1人でいいから、人間に幸せな気持ちを与えることができた動物たちが集う場所。


「でも、再び巡り合えるかどうかは2人次第」


 そして、次の人生は動物としていきたいか。人として生きたいか。

 人間の生活を体験しながら、次の人生を選択できる場所。


「でも、進学とか就職とか……」

「もちろんウミの言う通り、人間の可能性は無限だ」

「進学や就職をきっかけにソラと会うことができれば、十数年くらい……」

が辛いと思う」


 私たちの担任の先生は困った表情を浮かべているけれど、親身になって話を聞いてくれた。


「もちろん、猫と犬だったときの記憶は引き継がれない」


 頼もしい担任の先生に巡り合えたことに心強さを感じるけれど、突きつけられる現実はとても厳しい。


「記憶がないなら、辛いって感情自体生まれないって思うかもしれないけど」


 稀に前世の記憶を持って産まれてくる人間もいるみたいだけど、それは担任の先生たちですら仕組みが分からないらしい。


「身体のどこかしらは訴えかけてくる」


 その、仕組みが分からないところが悔しい。


「あ、今の人生には何かが足りないんだって」


 でも、誰にでも前世の記憶を引き継ぐチャンスがあるのかなって希望を持つこともできた。


「…………先生」

「ソラ?」

「成仏は少し待って、今を……ウミくんと一緒にいられる時間を大切にしてもいいですか?」


 希望を持つと、不安が生まれるってことを知った。


「何十年も居座られたら問題だけど、ここの時間軸で数年くらいなら」


 でも、この不安が希望に繋がるんじゃないかって予感も止まらない。

 人間の心は、猫のときと少し違う。

 人間も猫も心を持っていたけど、猫のとき以上に私は自分の心が広がっていくのを感じる。


「ゆっくりしていきな」


 ただ、別れるときは辛くなるかもしれないけど。

 担任の先生の言葉を受け止めた私たちは、2人で一緒に教室を出た。

 教室を出ると、ウミくんはそっと手を繋いでくれた。


「ほかに人がいる……」

「ずっとソラに触れたかったから、これくらい許して」

「もう……」


 私も、ウミくんと手を繋ぎたかったよ。

 さっきまで担任の先生には素直な気持ちを伝えることができたのに、ウミくんには恥ずかしさのあまり大切な言葉をしまい込んでしまった。


「ソラは何か部活入らない?」

「人間に生まれ変わったときの楽しみにとっておこうかなって」


 できれば、ウミくんと同じ学校に通いたい。

 できれば、ウミくんと同じクラスがいい。

 できれば、ウミくんが部活をやっている姿を目に焼きつけたい。

 できれば、できれば、が多すぎる。

 でも、それは多分、ウミくんも同じだって信じたい。

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